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ネットワークセキュリティのエバンジェリスト・辻伸弘が語る『攻殻機動隊 ARISE』とネットの世界 前編

『攻殻機動隊』のシリーズでは、ネットワーク犯罪などがリアリティをもって描かれる。現実社会のスペシャリストはこれをどう見るのか?ネットワークセキュリティのエバンジェリスト・辻伸弘さんに、『攻殻機動隊』とネットワークセキュリティについて話をうかがった。

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■ ネットワークセキュリティの攻防戦

-AA
『攻殻機動隊』では、ハッカーの攻撃と防御といった図式がよく見られます。それはかなりドラマティックな戦いなのですが、現実にこうした対決はあるのでしょうか?

-辻
あります。勝手に外から攻撃をしてくる人はいっぱいいるんです。それを日々監視する「監視」という仕事の人たちもいて、「こういう攻撃が来ているので、やられたかも知れないので調べてください」とか、場合よってはブロックも行うんです。
僕のようにお客さんのシステムに自らが侵入できるかどうかを調べる「侵入テスター」というものもあります。

-AA
侵入するというのは草薙素子的ですね。実際はどうやられているのでしょうか。

-辻
お客様のコンピューターに対して実際に攻撃を仕掛けて、侵入し外部から操作可能にできるか、個人情報が盗めるかどうかを調べます。そのうえで、後日、対策方法を提示し、報告会という形で今後の対策に向けてディスカッションをします。
セキュリティーパッチを適用するという提案だけではなく、どうしても対策が行えない場合の相談に乗るということももちろんします。皆さんに身近なところでいうと健康診断に近いでしょうか。相手が無理なく実行できて、今よりセキュリティーレベルが高くなる、人間の体でいうと健康な生活を行うための提案をします。

-AA
100%のセキュリティではないのですか?

-辻
100%はないですね。そもそも、それを作っている人間が100%ではないですから。風邪と同じで、予防はできるけど絶対に引かないようにはできないのと同じですね。
攻撃されることが前提で、攻撃された時にいかに素早く対処できるか。『攻殻機動隊』のなかに出てくる「身代わり防壁(*)」をいくつも設置するようなイメージでしょうか。防壁がないと脳殻を焼かれるというわけです。
*身代わり防壁はネットワークからの攻撃を受けた際には装着者の身代わりになるシステム。

-AA
『攻殻機動隊』では、衛星や交通ネットワークといった社会的なインフラへのハッキング、人の脳へのハッキングといった様々なかたちがあります。現在、実際にはどの程度までありえるのでしょうか?

-辻
まさに去年NSA(*)が話題になりましたよね。NSAが世界中の通信を覗いていたというものです。さらに海底ケーブルにも接続して通信内容を覗いていたとも報じられています。
暗号化通信は大丈夫だと言われていますが、それ以外は見られています。多くのIT企業がNSAの協力会社リストにリストアップされていたという情報も出てきていますね。
*NSA=アメリカ国家安全保障局。電子機器による情報収集を行う機関。

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■ 究極のハッキングは、人の心への攻撃

-AA
『攻殻機動隊』の世界では、ハッカーは重要なポジションを担っています。それこそ草薙素子自身も超ウィザード級ハッカーであったりします。辻さん自身は劇中のハッカーに共感したりするものなのでしょうか。

-辻
しますね。ただ、僕は自分が持っている力を人のために使いたいと思っています。草薙素子自身がどう思っているかどうかは別として結果的には、社会のための組織に属していますよね。そういった点ではすごく共感しています。ただ好きなキャラクターは別なんです。

-AA
誰ですか?

-辻
バトーとトグサです。バトーは人間臭かったりアンドロイドっぽかったりと曖昧な部分がすごくおもしろいですね。何だかんだ素子の事を好きですし(笑)。
少佐とバトーのやりとりでおもしろいのが、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』の第12話(*)で映画監督の脳の話です。バトーが少佐に「二人で映画でも見に行かねえか」と誘うんです。少佐は「本当に見たい映画は1人で見に行くことにしているから」と答え、「じゃあそれほど見たくない映画は?」と聞くと「見ないわ」と(笑)。
*「映画監督の夢」:電脳世界内の映画館が舞台になっている。

-AA
トグサはいかがですか?

-辻
トグサは人間らしさが好きです。『2nd GIG』の裁判の話(※)で正義感を剥き出しにするところとか、「笑い男」のラスト(*2)とか。理性的じゃないんだけど一番人間らしいです。
*『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX 2nd GIG』第10話「イカレルオトコ」
*『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX 2nd GIG』第26話

-AA
先程、人間が100%でないからと話がありましたが、辻さんは技術だけではなく人間の心にも興味があるのですか?

-辻
ソーシャルハッキングという言葉があります。セキュティの分野に関わっているとシステムにはどうしても外せない要素があるのがわかってくるんです。それが“人”なんです。
コンピューターのインプットは人が行うし、アウトプットを必要としているのも人です。システムの中にいる人が持つ穴を攻撃することをソーシャルハッキングと言います。
「こうやれば絶対クリックする」「こういう文面を書いたらファイル開くだろう」ということですね。僕はそれに興味があります。人は穴にもなるし砦にもなるんです。また、人にしかできない防御もあります。機械は0か1でパッチが適用されていれば絶対に攻撃しても成功しない。でも人にはいろんな条件があって0か1かじゃないところがすごくおもしろいです。先ほど出た映画監督のエピソードも、ある種のソーシャルハッキングですよね。

後編に続く

『攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears』
2014年6月28日(土)-7月11日全国劇場上映【2週間限定】
/ http://www.kokaku-a.jp/

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《animeanime》
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