■伊藤さん、小笠原さんオススメ回は? 美麗3DCGの制作秘話も
――序盤1話から3話にかけてArgonavis結成が描かれますが、各メンバーの心の動きをどう描こうとされましたか?
錦織監督:シリーズ構成の毛利亘宏さんが、各話ごとにキャラクターが乗り越えるべきハードルを設定してくるんです。
それをどうやって乗り越えるかを決めるわけですが、キャラクターをその状況・シチュエーションに放り込んだ時に、どういう行動を取るかは、絵コンテを切りながら詰めていきました。
――物語展開にあわせて都合よくキャラクターを動かすのではなく、そのときどきのキャラの感情面を大事にされていたんですね。演出面で肝となったエピソードやシーンはありますか?
錦織監督:4話でArgonavisというバンドが5人として固まるのですが、ちゃんと足並みがそろうのは10話で「AGAIN」を歌うところと、12話のディスフェスステージに上がる前で円陣を組むところです。
もともとそこを結束ポイントとして描こうと狙っていたのですが、自然と“描けた”ということが嬉しかったですね。
とくに12話の円陣のシーンは、アフレコ済みの音声を聴いたうえでアニメーターが表情付けを行ったのですが、出来上がったものを見て「ああ、これだ」と手応えを感じました。
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――ストーリー・音楽などはもちろん、全編3DCGで描いたことも本作の特徴だと思います。映像面でこだわった点、苦労した点は?
錦織監督:見せ場もであるライブシーンは、モーションキャプチャーの良さをしっかり取り込めたと思います。とくにメンバー同士がシンクロし合って感情が高まっていくさまを鮮明に描けたのが良かったです。
――ちなみに、音楽モノでは「日常パートは2D作画、ライブシーンのみ3DCG」というパターンもよくありますが、全編3DCGで描くことにしたのはなぜですか?
錦織監督:日常シーンは2D、ライブシーンは3DCGと分けてしまうと、どうしてもライブシーンだけMV的というか、そこだけ独立したものになりやすいんです。
全編3DCGにしたのは、あくまでも本編の流れとして自然に展開させたくて、「ライブシーンはカメラワークや照明も凝っていて派手、でも本編はそうじゃない……」というのは避けたかったからです。
――ストーリーや映像など、全話見どころが詰まっていましたが、特に印象深かった回、シーンなどがあったら教えてください。
伊藤:えー、決められない! 全部って言いたい!(笑)
小笠原:全部ですね~……!
でも、あえて言うならば、10話でArgonavisが「AGAIN」を演奏したシーンです。Argonavisのメンバーひとりひとりの表情を映して、最後に万浬の満面の笑みにカメラが回り込んでいくという流れが、構成としてとても美しかったです。
あの時、このアニメのライブシーンで初めて誰か個人の目線のアングルになったカットだったと思うんです。でもそれが、蓮じゃなくて万浬だったのが、個人的にすごく“エモ”を感じる瞬間でした。
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GYROAXIAの宮内告典くんから、ドラムは一番後ろで演奏するから、みんなの背中を見て安心したり、支えてやりたいという気持ちになると聞いたことがありました。
万浬ってそれまでけっこうドライな態度を取っていましたが、あのカットを見た時に、万浬はメンバーのこういう姿を後ろから見ていて、それによって彼が抱えていた不安や悩みも軽くなっていったんだな……ということがわかりました。
展開自体は台本を読んで知ってはいたけど、演出が加わることで味わいが深まって、大号泣してしまいました(笑)。
――錦織監督はこのシーンをどういう風に演出されようとしたのでしょう?
錦織監督:ライブシーンの曲は、尺の問題でどうしても1コーラスになってしまうのですが、編集が作ってくれた10話のライブシーンのコンテを見た時に、「AGAIN」はフルコーラス入れようと決めました。
仁くんが言ってくれた通り、他の4人のメンバーの絆が固まって、それに万浬も本音を打ち明けることで合わさっていくという流れを、「AGAIN」という楽曲に託した形です。
そういう意味で言えば、万浬を描くだけでなく、「Argonavis」メンバー全員の絆が集約されたシーンにできたと思います。思い出深い回になりましたね。
伊藤:仁くんがArgonavisを挙げてくれたので、僕はGYROAXIAのシーンにしますね(笑)。
8話で、那由多がバンド練習中にもがいているシーンです。歌い過ぎて息を切らしていたら、メンバーに「休もう」「無理しちゃいけない」と言われている姿を見て、そこで那由多の人間味を急激に感じました。
小笠原:先日発売されたノベライズ『ARGONAVIS from BanG Dream! 目醒めの王者』で、那由多の「慢性的な喘息持ち」という設定が初めて公式発表されました。
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僕はオーディションの時からその設定を知らされていたのですが、個人的にそれがずっと演じるうえでの指針になっているんです。
どうにもならない人間的な弱さに煮えたぎるような怒りがあって、それにもがいている中で蓮という自分と並び立つ実力を持つ相手に出会ってしまった。だから焦燥感もあるはずです。
那由多はだんだん設定が明らかになっていく中で、さらに人間味が増していくキャラクターだと思います。
伊藤:あと印象的なエピソードでいうと、作中の話ではないのですが、蓮が8話までの間に「うん」と言ったシーンをまとめた通称「うん動画」というものがあるんです。
それを見て「こんなに“うん”の表現が違うんだ」と我ながら感心しました。
Argonavisが結成したばかりでメンバーに言う「うん」と、アニメ終盤の結束が固まってからの「うん」を比べてみると、まったく言い方が違うんです。
小笠原:同じセリフでも、そのときの感情や相手との関係値によって変わってくるということだよね。だから「うん動画」は、演者にとっての演技資料にもなると思います。
伊藤:自分で見てもけっこう安堵しました。「(表現が)ちゃんと変わってる……!」って(笑)。
小笠原:逆に全部一緒だったらヒヤッとするよね(笑)。
伊藤:実は、アフレコ現場では「うんの幅を広げよう」って何度も言われていたんです。
小笠原:そんなこと言われてたの!?
伊藤:そうなの。でも、「同じうん」だしな~って、毎回悩んでて。でも最終的に理屈で考えるのをやめたらうまくいくようになった。ちゃんと会話を聞いたうえで出た「うん」が一番良かったんだよね。
錦織監督:その努力もあってか、現場でも「“うん”で語る七星」と言われるほどになっていました(笑)。
■ファンと一緒に楽しんだアニメ、Sound Only Live
――毎週生配信を行ったり、Twitterに感想をつぶやいたりしていますよね。恐らく、ファンの方からも多くのコメントが寄せられたと思うのですが、特に反響が大きかった回はあるのでしょうか?
伊藤:それこそ、Argonavisの楽曲「STARTING OVER」を那由多も一緒に歌った8話じゃないですかね。
錦織監督:そうだね。ビックリしたというコメントが多かった。
伊藤:でも、最終話はもっと反応が来るとは思いますね……。
小笠原:すでに収録しましたが……今でも思い返すと「ん!? あ!? え!」ってなりますもん(笑)。
錦織監督:「14話早く!」ってなると思います(笑)。
――どんな最終話か気になるところですね……! そのほかファンの方のリアクションで印象的だったものは?
小笠原:7話のエンディングで「LIAR」が初お披露目されたので、その瞬間Twitterでもたくさんの感想が届いたんです。
でもその後のエピローグで万浬がトラックに轢かれるという衝撃的な展開があって、みんな万浬のことしかつぶやかなくなったんですよ! もちろん、万浬のことが心配なのはわかるんですけどね!
「新曲だー!」から「万浬―!」とコメントの流れが変わったのがとても印象的でした(笑)。
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あともうひとつ2話でありました。
航海が書いた詞を凛生が受け取り、その後彼が一気に作曲してできた楽曲が「ゴールライン」で、さぁみんなで演奏シーンするぞ……という流れがありましたが、ファンの方から「曲作るの早過ぎ!」「練習なしに演奏できるんだ!?」というツッコミのコメントが面白かったです。
僕ら世代は『けいおん!』(※)で慣れてしまっていたので、そういうコメントが来ることにちょっと驚いてしまいましたね(笑)。
※かきふらいによる4コママンガ作品。廃部寸前の軽音楽部のメンバー5人を中心とする学園コメディー。2009年4月から深夜帯でTVアニメが放送
小笠原:『けいおん!』は気付いたら新曲があって、すぐにみんな演奏できていたので、Argonavisも「当然演奏できるよね」と思ってしまった。
でも、それに対して「みんな天才過ぎるだろ!」というコメントがついていたので、「僕とは違う世代の方がつぶやいているのかな」と時代を感じてしまいました。
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伊藤:仁くんとは別の理由で、僕は違和感なく見ていました。
シンガーソングライターとして活動している時、サポートメンバーにデモを渡すと、即興ですぐに演奏してくれるんですよ。
なので、「Argonavisもそれくらいの技術を持ったメンバーが集まっているんだな」という気持ちで見ていましたね。
――Sound Only Liveもネット配信だったので、こちらもリアルタイムで多くの感想が来たのでは?
伊藤:たくさんコメント、感想をいただきました!
また、自分でも客観的に聴いて感想をつぶやいていたので、不思議な感覚になりましたね。
本来だったら、自分がステージに立っているはずだったので……。お客さんと同じ曲を聴いて、SNSで一緒に楽しめるのはかなり新鮮な体験でした。
リアルタイムで感想を追えるので、「こういう見方でこの曲を捉えてるんだ」と知ることができました。
小笠原:約2時間かけて、ファンの方からのアンケートをずっと見ていた感じです。演者としてはものすごく実りのある企画でした。「こういうことを求められてたんだ」とか「この曲ってここでそんなに盛り上がるんだ!」とか、意外な発見もありました。
今後のリアルライブにかなり活かされてくると思います。
伊藤:あと、聴いていて、たまらなくライブしたくなりました!
小笠原:ね~!
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