「リズと青い鳥」山田尚子×武田綾乃インタビュー「身を潜めて少女たちの秘密をのぞき見るイメージ」 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「リズと青い鳥」山田尚子×武田綾乃インタビュー「身を潜めて少女たちの秘密をのぞき見るイメージ」

映画『リズと青い鳥』より山田尚子監督と原作・武田綾乃さんにインタビューを敢行。原作と映画の両面から、作品の生まれた背景をうかがった。

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(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
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■「人の無意識を色々な要素を使って揺さぶりたい」(山田)



――武田さんは山田監督について、どんなイメージを持っていましたか?

武田
ご本人を前に何と言ったらいいか……。

山田
思っていることをそのまま言っちゃってください!

武田
(笑)。私はいつも無意識とか、無造作とか、そういうものを小説で書きたいなと思っているのですが、それって文字で表現することがすごく難しいんです。でも山田監督は、私が書きたいものをフワッと魔法の手のように美しく描いていらっしゃって。いつも作品を観ながら、すごいなって感動してます。

山田
ありがとうございます。人の無意識を揺さぶりたい、という気持ちはすごくありまして。音楽や絵画、映画などで心を動かされた体験がたくさんあって、「何で心を動かされたんだろう」という疑問を日々研究している感じといいますか。
武田先生だったら言葉を尽くして表現できるものを、私は色や音、空気、時間などを色々と使ってやっと表現できている気がします。

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――実体験で受けた感覚を自分だったらどう描くか、いつも咀嚼しながら蓄積しているんですね。

山田
たぶん作るということにずっと憧れや尊敬があるんだと思います。たとえば「寒い」を表現したい時に、キャラクターに「寒い」と言わせたらダメだっていう価値観が頭の中にあって。なので、「寒い」と表現するためには何が必要かということをいつも考えてます。

――本作で描かれるみぞれと希美の関係性ですが、武田さんは『波乱の第二楽章』のふたりについて、どういった着想で書かれたんですか? 

武田
第2巻の頃から、みぞれと希美が互いに向けている感情ベクトルはずれてるな、という感覚がずっとありまして、その変わっていく様を書きたいと思っていました。彼女たちのお互いに対する感情は、常に固定ではなくどんどん変化していて、それが良くも悪くも異なる方向に動いていくという。
じゃあ作品として、どうやって上手く絡められるかなって悩んでいた時に、“リズと青い鳥”という自由曲をテーマに活かせたらなと思い浮かんで、物語を組み上げていった感じです。

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――原作を読んでいて、みぞれの「私、希美のこと、大好き」っていう言葉に対して、希美の「私も、みぞれのオーボエ大好き」という台詞がすごく印象に残りました。

武田
いつも小説を書いていると、キャラクターが勝手に動き出す感覚があるんですけど、あの時の希美はきっとそれが精いっぱいの誠意だったのかなと思います。みぞれに対して自分のできるMAXまで歩み寄って、認めるところは認めたい、という気持ちがポロっと出たのがあの台詞なのかなって。まさに振り絞った感じだと思います。

■「身を潜めて少女たちの秘密をのぞき見るイメージ」(山田)



――その2人の関係性を映画化するにあたって、山田監督は絵作りの面で何を心がけていましたか?

山田
女の子ふたりの思春期の日々に全力で寄り添っても良いというプロジェクトでしたので、石原監督の本編があるという安心感の下に、本当に夢中になって少女たちの機微を撮り切ろうと思ってました。
今回のお話は視点がどんどん切り替わっていくので、みぞれと希美、それに周囲の3つの目線を意識しています。身を潜めてのぞき見るような感覚で、女の子の秘密のお話を撮り逃さないように意識を集中していました。

――みぞれと希美の関係性の変化について、主人公の久美子が気付きを促していた原作に比べると、本作は登場キャラクター数を絞っているように感じました。

山田
やっぱり本人たちの問題であってほしいという気持ちがありました。彼女たちがいっぱい悩んでいっぱい考えた思いを、第三者にすっと引き出されるよりは、自分から吐き出してほしいなって。そういう意味でも身を潜めて撮ることで、誰にも見せたくない内緒話を彼女たちに打ち明けてもらいたかったんです。

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――ちなみにお二人はみぞれと希美のどちらに共感しますか?

武田
『波乱の第二楽章』を書いている時は、けっこう希美寄りになっていた気がします。私と久美子はまったくの別人格で、執筆中も久美子と私では世界の見え方が違うんですが、たぶん久美子はみぞれ寄りの目線なんです。
だから久美子がみぞれをかばうたびに、私は「希美もそんなに悪い子じゃないのにな」と思ってました(笑)。

山田
私はみぞれと希美にしろ、リズと青い鳥にしろ、飛び立つ方の気持ちは分からないけど、執着してしまう側の湿っぽいしみったれた感じはよく分かる気がします。
ただ、希美ってなんだか演歌っぽいなあって思うんですよ(笑)。いっぱい悩んだり思ったりして色々考えているのに自己完結している。しかも相手にはそれがちゃんと重くのしかかっていて、一緒に悩ませたりとかしていて。

武田
たしかに周囲を巻き込んでますよね。オブラートに包んで言っているわりに影響力があるというか。

山田
そうなんです。相手に何かを求めていそうなのに、まるで自己完結してるみたいに話すところがほっとけないというか、気になって仕方がないんですよ。一方、みぞれはみぞれで希美以外に一切興味がなくて、潔さが男前だなあって思うんです。

武田
(笑)。むしろ希美のほうが庇護欲を掻き立てられますよね。すごい頑張ってるのに……。

山田
しかも色々と言葉を尽くしてるのに、いっぱいミスをしてる感じがします(笑)。

■「静かできれいで波打っている青春を浴びているような作品」(武田)



――みぞれと希美の関係について、武田さんの実体験は含まれているんですか?

武田
キャラクターを作る時は、いつも私の友人や知人から、色々なパーツを抜き出して組んでいくんですけど、やっぱり学生時代を思い返してみると、色々とままならない友達関係を目撃することがあって。「なんでそんな風になってるんだろう」という気持ちが、みぞれと希美の関係性に表れたのかも、と思うことがあります。

――具体的なシチュエーションはありますか?

武田
ちょっとしたことなんですけど、5人とかで電車の帰り道にしゃべっていて、そのうちのひとりとは仲が良いけど、他の子とはそれほどみたいな……。自分がしゃべったことでちょっと気まずくなって寂しいな、という。そんな気持ちかもしれません(笑)。

山田
すごく上手に書かれてると思います。何をしゃべったらこの人喜ぶんだろう、みたいな。そういう時、何をしゃべっても刺さってる気がしないんですよね。

武田
手探り感がありますよね。ああいう感じが出ている気がします。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
――武田さんは、今回実際にフィルムをご覧になられていかがでしたか。

武田
これまでTVアニメシリーズでも、自分が書いたものと映像って全然感じ方が違っていたんですけど、今回の『リズと青い鳥』はさらに世界観が独立していて。静かできれいでちょっと波打っている青春みたいなものをギュッと閉じ込めて、それを直に浴びているみたいな感覚でしょうか。
こんな言葉にしかできないんですけど、自分が書いた作品を色んな切り口で描いていただけて本当に感激しました。

――特にリズと青い鳥の童話パートは映画独自の表現で、小説とはまた違う見え方もありました。

武田
新鮮な気持ちになりますよね。リズと青い鳥の童話部分は、小説の中だとあらすじをしゃべっているような流れになっているので、映像になるとこんな風に見えるんだって思いました。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
山田
今すごく緊張しております……。映像化すればどうしたって自分側の解釈が入ってしまうわけで、それに対して原作者の方がどう思われているかを考えると、もう何も言えないなって(笑)。

――山田監督は映画を作るうえで、プロットに書かれていた言葉を手がかりに拾っていかれたのかなと思うのですが、その中で一番大切にした言葉はありますか?

山田
TVシリーズの時は、久美子が見ているゴミとかホコリとかをすごくチェックしたりしてましたが……。

武田
たしかに(笑)。すごく描写が出てきますよね。

山田
はい。そういう描写からイメージをいただいたんですけど、今回はなんかそういった周りの雰囲気というよりは、希美の「物語はハッピーエンドが良いよ」という心情にガツンと刺激をいただいたので、そこに寄りかかっていた感じですね。
《小松良介》
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