国際共同製作は必要悪か!? ヨーロッパのアニメーション動向 by 伊藤裕美 | アニメ!アニメ!

国際共同製作は必要悪か!? ヨーロッパのアニメーション動向 by 伊藤裕美

[取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)]■ 制作会社の誘致より、国際共同製作  フランス政府は09年に、制作の一部または全部をフランスでおこなう外国企業を支援する優遇策「TRIP国際税額控除」を導入した。

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取材・文: 伊藤裕美(オフィスH)

■ 制作会社の誘致より、国際共同製作

フランス政府は09年に、制作の一部または全部をフランスでおこなう外国企業を支援する優遇策「TRIP国際税額控除」を導入した。国内で支出される制作費総額の20%を上限として控除される。
また、Film France(フランス映画協会)は外国の制作会社が参入しやすい環境を整え、複数の地域圏が公的支援を担う。

「フランスでは外国企業も、フランス企業と同様の扱いを受けられる。例えば、25人以上を雇用すれば1人当たり15,000ユーロの助成金が提供される。しかし、アニメーションは資金力の弱い中小規模の企業が多く、開発や制作に時間を要するため、ゼロからスタートする企業は少ない」と、在日フランス大使館対仏投資庁日本事務所のクリストフ・グリニョン代表は語る。
進出する企業は「フランス市場の獲得を目的とする企業が多い」。日本からもオンラインゲームやモバイルゲームの開発会社がフランスへ進出しているが、ローカライズや営業拠点に留まる。フランスに拠点を置き、自ら乗り出して制作するより、フランスのパートナーを見つけて国際共同製作をする方がコンテンツには適しているようだ。

アヌシーのMIFA(国際アニメーション映画見本市)は「長編アニメーション映画の資金調達」のカンファレンスを開いた。長編アニメーション映画は成長ベクトルにあり、雇用を作り、技能技術を成長させ、ヨーロッパが世界市場を狙えるからだ。
しかし、ヨーロッパでも映画は基本的に資産価値が低く、“川上”で行われる制作資金の調達が議論された。その議論の一部を紹介する。


■ 国際共同製作は必要悪か!?

国際共同製作には文化と距離の差が横たわる。「国際共同製作とは、予算が増えるという良いことだけではない。制作が分散し、円滑なコミュニケーションのための移動時間が増え。ワークフローを管理するツールも購入しなければならない」と、フランスで130万動員のヒット作『Zarafa and U(Zarafa et U)』を製作したPrima Linea Productions(http://www.primalinea.com/index-basic.htm)のプロデューサーで、創立者のヴァレリ・シェルマンは指摘する。
しかもアニメーションは実写映画よりも制作費が高くなる。Les Armateursが製作した今年の話題作『Ernest & Celestine(原題 アーネストとセレスティーヌ)』の制作費は920万ユーロ、10億円近い。CNC(フランス映画・動画センター)の調査によると、01年から10年の間に製作されたフランスのアニメーション映画の制作予算で、実写映画の平均制作費300万ユーロを下るものはなかった(11年でも最低予算は280万ユーロを超えた)。
シェルマンは、「CNCはアニメーションに他のジャンルより手厚く支援する傾向があるが、長編アニメーション映画への割当金の増額や自動的助成などの基準を見直すべき」とする。CNC助成金で大きな比率を占める自動的助成は、過去4年間に最低でも3本の映画を制作していなければならないという基準が壁になる。税額控除の6ヶ月という期限も実体に則さない。

そこで資金調達には、配給のMG(分配金の最低保証額/劇場公開、ビデオ、国際販売)、無料地上波放送局、有料放送局、選択助成金(CNC、MEDIA、Eurimages – 09年からアニメーションへ拠出開始)、地域助成金(地域圏そして/または県レベルのファンド)が選ばれる。放送局は長編アニメーション映画への出資やプリバイへの意欲が低いか、内容やターゲットに対する要望が厳しい。
プロデューサーが国内だけで資金を調達するのはほぼ困難で、外国との共同製作が求められる。国際共同製作を“必要悪”と認め、なるべく上手に利用とする意見もある。
97年にルクセンブルグに設立され、ヨーロッパのアニメーション制作会社の古参であるStudio 352(http://www.studio352.lu/)の創立者ステファン・ロランツは、「共同製作は避けられない。『Ernest & Celestine(原題 アーネストとセレスティーヌ)』では、本作に必要なことから考え始め、自分たちが作りたい映画を実現するのに必要な金額を決めた。それから、資金調達の方策に取り組んだ。他の方法では失敗し、頓挫したと思う」とした上で、「共同プロデューサーはその場凌ぎでない。プロジェクトの最初から彼らを含めれば、単なる支持者以上の者」になると強調した。


[伊藤裕美]
オフィスH(あっしゅ)代表。
外資系ソフトウェア会社等の広報宣伝コーディネータや、旧エイリアス・ウェーブフロントのアジアパシフィック・フィールド・オペレーションズ地区マーケティングコミュニケーションズ・マネージャを経て1999年独立。海外スタジオ等のビジネスコーディネーション、メディア事情の紹介をおこなう。EU圏のフィルムスクールや独立系スタジオ等と独自の人脈を持ち、ヨーロッパやカナダのショートフィルム/アニメーションの配給・権利管理をおこなう。
/http://blogs.yahoo.co.jp/hiromi_ito2002jp
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