■石橋陽彩&永瀬アンナの声が入った瞬間「もう大丈夫と思えた」

――ここまでお2人が作り上げてきたキャラクターに、キャストの皆さんの声が加わったことで、どのような印象を受けましたか?
和田:キャストの皆さんにはオーディションに参加していただいたのですが、できるだけシナリオや小説から受けたキャラクターのイメージと、地声の雰囲気が近い方を選びたいと思っていました。
例えば、和希役の石橋陽彩さんには、少しふわっとした“王子様”っぽさがありつつ、イケメンだけれどどこか影もありそうな雰囲気を感じました。七緒役の永瀬アンナさんは、元気な女の子らしさがありながら、何かを抱えている人物も表現できる演技力がある。それに七緒が持っている、どこか“昭和の根性”みたいなものもご本人から感じたんです。「役者さんご自身が、演じられるキャラクターの雰囲気を宿している」と感じた方を選んでいきました。
へちま:私はアフレコを見学させていただいたのですが、やっぱり声がつくと全然違いましたね。それまで私が絵で「こうしなきゃ」と思っていたことが、声が入った瞬間に「もう大丈夫なんだ」と思えるような、キャラクターとしての説得力が生まれたのがすごく印象的でした。とくに主演のお2人は本当に素晴らしくて、泣きながら聞いてしまいましたね。
――完成した映像をあらためて振り返って、クリエイターのお2人だからこそ注目してほしい表現やポイントがあれば教えてください。
へちま:自分がやったところというより、私は「この原作、このシナリオが、コンテになるとこうなるんだ」と思ったことがすごく印象に残っています。映像でしかできない表現もありますし、物語が暗くなりすぎないようにしながら、暗いシーンではその感情をいかに一気に見せるか。そういうところに、監督の工夫や苦心があったんだろうなと感じました。今、こういう素直なドラマを真正面から描くアニメーションって、意外と少なくなっているんじゃないかなと思うんです。すごく難しいことだと思いますし、そこに挑んでいる作品だと感じました。
和田:絵コンテや演出について言えば、普段の僕はどちらかというと、少しトリッキーな見せ方をしたり、アングルやカットのつながりに凝ったりすることが多いんです。テレビアニメであれば20分なら20分という尺の中で、どれだけ引っかかりを作れるか、工夫した見せ方ができるか、というところで勝負するタイプの演出家だと思っています。
ただ、この作品は原作を読んでシナリオを作っていく段階で、「それとは少し違うな」と思ったんです。ある意味で“王道”なんですよね。例えば、ひとつのフレームの中に複数のキャラクターをきちんと入れて芝居をさせることで、皆がわちゃわちゃしている楽しさを見せる。あるいは、キャラクターを画面の真ん中にきちんと置いて、「辛い」「悲しい」「うれしい」という感情を真正面から描く。そういう芯のある、王道感を持った物語だと思ったので、変わったことはせずに、きちんとやり切ろうという方針を最初に立てました。
……その方針を立てたからこそ、苦しんだんですけどね(笑)。演出で逃げずに、きちんとキャラクターに芝居をさせようと決めたので、その分、作画や美術のスタッフにはかなり苦労をかけてしまって、申し訳なかったなという思いもあります。ただ、そのおかげで、自分が思い描いていた“映画らしい映像”には近づけたのかなと思っています。スタッフの皆さんには本当に感謝しています。
また、へちまさんが総作画監督としてしっかり手を入れたカットは、やっぱりピカイチにかわいいし、かっこいいんですよ。皆でわちゃわちゃしている場面でも、その楽しさが表情や指先にまで表れている。もちろん、ほかのスタッフが担当したところも含めてですが、そういった細かな芝居まで楽しんでもらえたらと思います。

――ありがとうございます。最後に、公開を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いできますか?
和田:僕は原作を読んだとき、泣いたんです。だからこそ、そのときに自分が受け取った感情や印象を、できる限りこの2時間の中に込めたいと思って作りました。ぜひ劇場で見ていただいて、僕が原作から受け取ったものを、皆さんとも共有できたらうれしいです。
へちま:今まさに学生の方と、かつて学生だった方とでは、きっとこの作品の見え方も少し違うんじゃないかなと思っています。原作が刊行されたのは2017年なので、当時まだ子どもの頃に読んで、今はもう大人になりかけているという方もいらっしゃると思うんです。映画化が発表されたときに「この作品が映画になるんだ」「うれしい」と言ってくださった方もいたので、そういう皆さんの期待に応えられていたらいいのですが……。
和田:こういう質問、自信満々に答えられないから嫌ですよね(笑)。
へちま:そうなんですよね(笑)。「絶対に後悔させません!」とか言えたらいいんですけど。
和田:なかなか言いきれないんですよね(笑)。ただ、本当にスタッフ一同、キャストの皆さんも含めて、一生懸命作った作品です。見てくださった方の心に何かひとつでも残るものになっていたらうれしいなと思います。

<作品情報>
映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』
2026年10月9日(金)公開
■ストーリー
豊かな自然にあふれた離島・采岐島――。
その島には、“神隠しの入り江”と呼ばれる場所があった。
とある事情で都会を離れ、采岐島の高校に進学した少年・月ヶ瀬和希は、
ある初夏の日、“神隠しの入り江”で一人の少女が倒れているのを発見する。
少女の名前は秋鹿七緒。
1974年からきたという七緒は、和希とその場に居合わせた高津という男性に保護されることになる。
七緒のことが気になり、それからたびたび放課後に彼女のもとを訪れるようになった和希。
やがて和希は、七緒から驚きの言葉を聞かされるのだったーー
過去と現在が交わるとき、秘密を抱えた二人の未来が動き出す。
■キャスト
石橋陽彩 永瀬アンナ 土屋神葉 上坂すみれ 羽多野渉 岡本信彦 松岡禎丞 / 藤木直人(友情出演) / 玉木宏
■スタッフ
原作:阿部暁子「どこよりも遠い場所にいる君へ」(集英社オレンジ文庫)
監督:和田純一
脚本:桑村さや香 キャラクターデザイン・総作画監督:へちま
美術監督:大西穣 美術設定:坂本竜 撮影監督:木村俊也 色彩設計:歌川律子
編集:坂本久美子 音響監督:はたしょう二 音響効果:出雲範子
音響制作:HALF H・P STUDIO 音楽:中村弘二
主題歌:とた「オリーブ」(RECA Records)
劇中歌:とた「鳳仙花」(RECA Records)
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント/第6スタジオ
配給:松竹 製作幹事:松竹・ポニーキャニオン 製作:『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
(C)阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会











