―’70年代後半から’80年代初頭のテレコムは今振り返ってもホットな場所だったと思います。
―友永
そうでしょうね。宮崎さん、大塚さんらを筆頭に、みんな「新しい長編アニメをつくるんだ」と息巻いてましたから。僕もオープロにいたとき、「そんな会社ができるんだ、行きたいな」と思っていたぐらいで。
もともと動かすことが大好きで、たとえば東映の長編アニメーション『どうぶつ宝島』や『長靴をはいた猫』、『空飛ぶゆうれい船』のように、とにかく動かしたかった。テレビの3コマアニメより、劇場長編で枚数を気にせず描いてみたい。もっと動きを描きたい、そういう想いが人一倍ありました。『ホームズ』も宮崎さんがつくるということで「思う存分やれるぞ!」と(笑)。
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―描いたイメージボードの中で本編に採用されたものはあったんでしょうか。
―友永
具体的にはないですが、戦艦を描きたいっていたので、『海底の財宝』(放送第9話)は、そういう話をつくってくれたかなと思いました。印象深いという意味でも『海底の財宝』の戦艦のシーンはよく覚えています。
―戦艦もさることながら、その上に水兵が鈴なりになるシーンにインパクトがありました。
―友永
東映時代から、宮崎さんが描くようなモブシーンは、いつかやってみたいなと思っていたので、それはもう力が入りました(笑)。先日、この戦艦シーンを観直す機会があったのですが、「よくこんなもん描いたな」と自分でも驚いてしまいました(笑)。今では、とてもじゃないけど描けないです。アニメーターは、運動選手と同じで、常に描いていないと、どんなに上手い人でも描けなくなってしまう。そういう体力の部分と、「描きたい」というモチベーションの両方が重要なんです。戦艦のシーンは、モチベーションに加えて体力にモノを言わせて描いた結果ですね(笑)。若かったんですねェ~。
―当時の印象として、『ホームズ』は昔ながらの漫画映画風でありながら、リアル志向というか画面の情報量が多いなと感じました。
―友永
そうでしょうね。田中敦子さんのようなゴージャスな原画を描く人もいましたから。『青い紅玉』(放送第5話)でプテラノドン飛行機が運搬車にぶつかってニワトリが飛び出すカットは、彼女が絵コンテから膨らませたんです。あれでものすごく画面がリッチになった。女性であれだけのアクション描ける人はそうそういないですよ。こちらも、「彼女がこれだけやるんだったら、僕だって!」と俄然やる気が出ましたね。
ただ、実際には宮崎さんが要求する及第点を取るのが精一杯でしたが……。たぶん近藤さんだったらそれ以上のものを出されたんでしょうけれど。
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後編に続く
『名探偵ホームズ』 Blu-ray BOX
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