声優・アーティストの富田美憂さんが、初のコンセプトミニアルバム『Fizzy Night』を11月23日(水)にリリースする。本アルバムのコンセプトは「大人の恋愛」。23歳になった彼女が、歌で色っぽさや大人な世界観を表現する。今回はアルバムのことに加えて、「大人になった」と感じた瞬間についてお聞きした。
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[取材・文:M,TOKU]
私、こういうこともできるよ、どうですか!?
――前回のインタビューでコンセプトアルバムのリリースを目標に掲げていました。振り返ってみると、アーティストデビュー、ソロライブの開催など、ここまで目標を達成し続けていますね。ご自身としては想定していた通りのアーティスト活動ができていますか?
びっくりするくらい順調なんです。それは、(所属事務所の)アミューズのみんな、(所属レーベルの)日本コロムビアさんが私のやりたいことを全力でバックアップしてくださっているからこそ、富田美憂音楽チームが一丸となってやりたい方向に進めている感じがします。
――そんな音楽チームと一緒に作り上げた今回のアルバムのコンセプトは「大人の恋愛」。どのようにして決まりましたか。
マネージャーさんと日本コロムビアの担当さんと私で話し合って決めました。場所は渋谷の焼肉屋。忘れもしません(笑)。実は、テーマが決まる前からすでに「Coming Up」「My Guiding Star」の2曲は手元にある状態だったんですよ。
――そうだったんですね!
はい。なので、今回のコンセプトアルバムにもこの2曲を使えたら、というところから話し合いがスタートしました。その2曲から私は夜感や大人っぽさを感じていたんです。そこから私が23歳になるということもあり、大人っぽい世界観を表現できたら素敵だよねという話になりました。ほかには春夏秋冬や星座などの案も出ていましたね。
――「恋愛」というテーマは?
今までも「恋愛」をテーマとした曲は歌ってきたのですが、収録楽曲がオールラブソングだったCDはまだなくて。そこで、「ラブソングの詰め合わせはどうですか?」と私が提案したんです。その言葉を日本コロムビアの担当さんが気に入ってくださって、「大人の恋愛」というコンセプトに決まりました。
――各楽曲の聞きどころについて教えてください。まずは「Coming Up」。
この曲は懐かしさと令和の新しさが混在したシティポップです。夜景が見える場所、例えばみなとみらいをドライブしながら聞いていただけたら素敵だなと思いながら歌いました。アルバム1曲目にふさわしいキラキラ感もある、大人っぽい曲に仕上がっていると思います。
――歌詞からも大人っぽさを感じます。
この曲の主人公って、「あなたのことが好きです」ってストレートに言わず、内に秘めているタイプなんですよね。一途に思っているのにそれを素直に言葉として言えないのが、なんだか大人の恋愛っぽいと思いました。この歌の主人公は恐らく恋をしている相手が年上なんじゃないかな。相手が大人だからこそ、もどかしさを感じている気がします。
――レコーディングはいかがでしたか?
今までの楽曲、特に富田美憂の表題曲といえばエネルギッシュ、クールでロックというイメージが強かったと思いますが、いい意味でそれが払しょくできた気がします。「私、こういうこともできるよ、どうですか!?」と提示できる1曲になりました。歌い方はあえて力を抜き、息っぽく歌うことを意識しています。
――続いては「群青Dreaming」。
アルバムのなかでいちばんセクシーを出せる曲です。自分のなかの色気を引き出すことを、すごく頑張りました。
――どういう引き出しからセクシーな表現を持ってきましたか?
母が車の中でよく椎名林檎さん・宇多田ヒカルさん・倖田來未さんなどの曲を聞いていたんですよ。そういう大人っぽい雰囲気のアーティストさんからヒントをもらいました。そこに富田美憂感を加えるために、「ジレンマ」や「かりそめ」など、今まで歌ってきた大人っぽい曲でのアプローチを思い出しながら収録をしました。
――歌ううえで難しさはありましたか?
全体的に表現の仕方が難しかったです。この曲、実は仮歌の完成度がすごく高かったんですよ。語尾の処理の仕方など、曲を提供してくださった方のやりたいことが仮歌から伝わってきました。とはいえ、それに引っ張られ過ぎると富田美憂の表現ではなくなってしまうので、私らしい大人の女性を考えたんです。結果、アウトロの部分をわざとねっとり歌うようにしました。いい意味で最後に爪痕を残せる曲になったんじゃないかなと思います。
――3曲目は「Catcher」。
アルバムに収録される5曲を並べたときに、いちばん華やかな楽曲だと思います。本曲を作詞・作曲してくださった椿山日南子さんのなかで、富田美憂といえば強気な攻めの姿勢というイメージがあったらしく、歌詞が攻めたものになっています。すごく余裕のある大人の曲ですね。
――こちらのレコーディングはどうでしたか?
家で練習しているとき、「これ、私にはちょっとキーが高いかも」と思ったので、レコーディング時のテストで半音低く歌ってみたんです。ただ、結局は元のキーのほうがみんなしっくりきて。今まではサビも地声で歌って力強さを前面に出していたのですが、この曲では、サビをほとんどファルセットで歌っています。それによって艶っぽさが出た気がしました。完成した音源を聞いたとき、いい意味で自分じゃないと感じたんです。自分の知らない自分の歌声を知りました。
――周りの人と一緒に作っているからこそ見つけられた新しい自分。
そうですね! こういうのもありなんだと思いました。
――4曲目は「ベンチ」。
大人の恋愛がコンセプトとして決まったとき、1曲はストレートな気持ちを歌った楽曲を入れようという話になったんです。そうして選ばせていただいたのが、大人かわいい本曲。コンペの段階で歌詞がすでに仕上がっていたのですが、そこに込められた日常感がすごく素敵で。その世界観を活かしたいなと思ったので、歌詞をあまり変えずに進めたいとお願いしました。
――どんな気持ちを込めて歌いましたか。
私の考える大人ないい女性って、気持ちをストレートに言い過ぎず、あえて回りくどい言い方をする人なんです。そんな人がふと素直な気持ちを出したらキュンとしませんか? それをこの曲で表現したかったんです。私もみんなをキュンとさせるぞという心意気で歌いました!
――アルバムを締めくくる曲は「My Guiding Star」。
実はほぼ1年前に完成していた曲なんです。すごくいい曲で、どのCDに入れようかと吟味していたのですが、楽曲や使われている音から冬っぽさを感じたので、今回のアルバムに収録することになりました。この曲は「ベンチ」と同じく、日常のなかにある幸せを書いた曲だと思います。曲を聞いていると、星が一杯見えるきれいな雪の夜に、ふたりが寄り添いながら歩いているイメージが思い浮かびました。
――歌ってみての感想も教えてください。
楽しかったですが、実は楽曲的にすごく難しい曲なんですよ。楽譜をいただいたとき、ひっくり返っちゃいました(笑)。自分のスキルが試される曲でしたが、またひとつ壁を越えられた気がします。
――アーティスト写真やCDジャケットもコンセプト通りの大人っぽさを感じました。
CDをリリースする度に、スタイリストさんやヘアメイクさんが「今回はこういう感じでいきましょう」とはっきり提示してくださるんです。今回も「とびきり大人にしようね」と言いながら、フィッティングやメイクをしてくださいました。小物もレトロなテレビや電話を使うなどこだわっています。これまでリリースしたCDを順番に並べたときに「富田も大人になったな」と言ってもらえたら嬉しいですね。
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将来どうなりたいかという質問に悩んだ
ーー富田さんが「大人の恋愛」だと感じたエンタメ作品はありますか?
相変わらず少女漫画をたくさん読むのですが、学生のときとは違って登場人物が社会人の作品を好んで読むようになった気がします。最近で言えば、同じ事務所の佐藤日向ちゃんも好きと言っていた『桜色キスホリック』。20代半ばくらいの主人公と、学生の男の子の恋愛を描いた漫画です。漫画のセレクトがわりと大人になってきましたね。昔からの変化で言えば、お笑い番組をよく見るようにもなりました。興味なかったものにも目が行くようになっています。視野が広がりました。
――その他、大人になったと感じることはありますか。
今まではひとつの仕事をするときにわりと自分を追い込みがちでした。今もライブ前は最大限に自分を追い込みますが、客観的に自分を見られるようになっている気がします。心の余裕が生まれたのかな。最近は精神的にも、ちょっと大人の女性になれたと思っています。
――インタビューの受け答えの仕方も、アーティストデビュー当時とは少し変わってきていると感じています。
本当ですか!?
――はい。デビュー時のインタビューでは前のめりに、一生懸命受け答えする!という感じでしたが、最近は落ち着いて質問にお答えされている気がします。それは、心に余裕が生まれているからかもしれないですね。
そう感じてもらえていたんですね! やった(笑)。ありがとうございます。
――2023年2月5日には本アルバムを引っ提げた「富田美憂 2nd LIVE ~ Fizzy Night ~」が開催されますね。
純粋に楽しみです。ただ、1stライブを超えるにはどうすればいいかという気持ちがあるというのも正直なところです。何事も最初って記憶に残ると思っていて。私も1stソロライブはかけがえのない思い出となりました。だからと言って、2ndライブが1stを超えられないと思ってはいけないんです。今はとにかく準備をしっかりして本番を迎えようという気持ちですね。今回は本アルバムを引っ提げてのライブになるので、大人になった私をみなさんに見ていただきたいです。恐らく1stライブのときは親のような目線で見守ってくださった方が多かったと思いますが、今回は「もう子供じゃなくなったんだね」と思ってもらいたいです。
――ここまで順調にきているアーティスト活動の歩み。今後もこのペースで進んでいきたい?
4枚目のシングル「OveR」をリリースしてから今回のアルバムをリリースするまでの期間で、マネージャーさんとご飯に行ったんです。そのとき、将来はどうなりたいのかという深い話をしました。私はこれからも声優業とアーティスト活動どちらも対等で、100%の力でやっていきたいと伝えました。これまで、意外と将来のことを考えたことがなかったんですよね。声優の仕事でも、ライブをするのもCDをリリースするときも、とにかく今いただいているものを丁寧にやっていく、それで一人前になれたらとしか考えていませんでした。
――なるほど。声優仲間ともこういう話はしたことがある?
最近は同世代の声優の方が増えてきたということもあってか、将来の話をする機会も増えました。仲間のなかには、「教える立場になりたい」など将来像がはっきりしている人もいれば、まだ探しているという人もいます。私もまだはっきりとは見えていません。ひとつの役を演じるのも、1枚のCDを作るのも、まだ葛藤や課題を抱えながらがむしゃらにやっています。でも人って、そういう課題や壁を乗り越えて一歩ずつ成長していくのかなって。だから、20代のうちはひとつ、ひとつのことにぶつかっていくのがいいかなと思っているんです。できることが増えてきて、いまは仕事がすごく楽しいですし。30代までに、声優としての富田美憂の立ち位置・土台を作っていきたいですね。
――富田さんが30歳になったときに同じ質問をして、どういう答えが返ってくるのか。楽しみです。
楽しみにしていてください(笑)。
――最後に、2023年の目標について教えてください。
2022年は役者としてもアーティストとしてもできることが増えたと思います。芝居では分かりやすく役幅が広がりましたし、アーティストとしては今回みたいに新たな一面を魅せられるようにもなりました。年齢とキャリアを重ねて自分の得意なことも、苦手なこともわかってきて、富田美憂の足場ができてきた感じがするので、2023年はそれをよりどっしりとしたものに固めていきたいですね。
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コンセプトアルバム『Fizzy Night』リリース情報
【発売日】11月23日(水)
【価格】2,750円(税込)
【収録内容】
1.Coming Up
2.群青Dreaming
3.Catcher
4.ベンチ
5. My Guiding Star