カンヌ国際映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭に出品され、デビュー長編映画にして高い評価を獲得した、門脇康平監督の長編アニメーション映画『我々は宇宙人』が、9月25日から公開される。
平成のある田舎町を舞台に、内気で“普通”であることに悩む少年・翼と、クラスの人気者で“特別”な存在の暁太郎の30年にわたる友情を描く青春ノスタルジーアニメーションである本作。
テレビアニメの監督経験もなく、初の長編アニメーション映画で世界の映画祭に認められる作品を作り上げた俊英は、どのようにして本作を完成させたのか。また、門脇監督はどんな人物なのか、本人に話を聞いた。

<プロフィール>
門脇康平/1996年生まれ。映画監督。アニメーション作家。東京藝術大学デザイン学科卒業後、アニメ制作会社に就職する。その後独立し、舞台映像やCMの制作を経て、MV制作を中心に活動するアニメーション作家になる。2026年公開劇場用アニメ『我々は宇宙人』では企画・脚本・監督を務め、第79回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品、アヌシー国際アニメーション映画祭2026では長編コンペティション部門選出が決まるなど、国内外問わず注目を集めている。
[取材・文=杉本穂高]
■観客の“感情の波”作りにこだわった脚本作り

――はじめに、本作の構想はどこから生まれたのか、教えてください。
自分の幼少期を何かしらの形でしっかりと残しておきたい、自分は絵描きだからアニメーションでそれをやりたいと、ぼんやりした構想は20歳を過ぎた頃から持っていました。そのときにはまだ具体的なストーリーはなく、断片的なイメージの段階でした。
それからしばらくして、4年前にプロデューサーの林さんと出会い、長編映画を作ろうという話になりました。そのとき持っていたイメージを映画にするためには感情の流れに沿ったストーリーが必要なので、中盤の大きな展開を起点にして組み立てていきました。
――中盤の大きな展開というのは、物語の視点が切り替わるあのポイントですか?
そうですね。それがまずあって、次に前半の起承転結、さらに小学校の各年代のエピソードの起承転結と細分化して組み立てています。一番大きな起承転結は企画書の時点で決めて、それから絵コンテ・脚本で細かく作りこんでいく流れです。

――幼少期のイメージから出発しているとのことですが、監督の具体的な実体験がエピソードに反映されているのですか。
自分の実体験からきているのは、全体の2、3割くらいですね。例えば初恋に関するエピソードは実体験からのものです。
――共感というより、よく覚えているなぁという情景が多い印象でした。脚本作りでこだわった点はありますか?
お客さんが2時間、眠くならずに最後まで興味を持続させるためには、面白い画を連発するだけでは足りないということに、制作序盤で気が付いたんです。
そこで、どう感情の波を作るのかというリズムにこだわりました。自分はジェットコースターに例えるのですが、ずっと速いだけでは飽きてしまうし、一番上で止まってから急降下するとか、人を楽しませるリズムがあるはず。物語にもきっとそれと共通するものがあるはずだと考えて、物語の緩急はかなり意識しました。
例えば、『千と千尋の神隠し』で千尋がそわそわと階段を下りているときに、ガクッと足を外して一気に加速するシーンのような。いろいろな映画を見て、どうやって感情のジェットコースターを作っているのか考えました。
そうやって作った脚本をプロデューサーに見せて「合格点」と言われるまで改稿を重ねていきました。
■作画監督と美術監督、さらにレイアウトから色彩設計も兼任

――本作はリアリスティックな映像が特徴ですが、このスタイルの絵にどう辿り着いたのですか。
作品に必要な情報量を入れたらこうなりました。まず、お客さんに子どもの頃の懐かしさを感じてもらいたかったんです。例えば、ランドセルってこういうところが壊れるよねとか、学校の机って角から傷んでくるよね、みたいな細かい情報から懐かしさを見つけてもらおうと考えました。
そういう懐かしさのトリガーを作中にたくさん散りばめておけば、それぞれのお客さんが何かしら引っかかって昔のことを思い出すんじゃないかと思ったんです。そのためには、背景も小物もキャラクターも情報量を多くしていく必要がありました。
――監督自身の絵柄がこういうもの、というわけではないんですか?
僕自身の絵柄の進化系ではあると思います。元々、こってりした絵を描くタイプなので。見せたいものに対して、執念深く食らいついた痕跡が出やすいというか。なので、自分の表現の最新バージョンという感じで自分らしいと思います。

――絵柄と語りたい物語が一致していますよね。そして、背景もキャラクターの作画も統一感があります。一般的な商業アニメとはそこが異なりますね。
背景の必要な情報量に対して、キャラクターが浮いた印象にならないようにしたかったので情報量を合わせる必要がありました。カラーグレーディング(色味の調整)も全カット自分でやって馴染ませましたが、その前段階で背景スタッフにもキャラクターを描く際のブラシと同じものを使って描いてもらうなどしています。
また、美術監督と作画監督、編集をはじめ複数のポジションを兼任しました。ポスプロ作業(映像編集の仕上げ)も頭から立ち会いをさせていただいたので、全体を通してトーンがちぐはぐになることを防ぐことができたかなと思っています。
――主要な作業のほとんどを監督が行っているからこその統一感ということですね。レイアウトもレンズを意識したものが多くてユニークですが、これは撮影の原図を使用しているわけではないんですか?
実写の撮影をしていますが、あくまで動きの参考用で、クローズアップのカットであっても全体を写しているので、レイアウトには使っていないです。
レンズを意識した絵作りについては、制作中はそれが自分の持ち味だと意識していなかったのですが、カンヌの取材でその点を言及いただいたので、「これが自分の持ち味だったんだ」と気付かされました。
レイアウトを決めるときにどのレンズを使うか考えるのがセットになっているので、自分の中ではいつも通りやってみたという感覚でした。でも、カンヌで「この作品は、演出意図に応じて望遠や広角を巧みに使い分けていて、オリジナリティがある」とさまざまな媒体に言っていただきました。

――レンズに詳しくないとできないと思いますが、門脇監督は写真撮影もやるんでしょうか?
この作品のロケハン用に一眼カメラは買いましたけど、それよりも、自分が好きで見る映画の8割くらいが実写なので、「こういう演出のときはこのレンズだな」みたいなことを自然と学んでいたんだと思います。
いつもレイアウトを作るときは、まず、対象をどれくらいの大きさで入れたいかから考えます。例えば、この大きさでひまわりを入れるなら、キャラクターはとこれくらいの比率で……、そうなるとこのレンズを使うべきだなといった感じで、先に描く対象をどれくらいのサイズで見せたいのかを決めています。
――なるほど。あと本作は動きもリアルです。実写の参考映像を撮影したとのことですが、どの程度それは画面に反映されているのでしょうか。
一部でロトスコープ(実写映像を元にアニメを作成する技法)を使用しています。参考映像は子ども時代のシーンも、大人時代のシーンも、ほぼ全カット撮影していて、時間がないときは自分で演じたりもしました。子ども時代のシーンについては、オーディションで選んだ子役たちに演じていただきました。
ロトスコープは、そのままトレースしても必ずしも狙った表現になるわけではないと感じていました。例えば、子どもが子どもっぽく見えなかったり、女性の肩幅が実際より大きく見えてしまったり限界があるので、アニメーションとして表現を調整する必要があります。
一方で、子ども特有の無駄な動きや独特な走り方など、実写だからこそ捉えることができる偶発的な動きについては、ロトスコープを活かすことで作品のリアリティが増すと考えました。軸になる体の動きはロトスコープで描いて、その上から、服や髪の毛はある種アニメーションらしい表現を用いながら気持ちよくなびかせることで、実写とアニメーションのそれぞれの良さを活かしたハイブリッドな描き方ができたと考えています。

――実写撮影も監督が自分で指揮しているのですか? キャラクターの芝居、動きについては実写の段階である程度決めたのでしょうか。
そうですね。ただ、子ども特有の無駄な動きは、細かく指示すると逆効果になるので、状況だけ説明して子役の方に自由にやっていただきました。
こういう不規則な動きは、基礎があればあるほど難しくなるというか、無駄な動きって作画の基本から外れるものだと思うので、ロトスコープがメリットを発揮しやすかったというのはありますね。
■シネフィルを思わせる監督のルーツは…王道?

――門脇監督自身について質問ですが、影響を受けた作家や作品は何ですか?
『ドラえもん』映画とジブリ作品、それから80年代の映画ですね。マンガなら『NARUTO -ナルト-』、絵画なら印象派の時代と17世紀の写実主義に、小中学校の頃、憧れてました。
80年代映画は、父親の影響です。『ターミネーター』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、それからジャッキー・チェンやブルース・リーも好きでした。
――わりとメジャー志向ですね。
そうなんですよ。自分はどちらかというと、その時々で世間で話題にで評判になっている作品を順番に世界中の映画を見ている感じです。韓国映画なら『パラサイト 半地下の家族』とか、日本映画なら是枝裕和監督の作品とかですね。
――実際、本作はわかりやすい作品だと思いました。
ありがとうございます。多くの人が「難解でついていけなかった」と言っている映画は、自分も大抵ついていけてないので、そうならないように心がけました。
――なるほど。最後に、本作の見どころがあればお願いします。
この作品には、「懐かしい」と感じていただけるものを何個も散りばめました。皆さんが小さい頃に集めていたアイテムなどもスタッフが頑張って許諾をいただき、あちこちに登場させています。一回の鑑賞では全てを見つけることは難しいと思うでので、ぜひ見終わったあとに友達と何個くらい見つけることができたか盛り上がってほしいです。もちろん、お一人で楽しんでいただいてもいいですし、鑑賞するたびに新しい発見があるのではないかと思っています。

【作品概要】
『我々は宇宙人』(英題:『We are Aliens』)
公開日: 9 月 25 日(金)全国劇場公開
配給 : TOHO NEXT・NOTHING NEW
企画・監督・脚本: 門脇康平
キャスト: 坂東龍汰 岡山天音
山﨑天(櫻坂 46) 松井ケムリ
槙木悠人 中込佑玖 鈴木咲 末永陽
音楽: Yaffle
主題歌: adieu 「ささくれ」 作詞・作曲:Yaffle (Sony Music Labels)
企画・製作・制作: NOTHING NEW
協力 : MIYU PRODUCTIONS
(C)NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS









