味方なのに敵― フィールドの悪役・馬狼照英は「ブルーロック」の面白さを象徴する男だ | アニメ!アニメ!

味方なのに敵― フィールドの悪役・馬狼照英は「ブルーロック」の面白さを象徴する男だ

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第32弾は、『ブルーロック』より馬狼照英の魅力に迫ります。

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『ブルーロック』書影
  • 『ブルーロック』書影
  • 『ブルーロック』第14話「天才と凡才」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
  • 『ブルーロック』第19話先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
  • 『ブルーロック』第18話「主役の座(ステージ)」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
  • 『ブルーロック』第17話「ヘタクソ」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
  • 『ブルーロック』第16話「三者融合(トライ・セッション)」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
  • 『ブルーロック』第15話「喰」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
  • 『ブルーロック』第3話「サッカーの0」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。
    でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第32弾は、『ブルーロック』より馬狼照英の魅力に迫ります。

■『ブルーロック』が描く“エゴ”の世界

TVアニメ『ブルーロック』キービジュアル(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

『ブルーロック』は、「エゴ」をテーマにしたユニークな作品だ。

サッカーは11人のチームスポーツであり、一人ではできない。それ故に、サッカーを題材にした作品は、仲間との絆やチームワークの大切さが描かれることが多い。

その和を尊ぶ姿勢は日本人の美徳だが、それが世界的に通用するストライカーが日本から生まれない理由だと、『ブルーロック』では説明される。たしかに、世界には、「俺が点を取るんだ」という強い意思を持った選手がたくさんいる。

そんな現実の日本サッカーの課題を絡めつつ、デスゲームの要素を加味したユニークな設定の本作は、スポーツアニメ・マンガの中でも特異なストーリーを生み出した。

エゴを求めるなら、チームメイトもある意味「敵」である。実際にこの作品では、チームを組ませても、チーム内での競争を煽る仕掛けが随所に施されている。

本作の登場人物は、みな一様に自分たちの武器を磨き、世界一のストライカーになろうとエゴを剥き出しにする。そんな中でも、一際わかりやすいほどにエゴイスティックなのが、馬狼照英だ。

彼は、自ら「フィールドの悪役」を名乗るようになるが、そのプロセスが『ブルーロック』という作品の魅力を、実に見事に象徴していると思うのだ。

『ブルーロック』第3話「サッカーの0」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

■主人公とチームメイトになり、「悪役」として目覚める男

本作の主人公である潔世一に、ストライカーのエゴとは何かを最初に見せつけるのは、馬狼だ。

一次選考で潔はチームZのメンバーとして馬狼のチームXと対戦する。各々の主張がぶつかり合いバラバラだったチームZに対して、チームXは馬狼の強烈な自己主張と実力によってまとまりを見せており、全てのチームメイトが馬狼のためにパスを出すようなチームとなり、「エゴとはこういうものだ」と見せつける。

そんな彼のチームは、一次選考で3敗を喫し敗退するのだが、1人で10ゴールを叩き出した馬狼だけは2次選考に残る。まさに、チームメイトはどうでもいい、俺だけが輝けばいいのだという不遜な態度の結果と言えるが、10ゴールという結果は、凪誠士郎と並んで一次選考リーグの最多得点であり、文句のつけようがない結果だ。

強靭なフィジカルを武器に、独力で得点する力を持った馬狼に対して、潔の能力は空間認識能力とダイレクトボレー。その個性はチームメイトがいなければ活かせない。そんな対照的な能力を持つ2人が再び相まみえるのは、より個人の力が重要視される2次選考の時だ。

『ブルーロック』第16話「三者融合(トライ・セッション)」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

紆余曲折あって同じチームとなった馬狼と潔は、ここでエゴとエゴのぶつかり合いを演じる。個人技での無理な突破ばかりを試みて失敗続きの馬狼に対して、自らの武器を研ぎ澄ませた潔は、立場を逆転させる。今まで決してパスを出さなかった馬狼は、潔にパスを「させられてしまう」のだ。それはエゴとエゴの勝負で馬狼が初めて負けた瞬間であった。

今まで、自分はフィールドの王様=主役だと信じて疑わなかった馬狼が、この時初めて「脇役」にさせられてしまうのだ。これ以上ない屈辱である。

『ブルーロック』という作品の面白さはここにあると思う。対戦相手として戦って、力の差を見せられて挫折する展開は良くあるが、チームメイトになって挫折させられるのは珍しい。

しかも、馬狼の出したパスからゴールが生まれているのだ。チームは勝利に近づいているのに、馬狼は膝を付いて崩れ落ちてしまう。こういう時は、むしろプレースタイルが広がり成長したという描写になることが多い。例えば、『SLAM DUNK』の流川が山王戦でパスを覚えて沢北と互角になるように。

しかし、馬狼はここからが面白い。主役、脇役、敵役、どれも物語には欠かせない。主役がだめなら悪役があると馬狼は気づいたのだ。パスを出してしまった瞬間、主役の座から引きずり降ろされ、脇役へと転落した馬狼は、この役割は俺のものじゃないと、新たなポジション「悪役」へと成長していく。

『ブルーロック』第17話「ヘタクソ」先行場面カット(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

そして覚醒した馬狼は、「フィールドの悪役」となり、味方も敵も喰う存在となる。主人公とチームメイトの時に悪役として覚醒するのが、『ブルーロック』という作品の面白さを象徴している。ストライカーのエゴを求める戦いにおいては、敵は対戦相手だけではない、味方も敵なのだ。

馬狼の悪役としてのプレーは、味方すら混乱に陥れる異様なものだが、それは対戦相手にも予想できないトリッキーなものとなる。「悪役」馬狼のプレーは、主人公のゲームプランを破壊しているが、同時に対戦相手の予測も超えて、それが膠着したゲームを打開したりもする。「フィールドの悪役」は、味方と対戦相手、同時に粉砕するのだ。

『ブルーロック』の面白さを体現する男。それが馬狼照英だ。エゴ剥き出しのプレースタイルから想像もできないプライベートでの几帳面さを含めて、とても愛おしくなる男である。

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(C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

第18話 主役の座(ステージ

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《杉本穂高》
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