今回、そんなキートンさんときむらさんの“新旧ナレーター対談”が実現。『ちびまる子ちゃん』のナレーションスタイルから、演技論、さらには声の持つ力まで、大物ナレーター同志で熱く語り合っていただきました。
[取材・文=杉本穂高、撮影=Fujita Ayumi]
引退しても「ちびまる子ちゃん」がなかなか抜けない
キートン:(会うのは)これが二度目ですよね。たしか最初にお会いしたのは、羽佐間道夫さんと我々の3人がゲストで、夏休みのナレーター特集か何かの企画でした。
きむら:そうですね。もう15年くらい前のフジテレビの『ライオンのごきげんよう』という番組でご一緒させていただきました。あの時は大先輩おふたりを前に緊張しまくりでしたが、楽しくお話させていだきました。

あの時はお伝えできませんでしたが、私は子どもの頃から『一休さん』の将軍様や『ゲッターロボ』の神隼人などでキートンさんのお声はずっと聞いていたんです。
キートンさんはナレーターの先駆者としていろいろな型を示して頂きましたから、少しでもキートンさんに近づこうと勉強し続けてきました。それこそ『めちゃイケ』などでパクらせていただいたこともあります(笑)。
ですので、まさか、自分のところに『ちびまる子ちゃん』の仕事が来るとは思ってもいませんでした。

キートン:きむら君のことを子どもたちに話したら、「『めちゃイケ』のあの人だ」ってすぐわかりましたよ。きむら君の声は誰の耳にも、もうお馴染みなんですね。こういう格好いいしゃべり方は僕にはできないから羨ましいです。
きむら:恐縮です。ところで、キートンさんは今、自然の中に暮らされて、農作業をやっていらっしゃると聞きました。
キートン:伊豆半島です。東京に比べたら田舎ですね。自分の育ちが田舎なもので落ち着くんです。今年は引退して時間がたっぷりあるから例年以上に農作業に時間を費やしています。もう15年くらい続けているんですが、最初は岩だらけで畑になるような土地じゃなかったので、土を作るところからやりました。

きむら:すごい。開墾からですか。さすが北海道の方ですね(笑)
キートン:八百屋に並んでいるような野菜はだいたい作っていますよ。でも、作業を終えると、『ちびまる子ちゃん』のことが頭に入り込んできます。なかなか抜けないものですね。
まる子たちへのツッコミに遠慮はいらない
――きむらさんは『ちびまる子ちゃん』のナレーターを引き継いでおよそ3か月ですが、慣れてきた実感はありますか。
きむら:まだまだです。音響監督の本田保則さんに熱血指導されながら、毎週楽しくやらせていただいております。
例えば、「翌日」という一言もいろいろあるらしくて「うーん、違うんだな」と言われるんですが、その前の芝居があって、それを受けての「翌日」なので、こういう時は高めのテンションでとか、アニメはすごくいろいろなことを考えて作られているんだなあとびっくりしています。

キートン:僕は『ちびまる子ちゃん』が始まる前から本田さんを知っていますけど、まあ、細かいというか、厳しいというか、熱心というか(笑)。でもね、それで31年も保たれているんです。
あと、『ちびまる子ちゃん』のような、ああいうツッコミ型のナレーションは前例がなかったから、やったもん勝ちという面があったので自分のさじ加減でやっていました。
例えば、まる子と友蔵じいさんが馬鹿なことやった時は、「もう勝手にしろ」という気持ちでブン投げるように「翌日」と言ってみたり、その時の流れと自分の気持ちで変えていました。
あのスタイルはそうやってゼロから作り上げたもので、本田さんもそれがイメージにあるだろうから、きむらさんには大変だと思います。

――キートンさんは引退されてからも、毎週『ちびまる子ちゃん』をご覧になっているそうですね。
キートン:毎週観ていますよ。
きむら:いやー、観ないでください(笑)。ナレーションの箇所は飛ばしてください!

キートン:まだ他の役者さんと一緒にアフレコできてないですよね。最初からその状態では誰がやっても大変ですよ。僕も長いこと一緒に演じることで馴染んでいったんです。
他の人の声は聞きながらやっているんですか。
きむら:はい、録ってある部分は聞かせていただいています。
キートン:なるほど。でも、あの雰囲気はね、録音された声ではなかなか伝わってこないと思います。これから一緒にアフレコできるようになれば、もっと雰囲気が出てくるはずです。
きむら:そうですね。何しろ31年続いている一座に新人として入らせていただいておりますので……。
キートン:それは誰であっても穏やかじゃいられないですよね。
これはひとりでは作り上げられないものです。僕の場合は、周りの芝居にあえて左右されながら、ナレーターという役になったつもりでやっていました。
最初、ナレーターは「天の声」と言われていたんですけど、天は遠すぎると思ったので天井裏くらいの高さから家族をいつも見守っているつもりでツッコむようにしました。

あの人たちには遠慮せずにツッコんだ方がいいです。まる子は打たれ強いし、くじけませんから。最初は嫌でしたけどね、そんな嫌なおじさんにならないといけないのって(笑)。
さくらももこさんが実際に脚本を書いている時はもっと鋭いツッコミだから、「こんなこと言って平気なの?」って何度も相談しましたけど、さくらさんはキートンさんが言うなら大丈夫と言われるので、思い切りやるようにしました。

きむら:他の出演者の方も遠慮せずにもっとガンガン言っていいとおっしゃってくださるんですが、今のお話をキートンさんからも聞けて嬉しいです。
キートン:みんな揃ってアフレコできるようになったら、こっそり遊びに行きます。その時だけ僕が「後半へつづく」って言いますから(笑)。
きむら:それはぜひ! 少しずつですが、今日はブー太郎とだけ一緒にやってみようとか、少しずつ練習させてもらっています。
キートン:その積み重ねが全てです。そうやって徐々に熟していけばいいんです。だから、楽しんでやった方がいいですよ、しょせん娯楽なんですから。
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