「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」は「バレーボールは楽しい」に気づかせてくれる孤爪研磨の物語 | アニメ!アニメ!

「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」は「バレーボールは楽しい」に気づかせてくれる孤爪研磨の物語

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第43弾は、『ハイキュー!!』の孤爪研磨の魅力に迫ります。

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『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』場面写真(C)2024「ハイキュー‼」製作委員会(C)古舘春一/集英社
  • 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』場面写真(C)2024「ハイキュー‼」製作委員会(C)古舘春一/集英社
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  • 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』新規場面写真(C)2024「ハイキュー!!」製作委員会(C)古舘春一/集英社
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  • 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』場面写真(C)2024「ハイキュー!!」製作委員会(C)古舘春一/集英社
  • 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』孤爪研磨(C)2024「ハイキュー!!」製作委員会(C)古舘春一/集英社
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    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    - 敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第43弾は、『ハイキュー!!』の孤爪研磨の魅力に迫ります。

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は、本編の主人公、日向翔陽の物語というより、その宿命のライバルである孤爪研磨の物語だった。

映画のファーストシーンは、研磨が日向に出会うエピソードのリフレインだが、本編では翔陽側の視点から描かれたその出会いを研磨側から見つめ直している。そして、試合中の描写も、挿入される過去のエピソードも研磨を中心に展開していく。圧巻なのはクライマックスの一人称視点の長回しショットだ。一人称視点の映像は、観客にその登場人物に同一化してほしい時に使われる演出法だ。この試合の結末を、研磨の視点で見届けてほしいという作り手の意思がそこに宿っている。(余談だけど、『ハイキュー!!』はシリーズを通して、視聴者にどこから見つめてほしいのかという、カメラポジションの選択が上手い作品だと思う)

研磨というライバルは、数あるスポーツマンガ・アニメの中においても特異なタイプではないかと思う。しかし、原作者・古舘春一が描きたかった「バレーボールは楽しい」ということを示すために、ひときわ重要であり、主人公を輝かせる敵役としても非常に完成度の高いキャラクターだった。

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』場面写真

■際立った能力を持たないライバル

研磨をライバルキャラクターとして考えた時の特異性は、その性格にある。スポーツマンガ・アニメの主人公の宿命の相手には、やはり強い個性や才能、突出した能力を持った存在が置かれることが多い。

しかし、研磨は運動能力に秀でているわけでもないし体力も少ない。それどころか勝負への執着心も薄い。汗をかくのは好きじゃないと言い、真面目に練習には参加しているものの、バレーボールにどれほどの情熱があるのかわからず、半ば義務的に行っているようにも見える。物語の序盤は特にそうだ。

対して、主人公の日向はバレーボールへの熱意が全身から溢れているような存在で、背が低いというハンデは抱えながらも、スピードとジャンプ力という圧倒的な武器を有し、勝利への強い意思と「もっと上手くなりたい」という情熱の塊である。

日向に限らず、本作には基本的にバレーボールが大好きなキャラクターばかりが登場する。敵も味方もほとんどが情熱的な連中ばかりだ。その中で、研磨だけがいつもゲーム機を手放さず、別のことに注意が向いているようにも見える。

孤爪研磨

■研磨はずっとバレーが好きだった

今回の劇場版は、そんなバレーボールがどれほど好きなのかわからない研磨が、ひょっとしたら自分でも気付いていなかった気持ちを発見する物語として組み立てられていた。

幼少期の黒尾とのエピソードがそれを物語る。研磨をバレーボールに誘ったのは黒尾だが、彼は研磨の性格を誰よりもわかっていた。研磨は嫌いなことに誘われたらちゃんと嫌な顔をする、ちょっとでも誘われたいという顔をすればちゃんと誘うんだと少年時代の黒尾は言う。バレーボールは研磨にとって誘われて嫌なものではなかった。普段から「自分がいなくなったら皆が困るかも」といって半ば義務のように思っていた活動も、本心では好きだった。ただ、研磨本人すらそのことに気が付けていなかっただけだ(黒尾は気が付いていたのだろう)。

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』場面写真

だから、日向のこの試合での目標は勝つことだけじゃなかった。研磨に「楽しい」と言わせることが、もしかしたら勝つこと以上に大きな目標だったかもしれない。だから、日向は、研磨が倒れ込みながら「たーのしー」と言った時に、最も大きなガッツボーズと雄叫びを上げた。

日向は物語の最初からバレーボールが大好きで、その気持ちに疑いを持つことはない。対して、研磨はバレーボールが好きなのか自分ではわからない。自分でも自覚できていない気持ちに気付かせることに、試合の勝敗以上にドラマチックな展開が発生しているのがこのエピソードの面白いところだ。それは古舘氏の描きたい「バレーボールは楽しい」ということを、最も直接的に表現した瞬間ではなかっただろうか。

試合の勝敗以上に、「楽しい」が伝わるかという大勝負がこのエピソードには描かれていた。その勝負に日向は勝った。研磨は負けたことになるのかもしれないが、得るものが大きかったのは研磨のほうだろう。だからこそ、クライマックスの一人称のショットは研磨の目線であることが重要だ。バレーボールを好きだと気付かされた奴と同じ気持ちになって、あのコートの興奮を体験してほしいと、アニメの制作陣はきっと考えたのだ。「これがバレーボールを好きになるということなんだ」と、あの長回しにはそういう気持ちが込められていたのだと思う。

「バレーボールは楽しい」を、本編を通して体現したのは主人公の日向だが、「バレーボールは楽しい」ことに気付いた瞬間を観客に示したのは、ライバルの研磨だ。地味で特異な存在だが、作品の根幹を主人公とともに支える見事なライバルだった。


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(C)2024「ハイキュー!!」製作委員会(C)古舘春一/集英社
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