第一次大戦を駆け抜ける少年をファンタジックに描いた「ADAMA」 TAAF2016長編コンペ作品 | アニメ!アニメ!

第一次大戦を駆け抜ける少年をファンタジックに描いた「ADAMA」 TAAF2016長編コンペ作品

兄を追って第一次大戦を駆け抜ける少年をファンタジックに描いた「ADAMA」の魅力――TAAF2016長編コンペティション作品

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第一次大戦を駆け抜ける少年をファンタジックに描いた「ADAMA」 TAAF2016長編コンペ作品
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本格的な国際アニメーション映画祭として、3月18日(金)から21日(月)までTOHOシネマズ日本橋にて開催されている「東京アニメアワードフェスティバル2016」(TAAF2016)。初日となる18日には長編コンペティション作品『ADAMA』が上映され、上映後にはトークセッションが行われた。

12歳のアダマは西アフリカにある辺境の村に住んでいた。村を取り囲む巨大な壁ーー壁の向こうには“ナサラ”と呼ばれる存在が支配する“風の世界”があるという。ある日、兄のサンバが壁の向こうへ旅立った。アダマは兄を連れ戻すため、村人の制止を振り切って壁の向こうへ飛び出していく。
『ADAMA』の監督はSimon ROUBY。1980年にフランス生まれ、現在35歳。パリのゴブラン芸術学校とロサンゼルスのカリフォルニア芸術大学(カルアーツ)に学ぶ。

本作は約5年前、監督が30歳の時に構想をはじめたのだという。一見するとフォトリアルだが、映像の質感はクレイアニメのような温度感があり、カメラから遠い人物などは油彩タッチで表現するなど、カット毎に発見のある画面作りが印象的。キャラクターはまず粘土で頭部および上半身を作り、あらゆる方法から撮影してアニメーションに落とし込むという非常に珍しい手法、それにより独特の肌の質感を生むことに成功している。
動きは極端に滑らかにするのではなくコマを意図的に落として、アニメーション的な動きの処理が施されている。エフェクト表現も独創的だ。水槽の中にある砂を水流で巻き上げ、撮影し、それを“砂嵐”として本作でしようしたり、影となるキャラクターを砂鉄によるサンドアートで表現するなど、ある種、アナログな特撮的エフェクトをアニメーションに緻密に取り込み、違和感なく表現しているイマジネーション溢れる作品だ。

トークセッションでは映像研究家の叶精二氏がモデレーターを務め、長編コンペティション作品の選考委員を務めた小出正志が登壇した。
この日、長編コンペティション作品で上映されたのは『ADAMA』と『CAFARD』。どちらも戦争、しかも第一次世界大戦を描いていることから、選考にあたって“戦争”というテーマ性が重視されたのか、という話題が上がった。結果的にテーマが重複しただけであると小出氏は述べた。
叶氏は昨年日本が戦後70周年を迎えた際に多くの戦争(をテーマとした)映画が制作・公開されたことを挙げ、「第一次世界大戦も今年でちょうど100年。ヨーロッパの国々にとってはこうして多くの作品が出て来るくらい大きな出来事だったと言うことだと思います」とコメントした。

『CAFARD』は第一次世界大戦における東部戦線、本作『ADAMA』が第一次世界大戦の中でも特に多くの死者を出したヴェルダンの戦い(フランス/ドイツ両軍合わせて70万人)をモチーフにしているという点にも2人は注目。
叶氏はSimon ROUBY監督が30歳で本作の構想を始めたことを知り驚いたという。また小出氏は、日本ではさまざまな理由から作られづらいこうした“社会性を持ったリアルな戦争もの”が海外で制作されている点を評価しており、日本で上映されることの意義を語った。

アニメーションのルックについては、小出氏は「油彩よりアクリル画に近い印象」と、ロシアのアニメーション作家であるアレクサンドル・ペトロフを引き合いに出し語った。また白人監督が黒人を描くという観点で、叶氏が『キリクと魔女』や『アズールとアスマール』(共にミッシェル・オスロ監督作品)を例に挙げたことも印象的だった。
制作現場や技術が非常に気になる作品である。小出氏も「みなさんと一緒に、制作者サイドにぜひ話をうかがいたかった」と残念さを覗かせた。それほど好奇心をかき立てられる作品であることに間違いない。今後、日本で上映させることを期待したい。
[細川洋平]

東京アニメアワードフェスティバル2016
会期: 2016年3月18日(金)~21日(月・祝)
会場: TOHOシネマズ 日本橋
《細川洋平》
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