チリ発アニメ「オオカミの家」は、なぜ人々を熱狂させているのか? 異様な“悪夢のるつぼ”に放り込まれる…! | アニメ!アニメ!

チリ発アニメ「オオカミの家」は、なぜ人々を熱狂させているのか? 異様な“悪夢のるつぼ”に放り込まれる…!

本作が観客の熱狂を生んでいるのはその悪夢的内容。大ヒットホラー映画『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が大絶賛し、彼の最新作でも2人を起用しています。世界中の映画ファンを震え上がらせるこの作品は、一体何がすごいのでしょうか。

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『オオカミの家』キーアート(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
  • 『オオカミの家』キーアート(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
  • 『オオカミの家』(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
  • 『オオカミの家』(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
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  • 『オオカミの家』(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
  • 『オオカミの家』(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

今、一部で熱狂的な絶賛を受けているアニメーション映画があります。

チリのアニメーション作家、クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャによる『オオカミの家』は、ストップモーション、もたはコマ撮りと呼ばれる手法のアニメーション作品ですが、壁画のドローイングと等身大の立体造形物を駆使した斬新なスタイルを駆使しています。

手法もさることながら、観客の熱狂を生んでいるのはその悪夢的内容。大ヒットホラー映画『ミッドサマー』のアリ・アスター監督が本作を大絶賛し、彼の最新作でも2人を起用しているのですが、世界中の映画ファンを震え上がらせるこの作品は、一体何がすごいのか解説してみたいと思います。

※以下の本文にて、本テーマの特性上、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。

(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

■異様なイメージの連続で自分が何なのかわからくなる

本作の物語はいたってシンプルです。チリのある施設から一人の少女マリアが脱走し、森の中の一軒家で2匹のブタと出会うのですが、そこはオオカミに見張られ、マリアとブタは悪夢のような体験をするのです。

マリアとブタは次々と色々なものに変形していきます。それは生物だったり、無機物だったり、部屋の家財道具だったり。とにかく、異様なイメージの連続で、絶え間なく1人と2匹が変形していく様を、美しくもグロテスクなアニメーション映像で描いている作品です。

本作の登場人物であるマリアとブタはとにかくずっと変形し続けます。『ぼっち・ざ・ろっく!』の後藤ひとりもいろんなものに変形しましたが、あれのグロテスクバージョンが74分の上映時間、ずっと続くのです。ほとんど最初の原形がどんな姿形だったか覚えていられる人はいないでしょう。

これを観ている最中の観客は、自分自身の輪郭も曖昧になって変形してしまっているような感覚に陥ります。自分が何者かわからなくなる恐怖が全編を支配しており、唯一無二の編成意識を味わうことになるでしょう。

(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

■悪夢的イメージの源泉はある“カルト宗教”

一体このイメージはどこから湧いてきたんだと、誰もが不思議に思うでしょう。本作の着想は、あるカルト宗教にあります。

それは1960年代、チリの南部に入植してきたドイツ系の移民によって作られた「コロニア・ディグニダ」と呼ばれる入植地で、表向きは豊かなユートピアのようで、裏では強制労働や凄惨な暴力、薬物や電気ショックによる洗脳が行われていたとされています。森が多い閉鎖的な地域にあり、本作で少女が逃げ込んだ家が森に囲まれているのもそこから発想されていると思われます。オオカミに支配され、家から逃げられない少女というのも、この入植地に一度入ったら、脱走を許されない場所だったことのメタファーで、異様な悪夢イメージの連続が続くのは、洗脳による変性意識を象徴しているのでしょう。

しかも、本作の恐ろしいところは、そんな悪夢的映像を一種のメタフィクションとして見せている点です。冒頭に、このコミュニティは誤解を受けているので、このPR映像を作ったみたいなナレーションが流れて、まるでコロニア・ディグニダが実際に作ったヤバいPR映像であるような体裁で始まるわけです。しかも、それがメタフィクションだよというネタ晴らしをしないまま終了します。

そういう事実を知った上で本作を鑑賞すると、この映像はコロニア・ディグニダでこれを見せられて実際に洗脳された人でもいるのではないかと考えてしまいます。鑑賞中の自分にも何か起きてしまうのではと案じてしまうことでしょう。

(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

■2次元と3次元の壁を超えるアニメーション

本作はアニメーション技術についても斬新です。基本的にはストップアニメーション技術を利用していますが、壁に描いた絵を、ペンキを塗り直しては少しずつ動かすという非常に手間のかかることをやっているのです。

そのため、常にキャラクターが移動する度に、壁には塗り直しの後が残っていて、それが独特の雰囲気を生んでいます。まるで、ゴーストか何かの残像のようにも思えて、手法の困難さを逆手にとった効果的な演出です。

また、壁画だけでなく実物大の立体造形物をも巧みにコマ撮りで動かしていて、まるで壁のキャラクターが命を持って3次元に飛び出してきたかのような強烈な印象を与えます。キャラクターが2次元と3次元の壁を超えて、悪夢の妄想が現実になったような錯覚を覚えます。

しかも、コマ撮りにもかかわらずカメラが絶えず動いており、まるで手持ちカメラで長回し撮影しているような映像を作っています。そのために、この異様なイメージは実際にカメラで撮影したのではないかと思わされ、この悪夢が異様にリアルに感じられるわけです。

本作は、とにかく日本のアニメでは味わえない強烈な体験の連続です。これを観たら普通の映画やアニメでは満足できない身体になるかもしれません。是非とも映画館でこの悪夢に浸ってみてください。

『オオカミの家』
8/19(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
配給:ザジフィルムズ 協力:WOWOW プラス

『オオカミの家』
監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ / 脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、アレハンドラ・モファット / 声:アマリア・カッサイ、ライナー・クラウゼ
2018 年 / チリ / スペイン語・ドイツ語 / 74 分 / カラー / 1.50:1 / 5.1ch / 原題:La Casa Lobo / 字幕翻訳:草刈かおり

『骨』
監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ / エグゼクティブ・プロデューサー:アリ・アスター / 音楽:ティム・フェイン
2021 年 / チリ / スペイン語 / 14 分 / モノクロ / スタンダード / ステレオ / 原題:Los Huesos / 字幕翻訳:草刈かおり

(C)Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
(C)Pista B & Diluvio, 2023

《杉本穂高》
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