―氷川
神山監督は美術監督出身ですので映像をどう観たか、うかがいたいです。
―神山
印象的なだけでなく、しかもCG合成をどう作っているのかもうわからないようなシーンが多かったですね。どうやって作ったんだろうと考えさせる間もなく、リアルな映像になっていました。
―氷川
リアリティが、今までとひと味違うと。
―神山
見たことあるような気はするんだけどやっぱり見たことはないんですよ。新しい。大変なことをやっていますね。例えばスローとアクションで、狭い室内をぐるぐると駆け巡る。あれはどうやって撮っているんだろう?体はCGだろうなと思ったけど、中盤では裸で戦ったりもする。しかもごまかしが効かないスローで見せる。足元も見せていて、合成を感じさせません。そうした表現が、かっこよさに繋がっていますね。
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神山健治監督
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氷川竜介氏
―氷川
クラシカルでゴージャスだったり逆に汚れていたり、そんな世界観の組み立て方はどうみましたか。
―神山
支配階層の人たちが中世のイメージで親しみやすく、おもしろいなと思いました。『スター・ウォーズ』でも中世的なデザインを入れてましよね。テリー・ギリアム監督の『未来世紀ブラジル』を彷彿させるシーンもあり楽しいです。
―氷川
テリー・ギリアム本人がそのシーンに特別出演しているのも、映画ファンには見どころでしょう。
―神山
SF映画は支配階層の世界をひとつのデザインで表現したりします。現実はもっとカオスなので、「こんなシンプルでいいの?」って思う時があるんです。『ジュピター』はごった煮な場所もあります。テリー・ギリアムが出てくるジュピターが王族の手続きをする際の市役所的なたらい回しの描写は、宇宙で起きている出来事と一切関知しない人たちもたくさんいるんだなというのが見えてニヤリとしました。
―氷川
いろんなものを取りこむごった煮感は、日本のアニメにも通じますか。
―神山
かつて日本のアニメがハリウッド映画に設定などで迫ろうとし、独自性を持ったのは、そういう多様性を意識した部分があったからだと思います。ただ日本アニメもいまはそこから離れているし、SFも減っていますよね。
80年代、90年代に日本のアニメがハリウッド映画に迫ろうとしていた頃に近いなと思いました。僕らの世代はマニアックな部分をどんどん追求していました。『ジュピター』もそうした深掘りしている感じがおもしろいですね。ウォシャウスキー姉弟はやっぱりオタクなんだなって改めて感じました。