舞台版「魔王 JUVENILE REMIX」現代社会の様々な問題や疑問を考えさせる良作 2ページ目 | アニメ!アニメ!

舞台版「魔王 JUVENILE REMIX」現代社会の様々な問題や疑問を考えさせる良作

高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義  ■ 「何よりも原作の『精神』、『魂』、『普遍性』を表現しようと試みた、新たな2.5次元への取り組みである」

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■ 描かれているテーマは普遍的、ラストはきっぱり終わるという感じではなく、何かを予感させる

冒頭は犬養の演説で始まる。グラスホッパー率いるカリスマ的なトップ、「権力にだまされるな!」と群衆に向かって叫ぶ。そこへ安藤が歩み寄ろうとするが、あとわずかというところで安藤は絶命する。衝撃的なオープニングだ。
ロックな楽曲が鳴り響く。場面は変わって半年後。兄の死に疑問を持つ弟・潤也。5年でこの街を再生させるという犬養。圧倒的な支持を集め、もはや”独裁者”的な様相を呈している。
しかし、彼を取り巻く人物には個々の思惑がある。辰美は犬養に問いかける「どんな大人になりたいと思っていたのですか?」と。子供の頃思い描いていたであろう”未来の自分”。犬養は世界を変えようという意志を持つ、その確固たる想いは鉄の如く、である。
犬養は世界を救う救世主な のか、あるいは人の心を惑わす”魔王”なのか。それは取り巻く者たちにも潤也にも、誰にもわからない。そんな状況の中で物語は進行する。

アンダーソンから兄が”腹話術”という特殊能力を持っていたことを知る。舞台上では潤也が生きる時間軸とおよそ半年前の潤也の兄が悩み惑う時間軸が交錯する。それが原作を多重的に見せる。登場人物たちは皆、心の中に秘めた思惑がある。
清濁合わせ飲むタイプの”大人”・辰美。犬養を扇動者と言い放ち、「扇動者は民衆に処刑されるのだ」と言う。フランス革命しかり、第二次世界大戦の独裁者しかり。そういった歴史上の人物を思わず連想させる。潤也はある特殊能力があった。それをはっきり認識し、亡き兄の想いを胸に秘め、立ち上がる。

厚みのあるオリジナル音楽、ノイズ音、風の音、耳から入るイメージは不穏でダークな印象だ。影をはっきりと見せる照明で翳りのある世界を見せ、荒廃した都市を連想させる舞台装置で世界観を”輪郭”させる。
グラスホッパーの指示に従って携帯電話のフラッシュを観客が使用する場面等、いかにも舞台らしい演出もあって客席も”舞台”の一部となる。演説のシーンの熱狂的な群衆の歓声は独特の不気味さを観客に植え付ける。カリスマトップの演説は民衆にとってはまさに”麻薬”のようだ。
言葉ひとつひとつに酔いしれ、真実が見えなくなる。社会全体がその言葉に流される。その中で純粋さを見せる潤也、そんな彼に味方する者、犬養を信じる者、利用しようとする者etc、この思惑の渦はまるで交響 曲のように圧倒的なうねりとなって観客に押し寄せる。

辰美役のラサール石井はいかにも”狡猾な政治家”といった腹黒さを見せ、流石の貫禄。安藤潤也役の池岡亮介、純粋で行動派なキャラクターを好演する。その他、佐野大樹始め*pnish*の面々の熱演、俳優陣のエネルギーにあふれた舞台であった。

描かれているテーマは普遍的だ。本当の幸福とは、真実とは、人はいかに生きるべきか、生きる(生かされている)ことの意味、といったことを問いかける。
ラスト近くでは、さらに10年後の世界が描かれる。潤也は「もし、君が魔王になったらどうする?」と問いかけられる。哲学的な一言だ。犬養は首相になっていた。ラストはきっぱり終わるという感じではなく、何かを予感させる。

1幕もので、上演時間はおよそ2時間。思わず前のめりするストーリー展開。単純な原作の舞台化ではない。原作を咀嚼し、再構築し、舞台としての表現にこだわった『魔王 JUVENILE REMIX』。脚本・演出の巧みさが光る作品、現代社会における様々な問題や疑問を考えさせてくれる良作である。

*pnish*vol.14 舞台版『魔王 JUVENILE REMIX』
http://www.nelke.co.jp/stage/pnish_vol14/
2015年4月18日(土)~26日(日)
AiiA 2.5 Theater Tokyo
脚本・演出:鈴木勝秀

[キャスト]
安藤潤也役: 池岡亮介
安藤兄役: 影山達也
アンダーソン役: 味方良介
蝉役: 佐野大樹(*pnish*)
岩西役: 細見大輔
槿(あさがお)役: 森山栄治(*pnish*)
犬養役: 土屋裕一(*pnish*)
スズメバチ役: Ry☆(ギルティ†ハーツ、AiZe)
緒方(マスター)役: 鷲尾昇(*pnish*)
辰美役: ラサール石井
《高浩美》
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