「進撃の巨人」フロックの魅力。臆病な新兵から狂気の信念に殉じるまで | アニメ!アニメ!

「進撃の巨人」フロックの魅力。臆病な新兵から狂気の信念に殉じるまで

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第33弾は、『進撃の巨人』よりフロックの魅力に迫ります。

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TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season完結編(C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
  • TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season完結編(C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
  • TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season完結編(C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
  • 『進撃の巨人』The Final Season Part 2 PV場面カット(C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
  • 「進撃の巨人」「別冊少年マガジン」3月号の表紙イラスト
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第33弾は、『進撃の巨人』よりフロックの魅力に迫ります。

『進撃の巨人』で、作中最も大きく成長を遂げるキャラクターは誰だろうか。

やはり主人公のエレンだろうか。しかし、エレンは猪突猛進な初期の頃から実のところあまり変わっていないかもしれない。ライナーも自分の犯した罪について逡巡し続け、飛躍的な成長を遂げるという印象ではない。ミカサは最初から最後までエレンのことだけを考え続けているし、アルミンは大きく成長するキャラクターだが初期の頃から優秀で、その実力に見合った評価をされるようになっただけというべきかもしれない。

最も成長したキャラクター、それは意外にもフロックだったのではないかという気がする。

フロックは、最終的にはアルミンやミカサたちと敵対することになったが、彼は堕落して悪の道を進んだのではなかった。アルミンたちが信念のためにエレンを止めようとするのと同様、フロックも自らの信念のために行動しているに過ぎない。ただの臆病な新兵だったフロックが、最期にはアルミンたちを窮地に陥れるまでの存在となったことは特筆すべきことではないだろうか。

『進撃の巨人』公式ダイジェスト

「死者に意味を与えるのは生者」という言葉の重み

フロックは、調査兵団の補充団員として登場する。元々、憲兵団として安全な兵士生活を送っていた彼がなぜ調査兵団に入ったのか。それは、彼が死を恐れない「勇敢な兵士」になろうと思ったからだ。

しかし、彼はそれまで本当の死線を経験したことがなかった。漠然と、尊い目的のために命を犠牲にできることは崇高なことだと思い込み、憧れを抱いていたに過ぎない。

ちょっと小生意気な性格のお調子者だったフロックは、エルヴィン団長が立案した突撃作戦を目の前に、思いっきり弱気になる。死は無意味じゃないか、どうせ死ぬなら突撃しても逃げても同じじゃないかと問いかける彼の顔は、調査兵団に入った頃の心意気は微塵も感じられない。

そして、自分と同じ新兵たちが次々と死んでいくなか、彼だけは偶然にも生き残ることになる。それから、フロックは「おめおめと生き残った自分の役割」は何かを考えて行動するようになるのだ。

生き残った者の役割という言葉は、エルヴィン団長のある言葉を連想させる。エルヴィンは、新兵を死の突撃に向かわせるために言った「死者に意味を与えるのは生者である我々だ」という言葉と通じる部分がある。

フロックは単なる幸運で生き残り、他の新兵たちは無惨に死んでいった。その仲間たちの死は無駄だったのだろうか。フロックが何もしなければ無駄死にだろう、しかし、臆病なフロックがこの先重要なことを成し遂げるのなら、仲間の死にも意味があるかもしれない。フロックはそう考えたのではないだろうか。

狂気と信念は区別できるだろうか

仲間を死地に追いやったエルヴィンを「悪魔」と形容するフロックは、島を守るためには悪魔の力が必要だと思うようになる。

そんな彼が次に見つけた悪魔がエレンだった。エレンを崇拝するイェーガー派のリーダーとなる彼は、アルミンたちに対しても容赦ない行動を取り始める。無抵抗の人間を射殺するなど、ラディカルで狂信的な危ういリーダーとも言えるが、彼の行動は、基本的に全て島を守るためでもある。

『進撃の巨人』という作品は、主人公サイドも裏切りやだまし討ち、果ては拷問など卑劣な行為を行うところに特徴がある。良識派のアルミンですら、罪のない人々の虐殺に加担せざるを得ない時もある。フロックだけが罪のない人を殺しているわけではないのだ。

狂信と信念は、しばしば見分けがつかない。イェーガー派を率いるフロックからは、かつての臆病だった頃の姿は想像もできないほど、堂々としている。

フロックの行動原理が狂気にせよ、信念にせよ、ハンジは最後までフロックのことを非難しなかった。彼の言うことは、確実に一理あるからだ。島の仲間を守るという点ではフロックの行動は最善だったし、無惨にも散っていった新兵の仲間たちの死に意味を与えるには、彼もまた止まるわけにはいかなかっただろう。

『進撃の巨人』The Final Season Part 2 PVカット(C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会

フロックの最期を看取ったのがハンジだったのは、とても印象的だ。リーダーとしての信念を曲げなかった2人が同じ場所で散っていく。彼がいなければ、アルミンたちの作戦はもっとスムーズに運んだだろうし、犠牲も少なかったかもしれない。しかし、狂気と見分けがつかないほどの信念に殉じた彼の生き方は鮮烈だった。『進撃の巨人』という作品に深みを与える存在として欠かせない敵役だったと言えるだろう。


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第90話

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