青い文学シリーズ『人間失格』 文豪・太宰治の名作がアニメ映像に 浅香守生監督に聞く | アニメ!アニメ!

青い文学シリーズ『人間失格』 文豪・太宰治の名作がアニメ映像に 浅香守生監督に聞く

インタビュー

浅香守生監督
  • 浅香守生監督
(インタビュー:2009年11月)


「青い文学シリーズ」は2009年の太宰治生誕100周年、小林多喜二の「蟹工船」ブームなど、文豪たちの名作が注目されるなかで生まれた企画だ。大好評であった文豪たちの名作を人気マンガたちが描き下ろすスペシャルカバーで飾る集英社の「ナツイチ」キャンペーンが、新たにアニメにもその世界を広げた。
アニメ『DEATH NOTE』や映画『サマーウォーズ』で注目されるマッドハウスが、太宰治や夏目漱石、芥川龍之介、坂口安吾らの名作6篇を異なる監督、作画で映像化し、アニメ「青い文学シリーズ」が誕生した。

そのテレビシリーズ冒頭を飾ったのが、太宰治原作の『人間失格』である。キャラクター原案に『DEATH NOTE』、『バクマン。』の小畑健さんを招き、浅香守生監督が映像化に挑戦する。
テレビからさらに劇場映画化もされ、現在『人間失格 ディレクターズカット版』が劇場公開中だ。浅香守生監督にアニメ『人間失格』がどのように創られたのかを伺った。

■ 青い文学シリーズ『人間失格』 
太宰治の原作、そして太宰の自伝であり、遺書でもあるとも言われる作品をマッドハウスがアニメ化。全作品で主演声優を務める俳優 堺雅人が主人公・葉蔵を演じるのも話題となっている。
恥の多い生涯を送って来ました―。 裕福な家に生まれた大庭葉蔵は、人間の生活に馴染めない。様々な女性と出会い、別れていくそうした葉蔵の遍歴がアニメとして描きだされる。

■ 浅香 守生(あさか・もりお)
1967年3月11日生まれ。兵庫県出身。1989年『YAWARA!!』で演出デビューし、その後1993年『POPS』で初監督を務める。主な監督作品は『人魚の傷』『カードキャプターさくら』(TV&劇場)『ギャラクシーエンジェル』『ちょびっツ』など多数。2006年には『NANA』の監督も務めた。マッドハウスを代表する演出家の1人である。


■ 「人間失格」は面白い 

アニメアニメ(以下AA)
作品を観た時に『人間失格』ってこんなにどきどきする話だったのかなと思いました。作品を作る時に原作をどう膨らませよう、どこからスタートしようと考えられたんですか。

浅香守生監督(以下浅香)
僕が原作を読んだ時の印象は、「面白かった」ということでした。葉蔵の描きようが、ともすれば笑える方に振れるんじゃないかと思うぐらい面白かったんです。
昔、子供のころに読んだ印象とまったく逆ですね。当時はただ暗いだけの話だと思っていたのですが、そのギャップがまず面白かったですね。自分以外の人間に対する考え方とか、人の考えることは分からないといった葉蔵の周りに対する感じ方が、大人になった自分から見てとても共感できるところが多かったです。

AA  どきどき感というか、一種のサスペンス映画を見ているような感じを受けたのですが。

浅香
サスペンスという要素は、どの作品を作る段階でも結構考えています。笑わせるためにもサスペンスは必要になりますし、いろいろな種類のサスペンスがあります。

AA
先ほど「共感できる」という話がありましたが、僕は正直言うと、太宰作品は昔、嫌いだったんです。今回の『人間失格』を観たら、僕が昔感じた主人公への歯がゆさがそのままで、今もテレビを見ながら同じ様に葉蔵怒っている自分がいました(笑)。

浅香
葉蔵は本当に駄目人間だと思います。けれども、あの駄目さは、幼少期の父親との関係や女中にいたずらをされたりといった部分から来ています。人間がどう育っていくか考えた時に、そういった状況があれば、こういう人間が出来上がってしまうのは必然なのかなという気もします。

AA  作者である太宰治についてはどうですか?

浅香
太宰本人はきっとサービス精神が旺盛な人だったんじゃないでしょうか。『人間失格』も自虐的な笑いを誘っている話なのではないかと思う時もあります。
アニメでは描かなかったのですが、葉蔵と堀木が家のベランダで、この言葉は喜劇用語か悲劇用語かという言葉遊びをしたりしているシーンがあるんです。罪の反対語は何だとかと言っているところがあるんですが、その辺を見ていると、それまでの葉蔵の生きざまや堀木に対する考え方を何か象徴して笑いを誘っているという気がします。


AA  太宰作品の笑いですか。笑いはあまり意識していませんでした。

浅香
僕は一歩間違っていれば、今回の『人間失格』の企画も、もしかしたら逆にしていたかなと思っていたんです。

AA
太宰治は原作としては非常に大きなものですけれども、それはマンガや現代の小説を原作としてやる時と、気持ちは相当違うものなのですか?

浅香
広く読まれている作品なので、どこまで裏切っていいものかは考えますね。それは原作ありの作品を作るときに、原作者や視聴者、原作を知っている読者を意識するのとはあまり変わりません。
でもこれだけ物語が有名だと何か架空の敵がいるようには感じますね。すでに人の頭の中にある『人間失格』のイメージに対しどれだけ的を射られるか、どれだけうまく裏切れるかは、勝負的なところもあります。

AA  そうした中で作品は現代にも通じるし、誰にでも通じるものなのでしょうか。

浅香
僕はそうだと思っています。それは他の人がどう考えるのかは、自分以外の人の気持ちが分からない葉蔵と同じことだと思うんです。
他人がどう思うか分からないですけれども、自分はそれに共感して、そこが共感できるところだと思って、今回の『人間失格』を作っています。

AA
キャラクターデザインについても伺っていいですか。小畑健さんのすらっとしたキャラクターがまず原案にあったわけですが。

浅香
今回の企画自体が古い純文学小説を新しい装丁で出す企画からスタートしています。実はそうなるとイメージする葉蔵のキャラクターと小畑さんのキャラクターは、少しかみ合わないところもあるんです。
ただ、絵の力はもう格段にあって魅力的なんです。小畑さんの描く葉蔵が女を引きつけるのも納得が出来ます。


AA
作品は全体に様式美的なところがあり、それが昭和初期の時代に合っています。物語と美術の感覚も相当意識されていたのですか。

浅香
最初に考えました。昭和初期の話ですけれども、あまり古いセピア調にしたりは意識しないで、むしろちょっとくすんだ世界観の中にどぎつい色がたまに入ってくるような、ショッキングな絵を作ってやろうと意識しました。
ポイント、ポイントで印象的な絵を入れてやって、話を構成していくことを最初に考えました。赤い空のタイトルバックや真っ白い雪の中の赤い傘とかです。


■ 葉蔵と出会った女性たち

AA
話の組み方も原作と違います。過去の話は全部フラッシュバックとなり、恒子とのエピソードからいきなり始まっていますが、この意図はどういうものですか?

浅香
今回は4話で構成しければいけないので、頭から順に幼少期から描いていくと、印象が弱くなるし時間的にもちょっと足りません。
であれば、現在の出来上がっている葉蔵のどうしようもない状態からスタートして話をつないでいった方が、より効果的なんじゃないかと。
描くのは葉蔵の内面や世間、女とのかかわり方なので、葉蔵と世間、葉蔵と3人の女という構成できます。4話の中にうまく印象的な女性が出てきて、葉蔵と絡んでいくというところを軸に、途中、過去が入ってくるかたちです。

AA
作品は葉蔵の視点からなのですが、登場する女性たちはどうでしょうか。彼女たちは、傍から見ると非常に不幸に見えます。
けれども、振り返ってみると彼女たちは彼女たちで、それなりに満足して幸せなのかなという気がしないでもないのです。女性の描き方というのは、どういうふうに考えらましたか?

浅香
それはその通りだと思います。まず恒子。最初に出会って心中して死んでしまう女性です。だんなが収監されていて、バーで働いてかなり辛いところに葉蔵が現れて、ちょっと潤って葉蔵と一緒に死ぬ覚悟をする。
恒子から見ると、たぶん葉蔵は同じタイプの人間で、共感して、肌を合わせると同じ空気があって、とても幸せな時間を過ごした。だから、もう死んでもいいと思った。人生はすごく短くなりましたが、幸せな時間はありました。これを幸せと言っていいか分からないですけど、満足できる死に方をしたと描いています。

志津子はだんながもう死んでいて、女性が生きにくい時代で頑張って、肩ひじを張って生きている女性です。撮影の時に志津子を表現する言い方として、いつも「乾いた女」と言っていたんです。けれどそこに葉蔵が現れてすがるところが出来ました。結局はいなくなりますが、志津子にとっては一番大切なのは子供だと思います。葉蔵がいなくなっても、ゼロではないと思うんです。一瞬、葉蔵が通り過ぎたところで、幸せがあった。
葉蔵がいる瞬間は、それぞれの女性にとって不幸ではないんです。マダムや美子も同じだと思うんです。

AA
瞬間、瞬間に潤いを与えられることを出来るのが、葉蔵がひどい男でももててしまうところなんでしょうか。

浅香
女性の意見は、たぶん違うと思います。その辺はちょっと計り知れないですね。
作品を見た何人かの女性と話をする中で、美子を口説くプロポーズのところは、ぐっときたという人がいます。唯一、葉蔵が美子に対してのみ仮面をかぶらないで内面をさらけ出す。ああいうところが葉蔵が登場キャラクターの女性たちの心を、引きつけるところなのかなと考えて、作ってみました。

AA
美子のエピソードだけ和らいでいます。ほっとしながら見つつも、いや、これは違うと思っていて、やはり急展開して、ああ、やっぱりこうかみたいな感じです。

浅香
そうですね。結局、美子との幸せを手に入れていても、それは精いっぱい水中でもがいているということなんです。表面上は幸せに見えるけど、葉蔵は自分を切り売りして、美子との幸せを手に入れただけという風な描き方をしています。
マンガを描いている葉蔵が、いつの間にかオバケになっているのは、それを表現しています。幸せに見えても、実は全然幸せではない。

AA
原作以上に、葉蔵の幻影の中にあるオバケの存在が拡大されていますが、あれはどこから出て来たものなのなのですか?

浅香
今回の主眼は、葉蔵の内面表現です。葉蔵の内面とか、思考を描き切ることが重要なところだったので、その象徴としてオバケが存在するんです。
ところが描いていくうちにだんだんオバケの面白さというか、オバケを描いていて面白いというのが、出たのかもしれないですね。シナリオ段階で計画していたより、少し多めに出ているところはあります。

AA
原作はわりと淡々としているのですが、アニメではかなりメリハリがついていると思いました。そこが現代的なことなのかなとも思えました。

浅香
『人間失格』は、文体的に少しだらっとしているように読める向きはあると思います。その辺をそのままアニメにする気は全くなかったんです。
映像と文章の違いはありますが、そのままアニメーションにするというかたちになってしまうのは嫌でした。いろいろな作品で太宰っぽいというか、文学的な描き方をしているアニメはあると思うのですが、それと同じにすることが太宰をアニメ化することとは違うと思っていました。

作品の運びには別に不満ではなかったのですが、より見やすくしようというところと、自分なりに『人間失格』をやるならこうだというとことです。構成や色、セリフの言い方が現代的と言っていいのかは分からないですが、変わっているところだとは思います。

AA  それを太宰作品と言われなければ、もう十分、現代の映画だと見えました。

浅香
その辺も含めて今回の企画意図だと思います。小畑さんの装丁で、新しく出た古い文学と同じで、現代の監督が古い文学を映像化する、同じだと思います。
青い文学シリーズは、おそらく全部そうだと思います。各監督が頭をひねっているのはその辺じゃないでしょうか。

AA
青い文学はオムニパスで、作品ごとに監督、制作プロデューサーを替えています。ぜひ聞きたいなと思ったのですが、皆さん、ライバル意識はあるのですか。

浅香
それはあるのじゃないですか。ただ、みんな意識はすると思いますけど、やっている最中は、自分の作品しか見えていないので、突っ走っています。やる前はほかの監督は何をやるんだろうと気にはなります。見てしまうと影響されるのも怖いし、ほかでやっているのであれば道がふさがれて、出来ないと嫌だなとか思います。
荒木(哲郎監督)とは少し話しました。たぶん他の監督さんが重くやるだろうから、すごく明るい色調にしてやれと考えていたと聞きました。

AA
最後に、今度ディレクターズカット版として映画になりました。映画になって何が変わったというのはありますか。

浅香
尺オーバーで泣く泣く切ったところが復活したり、4つをつなげる際の乗り変わりで一工夫があったりします。
映画化というよりも、何か違う作品を作りたいというのがあったんです。今のアニメーションの仕事、商業アニメの中でなかなかこういう企画はないですよね。こうしたアニメが出来るのはすごくラッキーですね。

どうしてもキャラクターの魅力で突っ走らなければいけないアニメが多いので、こうした雰囲気や空気感で勝負が出来るアニメに巡り会えるのは機会が少ないですから。今のよくある仕事とは少し違うものになったのかもしれないです。

AA  これから作品を観る方に、特にここが違うというのがありましたらお願いして宜しいですか。

浅香
絵づくりにはかなり気を使って、印象的な絵を作ることを頭に置いています。僕が一番気に入っているのは、雪のシーンの中の赤い傘の部分です。ちょっとハッとするような絵になっているかと思います。

それと、音楽です。今回音楽は企画意図をまず説明して作ってもらったんですが、古い作品ですけど、古い昭和の音楽にしないでほしいとお願いしました。
テクノっぽくてもいいくらい、だんだん壊れていくような音楽にして欲しいと話して作ってもらいました。少し目線が違って見える古い音楽を、見つけていただければ、面白い見方ができるんじゃないかと思います。

AA  本日はどうもありがとうございました。

青い文学シリーズ『人間失格』

 [キャスト]
 大庭葉蔵: 堺 雅人
 堀木: 高木 渉
 恒子: 朴 口美(口の字は本来は王編路)
 志津子: 久川 綾
 美子: 能登麻美子
 マダム: 田中敦子

 [スタッフ]
 原作: 太宰 治「人間失格」
 キャラクター原案: 小畑 健(「DEATH NOTE」、「バクマン。」)
 脚本: 鈴木 智
 キャラクターデザイン・総作画監督: 筱 雅律
 色彩設計:  堀川佳典
 美術監督: 清水友幸
 音響監督: 本田保則
 撮影監督: 藤田賢治
 助監督: 吉野智美
 監督: 浅香守生
 アニメーション制作: マッドハウス
《animeanime》
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