演習を重ねながら、「企画の読解力」、「演出のノウハウ」を中心にしたプログラムはこれまでにないものだ。講師は布川郁司氏のほか、アニメ監督・演出の阿部記之さん、水野和則さん、若林厚史さん、そしてストーリーコンサルタントの岡田勲さんらである。
これまでにないかたちの学びの場を作りだした理由は何だったのか、実際にどのような教育が行われているのか、塾長の布川氏にお話を伺った。
[構成・執筆=渡辺由美子]
NUNOANI塾 公式サイト
http://nunoani-project.jp/
■ 演出とプロデュースを教える「NUNOANI塾」
―-『NARUTO -ナルト-』シリーズや『魔法の天使クリィミーマミ』を手がけているぴえろで、創設者・最高顧問の布川郁司(ゆうじ)さんが、アニメ制作の学び舎「NUNOANI塾」を開講されているそうですが、どんなことを学ぶ場所でしょうか。
布川郁司氏(以下、布川)
演出とプロデューサーを育てる私塾になります。塾生は、ゼロから学ぶ人向けではなくて「プロ向け」として開講しました。1年間勉強受講してもらう形で2年間やってきました。今年の4月には第3期生を迎え入れることになります。
―-「プロ向けの学舎」というのは、それほど多くないと思います。「NUNOANI塾」はどのような経緯で作られたのでしょうか。
布川
ぴえろの会社で作ったというよりも、僕の個人的な動機からになります。
今のアニメ制作の現場だけでは、どうしても足りなくなってしまう部分を学べる場所が欲しいと思ったのがきっかけです。
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―-今のアニメの現場に足りないものというのは?
布川
「俯瞰視点から、アニメ制作の体系的なことを教える時間」のことです。
僕がぴえろで「うる星やつら」とかを作っていた頃からそうでしたけど、TVアニメーションは毎週放映されるので現場がとても忙しい。
せっかく若い人が夢を抱いてアニメ制作のプロダクションに入っても、そこの部署でのやり方だけを覚えて、スケジュールをひたすら回す作業的な役割をしているうちに、だんだん「自分が好きなアニメーション」というものが見えなくなってしまうことがある。
「自分が好きなアニメーション」とか、「こんなアニメを作りたいんだ」というビジョンは心の支えとして非常に大事なのですが、現場がきついので、自分のやりたいことがだんだん見えなくなってしまう。
そこがプロになるための堪忍どころなんですが、そこが耐えられなくて辞めてしまう若い人は多いです。
―-プロになるためには、乗り越えなければならない壁があるのですね。
布川
はい。アニメ現場の離職率は以前よりは低くなっていますけど、この仕事の面白さ、達成感を感じ得ずに去っていくのはとても残念なことだと思ってます。
どの会社さんも、適正な指導をしてから現場に配属させるとか、ちゃんと指導をしたいと思っているんですけどその時間がなかなかない。だから現場で先輩の後ろ姿を見て覚えてくれ、というのが実情です。
だから僕は、職場で示されるものだけではなく、アニメを俯瞰からの視点で初めて見えるものを教えられればと思いました。
―-俯瞰からの視点とは何でしょうか。
布川
アニメを現実的なビジネスとして捉え直すことです。うちの塾では「演出」と「企画プロデュース」に特化して教えていますが、俯瞰視点が備わると、日々の作業的な仕事に対しても「自分が何のためにこの作業をやるのか、何をゴールにしたら良いか」がわかる。自分で楽しく能力を発揮できるようにようになると思います。
「NUNOANI塾」でも塾生をそんなふうに導ければと思います。塾を作ったのはぴえろのためというより、僕自身がアニメ業界に半世紀近くお世話になった恩返しみたいな気持ちがあるんです。