■「ジュリアとリュウオウは同じ辛い過去を持っている」(泊)
――おふたりが演じている葛飾ジュリアと江戸川リュウオウは、まさに「奴隷」と「主人」という関係ですが、それぞれどんなキャラクターだと捉えていますか?
千本木
ジュリアは歌舞伎町のキャバクラで働いている女の子です。幼い頃に両親を失ったせいで、男の人と付き合うことで「誰かに愛してほしい」「認めてほしい」って寂しさを埋めていた過去があるんです。だからすごく依存体質なところがあって、リュウオウにとことん奴隷として洗脳されちゃう。
でもリュウオウのことが分かってくるにつれて、彼を「守らなきゃ」「そばにいてあげなきゃ」と奴隷以上の気持ちが芽生えるようになっていくという。
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――主人公の荒川エイアがわりと表面的にクールでカッコいいキャラクターのせいか、むしろジュリアのほうがヒロイン的な要素を感じさせますよね。
千本木
そうですね。雰囲気的に妖艶で女の子っぽいところがあるので、分かりやすいヒロイン感はあるのかなって思います。
泊
お店で人気No.1キャバクラ嬢ですしね。女の武器を使ってるみたいな。(笑)。
千本木
武器って(笑)。本人には、したたかさなんて全然無いんですよ。だから歌舞伎町で飲んだくれてたNo.1ホストのセイヤを介抱するときも、「あっセイヤだ!」と打算があって行くわけじゃなくて。
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泊
そうだったら話が変わってきちゃいますよね。タイトルが『ジュリアの歌舞伎町No.1ホステスの道』みたいな。
千本木
それはそれでちょっと観てみたい(笑)。
――一方、泊さんが演じる江戸川リュウオウはどうでしょう? 子どもでありながら、大人顔負けな頭脳の持ち主です。
泊
たしかに頭が良くて大人びているけど、家庭の事情で本人が望まないで大人にならざるを得なかったという過去を持っているんです。
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千本木
リュウオウとジュリアってすごく似ている家庭環境にあって。ジュリアは親を早くに亡くして、リュウオウはネグレクト(育児放棄)にあっていたという。
泊
でも、リュウオウは大人かというとそういうわけではなくて、SCMのゲームに参加したのは「お母さんとの関係を取り戻したい」という健気な目的がある。
なので倉谷(涼一)監督ともお話しましたが、演じるにあたって「子どもっぽい純真さを大事にしよう」と心がけました。ちゃんと子どもっぽい、だからこそ怖い、という。
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――原作を読んでいても、ふたりの関係はすごく複雑な感情が入り組んでいるように感じられます。特にジュリアのリュウオウへの感情はそうだと思いますが、千本木さんはそのあたりをどう整理して演じていますか?
千本木
たしかに原作を読んだときは、恋愛的な感情もあるのかな?って思いました。でも次第にリュウオウを「守ってあげたい」「そばにいてあげたい」という気持ちがジュリアの中にあるように思えてきた。
自分の体験から、彼女はリュウオウの気持ちがすごく分かるんですよ。そこにSCMの奴隷としての感情が重なってくるんですけど、あくまで恋人ではなくて家族としての「好き」という感覚で演じました。
■「リュウオウのグループはなんだか家族みたい」(千本木)
――アフレコの中で苦労されたところはありましたか?
千本木
オーディションのときは、「大人な感じの雰囲気でやらなきゃ」と少し低めの音域で演じていたんですけど、監督から「もっと可愛い感じでも大丈夫」とディレクションをいただいて。それはちょっと意外でしたね。
そのうえで妖艶さを出しつつ、リュウオウに対して陶酔しているような感じでのめり込むような演技に苦労しました
泊
リュウオウは先ほどお話したような子どもっぽさですね。私の地声はちょっと低めなので、少し油断するとすぐにリュウオウが大人びちゃう。
でも、大人びた部分も出さないといけないので、キーの高さで調整するのではなく、リズムやしゃべり方で表現するように心がけました。
――物語が進むにつれてキャラクターの成長も描かれていきますが、その変化は演技に影響を与えましたか?
千本木
ジュリアの場合は、リュウオウの奴隷になる前と後で違う、という感じでしたね。奴隷になる前は普通の女の子に近い感じなんですけど、奴隷になってからはもう一直線で。もっと自分を見てくださいって、自発的にタトゥーなんて入れてますから(笑)。
泊
あれはリュウオウも若干引いてた気がします(笑)。「この女、ここまでするのか!」みたいな。
――リュウオウの場合はいかがですか?
泊
リュウオウはあまり自分の感情を出さないというか、壁があるような感覚で演じました。その壁をだんだんと薄くしていくわけですが、ストーリーに合わせて加減をすり合わせていく作業が難しかったです。
私がちょっと薄くし過ぎると「まだそこまでじゃないかな」とディレクションをいただくような感じで。きっとリュウオウはジュリアの献身ぶりを見ても、SCMのせいだと思って、本当の意味で彼女の思いをまだ理解できていないのかなって。
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千本木
同じグループのみんなとの関係が深まっていくにつれて、気付きはじめるんですよね。リュウオウの周りの人って、本当に優しい人たちばかりだから。
――疑似家族みたいな雰囲気がありますよね。
千本木
そうなんですよ。そういう面はストーリーの後半に行くにしたがってすごく感じました。とくに(中央)アタルなんて“良いお兄ちゃん”っていうキャラクターですもんね。
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泊
アタルを演じている小西さんがまた素敵な兄貴キャラで、現場の雰囲気を良い感じに作ってくださるんです。私がちょっと喉の調子が悪いときに、「コレ良いから使いなよ!」と貼るタイプのトローチをくれて。優しさがスゴイ……。