今年で第30回を迎えた日本SF大賞は、30周年という節目の年であると同時に、これまでにないかたちのものとなった。日本SF大賞受賞作『ハーモニー』の著者伊藤計劃氏、日本SF大賞特別賞『グイン・サーガ』の栗本薫氏がいずれもが故人となっているからである。 3月5日に、日本SF作家クラブが主催する日本SF大賞と特別賞、日本SF新人賞、それに大藪春彦賞選考委員会主催する大藪春彦賞の3つを合わせた徳間文芸賞贈賞式が東京・丸の内で行われた。贈賞式は、作品を顕彰する独特の華やかさと伴に、34歳で世を去った伊藤計劃氏、56歳でなくなった栗本薫氏の早過ぎる死を悼みながらのものとなった。 故人となったことを強調すると大賞の受賞理由が、それ自体にあるかのように誤解されるかもしれない。しかし、当日、審査委員のひとり飛浩隆氏による日本SF大賞の選考会経緯からは、それが作品の高い評価になされたことが理解出来る。 同氏によれば選考会は大激戦となり、候補に挙がった5作品はいずれも高い評価を得たという。最終的に『ハーモニー』と上田早夕里氏の『魚舟・獣舟』の2作品の争いになったが、作品の手堅さと完成度の高さ、革新性から『ハーモニー』に軍配が上がった。 また飛氏は、今回は近年になくSF小説のレベルの高かったと言及した。日本SF大賞はその受賞対象作品を、SF小説だけでなく、マンガや映像作品なども含む異色の文芸賞である。このためこれまでの受賞作品には、マンガやアニメなども含まれる。例えば昨年第29回の受賞作は磯光雄監督のテレビアニメ『電脳コイル』である。 ところが今回は、候補作5つが全てSF小説であった。SF大賞新人賞の解説でも山田正紀氏が日本のSFは第2の黄金期を迎えていると述べたように、そのレベルは過去になく突出しているようだ。 そうしたなかで頂点に輝いた伊藤計劃氏の才能の高さを考えると、失われたものの大きさを感じる。飛氏は、「伊藤氏の作品は数が少ないけれど、是非読んで欲しい。特に若い人には忘れられない作品となるはず」と語る。 日本SF大賞特別賞の栗本薫氏は、その多作さ故の受賞だ。同氏の死によって未完に終わったヒロイックファンタジー『グイン・サーガ』は、正伝130巻外伝21巻と一人の作家によって書かれた小説としては、前人未到の領域に達していた。 作品は30年間にわたりその筆力が衰えることなく、日本のファンタジー小説の開拓者としても大きな役割を果たした。今回の特別賞はその偉業を讃えるものである。 日本SF大賞、日本SF大賞特別賞の受賞に対して、日本SF作家クラブの新井素子会長から賞状が、昨年のSF大賞受賞者である磯光雄氏からトロフィーが渡された。生前の栗本薫氏と個人的にも親しかった新井素子氏が、受賞者の代理として出席した故栗本薫氏の夫である今岡清氏に深々と頭を下げたの印象的であった。 また、SF新人賞では、伊野隆之氏の『森の言葉/森への飛翔』と山口優氏の『シンギュラリティ・コンクェスト』への受賞が行われた。 審査の経緯を発表した山田正紀氏からは、「今のSF界は大変なことになっている、とても野心に満ちた作品が溢れている」と、候補作品のレベルの高さが述べられた。しかし、そうした中で、今回を持って日本SF新人賞を終了するという残念な結果も発表された。日本SF作家クラブ /http://www.sfwj.or.jp/徳間書店 /http://www.tokuma.jp/ 第30回日本SF大賞『ハーモニー』 伊藤計劃特別賞: 『グイン・サーガ』 栗本薫候補作品『あなたのための物語』 長谷敏司『アンブロークン アロー』 神林長平『魚舟・獣舟』 上田早夕里『下りの船』 佐藤哲也第11回日本SF新人賞伊野隆之 『森の言葉/森への飛翔』山口優 『シンギュラリティ・コンクェスト』最終候補作大間了 『魔草男爵の館』希木偶人 『捕虜改造用人工惑星NEG-NI』樽井砂都 『月影パンダ』森田こうし 『異世界創造遊戯』