「キックハート」で起こったこと ファン支援はアニメ制作を変えるのか? 湯浅政明監督、I.G石川光久社長 インタビュー 前編 | アニメ!アニメ!

「キックハート」で起こったこと ファン支援はアニメ制作を変えるのか? 湯浅政明監督、I.G石川光久社長 インタビュー 前編

日本の著名なアニメ監督によるひとつの企画が、世界の注目を浴びた。湯浅政明監督による短編アニメ『キックハート』である。製作プロジェクトが、米国のクラウドファンディングの大手Kickstarterに掲載されたことがきっかけだ。

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プロダクション I.G社長 石川光久氏
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「キックハート」で起こったこと ファン支援はアニメ制作を変えるのか?
湯浅政明監督、プロダクション I.G石川光久社長 インタビュー 前編


2012年秋に、日本の著名なアニメ監督によるひとつの作品企画が、世界の注目を浴びた。湯浅政明監督による短編アニメ『キックハート』である。『キックハート』の製作プロジェクトに対するファン支援プロジェクトが、米国のクラウドファンディングの大手Kickstarterに掲載されたことがきっかけだ。
原作・監督が湯浅政明さん、監修に押井守さん、キャラクターデザインに三原三千夫さん、さらにアニメーション制作をプロダクション I.Gが手がける。アニメファンであれば誰もがわくわくするようなスタッフである。
一方で、作品は約10分程度の短編。ドMの売れない覆面レスラーとドSの売れっ子覆面レスラーの話と、個性たっぷりの設定となっている。日本の商業シーンでは特異な作品だ。

Kickstarterでは、この完成前の作品の制作資金を募った。支援者は提供資金額に応じて、完成後の作品のBlu-ray Discや映像ダウンロード、さらにTシャツやポストカード、スタジオツアーなどのリワードを受けることが出来る。作品の予約販売、ファンからの直接支援などKickstarterには様々な側面がある。
今回募集したのは15万ドル(約1350万円)。少なくない金額だが、短期間で目標を上回る約20万ドル(約1800万円)を集めることに成功した。

『キックハート』は、日本のアニメでは初のクラウドファンディングで成功した大規模なプロジェクトになった。こうした作品の企画はどのように立ち上がったのだろうか?Kickstarterでの成功の秘密は?
数々の傑作を手がけてきた湯浅政明監督、そして製作を手掛けるプロダクション I.G 石川光久社長にお話を伺った。
[取材・構成:数土直志]

『キックハート』
/http://www.production-ig.co.jp/works/kickheart

Kickstarterでの『キックハート』の紹介ページ
/http://www.kickstarter.com/projects/production-ig/masaaki-yuasas-kick-heart

■ 『キックハート』、スパゲティやハンバーグでない面白さを目指す

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実はKickstarterでのプロジェクを進める前に、『キックハート』の企画は進んでいたのだと思います。『キックハート』の企画の始まりはどういったものだったのでしょうか。

湯浅政明監督(以下湯浅) 
いまスパゲティとかハンバーグのような、何か誰もが好きになる作品が売れるという感じになっていています。そうした声が高まって、制作スタッフでも、もっと売れるやつじゃないとといった感じです。
でも僕はハンバーガーとかは作れない。じゃあ、僕なりのハンバーガーかスパゲティを作らなきゃなと思っていたときに、何かもっと納豆みたいなものを作ってみようよ、と石川さんから話がありました。それなら食べやすい納豆を作ってみたいなとの感じで始まりました。

石川光久氏(以下石川)
『キックハート』を作りたいと思ったきっかけは2つです。作家性が強かったり、クリエイターが作りたいものを作らせるスタジオって、なんだか面白そうですよね。監督とクリエイターの感性だけで作品を創ると、とてつもないヒット作が生まれそうな気がしますよね。でも、そういったスタジオは、あまり継続できていないんですよ。クリエイターが作りたいものだけだと、お客さんが面白いというものと違う方向にいっちゃいがちなんです。
でも湯浅さんは、「いや、俺は別に作りたいものだけ作りたいわけじゃないよ」と話されたんです。「お客さんが面白いというようなものを作りたい」と言っていたのが、すごくいいなと思ったんです。作りたいものを作っているわけじゃないというところが、きっかけのひとつです。

湯浅 
そうですね。ずっと僕なりの面白いものがやりたいとは思っていますので。

石川
もうひとつは、湯浅さんの圧倒的な存在感と実力。これがないと無理なんですよ。湯浅さんの実績と、それに対するリスペクトがあれば、そこに人間が集まってくる。この監督のためにだったら、という人がいるんです。アニメーションって1人で作るわけでないですから、それに対しての魅力ですね。

石川 
それとアニメが、いわゆる萌えやオタク向け作品中心になったときに、市場はどんどん狭くなってしまい、コアファンのための企画しか通らなくなってしまいます。
その点、湯浅さんを通じると、普段アニメのパッケージを買わない層、アートやオシャレとしてアニメーションを楽しむ層に近づけるんです。商売的にもですね。

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《animeanime》
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