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「あにめのたね2021」詳細はコチラ(特集ページ)
2014年度より実施されてきた若手アニメーターの育成事業を、今年度はさらに拡大し、アニメーション制作の全ての工程に関わる人材の育成をめざして行われた。
そのプロジェクトの1つ、「作品制作を通じた技術継承プログラム」を通して、制作受託先として選ばれた4社が短編アニメーションを制作した。
『宝石の国』や『BEASTERS』で知られる有限会社オレンジも本事業に応募、受託先の1つとして選ばれた。CGアニメの制作会社として名を馳せる同社だが、どのような課題意識で今回の事業に取り組み、どんな成果があったのかをうかがった。
[取材・文=杉本穂高]
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取材に参加したのは以下の7名。
和氣澄賢氏(プロデューサー)、渡邊喜洋氏(アシスタントプロデューサー)、仲元融昭氏(制作進行)、織笠晃彦氏(監督)、長川準氏(リードモデラー)、丸山かおり氏(CGサブディレクター)、北村紗氏(モデラー/リガー)。
技術継承の課題からコンセプトを考えた
――オレンジさんの「あにめのたね」応募動機は何だったのでしょう?
渡邊:スタジオとして、これまで培ってきた技術をどう継承していくかが長年の課題でした。
普段の仕事はクライアントあってのものですから、課題に適したタスクを割り振れるにも制限があったり、一定以上のクオリティを求められます。なので、失敗しながら学べる機会が欲しかったところ、この事業があるのを知り、良い機会だと思い応募を決めました。
具体的な育成内容として、モデラーとアニメーターの育成、そしてCGアニメーション出身の演出家を育てたいという思いを持っていて、今回織笠に監督をやってもらいました。
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――今回の作品コンセプトは、その課題から逆算して考えられたのでしょうか。
渡邊:そうですね。原案や原作がある企画だと、どうしてもキャラクター数や舞台の数をそれらに合わせて予算を調整する必要があり、必ずしもアニメーションののみに注力できるとは限りません。
なので、今回はCGアニメーションの課題を優先して、作る上でそのための制限、モデリングの数を抑えるなどを設けて、織笠に原案を作ってもらいました。
織笠:今回のように短期間の制作になるとわかっている場合、あらかじめデザインの段階で髪の毛があまり動かないようなものにするとか、影がなくてもいいものにするなど、先に省力化をやっておくこともできます。
しかし、今回は育成が目的ですから、キャラクターも妥協せず、髪の毛もよく動き、影もあるという方向を選択しました。
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アニメで動かす最適なモデルの作り方を実践
――モデリングについて、アニメで動かすために最適なモデルの作り方を目指したとうかがいました。具体的に何を指すのでしょうか。
長川:まずアニメーションでは、第一に骨格が重要です。骨を作る作業をリギングと言いますが、そこが間違っているとアニメーションをつける時にも影響が出てしまいます。モデリングの先の工程を踏まえて作業しないとプロジェクトは円滑に進みません。
今回は、キャラクターのモデルを作るのが初めてのスタッフで大変だったと思いますが、アニメーション映えするキャラクターができたと思います。
弊社では普段、モデルのチェックは画像に赤入れをして、こういう風にお願いしますと指示するやり方をしていますが、今回は育成なので、実際のデータ上でチェックバックを行って一緒に作っていくやり方がいいかなと思ったので、Blenderを使ってチェックを行いました。
Blenderは処理が軽くて、トライアンドエラーもしやすいので、育成に適したツールだという手応えを得られました。
男性キャラのクリストファーのモデリングを担当したのは、今日ここにいる北村です。
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――北村さんは、キャラクターのモデリングは完全に初めてだったのですか。
北村:今までキャラクターの一部分を担当することはあったんですが、キャラクターの全身を作るのは初めてでした。骨格を把握するのや髪の毛が特に難しかったです。
モーションキャプチャーからアニメ的「タメツメ」を生み出す実践
――アニメーションについてもお聞きします。オレンジさんといえばモーションキャプチャーのイメージがありますが、今回もモーションキャプチャーを用いていますね。
織笠:作品全体で約90カットあって、そのうち約40カットほどでモーションキャプチャーを使用しています。僕がアクターをやって動きを撮りました。宇宙飛行士の男性キャラクターの動きはほとんどモーションキャプチャーから起こしています。
――女性キャラクターのキアネは手付けで動きをつけているのですか。
織笠:上半身だけのカットでモーションキャプチャーを使ったシーンもありますが、幽霊なので浮いていたりもしますし、ほとんど手付けです。
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――男性はリアル調のデザインで、女性はアニメ調で表情も豊富です。やはり女性キャラクターの方が表情づけなど難しかったのでしょうか。
丸山:そうですね。絵心がないと女の子の方はすぐ作画崩壊みたいな状態になってしまうので。表情豊かなぶん、実現するのが大変でした。
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――そもそもモーションキャプチャーでアニメーションの芝居を作る良さはどこにあるとお考えなのでしょうか。
織笠:基本的な人間の動きをベースにできて、それを効率的に描けるということです。ベースをそのまま使わず、捨てたいところは捨ててもらって構わないんですが、人間の動きを認識しているのとしていないのとでは、大きな違いが出ます。そこからアニメらしい誇張やケレン味をつけると効率も良くて上達も早いんです。
――実際の人間の動きを参照するのは、人材育成面でも大きなメリットがあるのですね。実際にアニメ的なタメツメの動きを作る時、どんな点が難しかったですか。
丸山:モーションキャプチャーの動きを抜きすぎて、逆にアニメっぽくない動きになってしまったりすることがありました。
織笠:モーションキャプチャーで撮った動きは、アニメに例えると絵が多すぎる状態です。その枚数を減らしていくんですが、最初に減らしすぎても良くないんです。
後から手付けでカバーできる人はいいですが、枚数が少なすぎると硬いロボットみたいな動きになってしまうし、多すぎてもノイズになってしまいます。
――今回参加されたアニメーターさんもキャラクターの芝居は初めてという方が多かったそうですが、アニメ的なタメツメの芝居をどう教えたのですか。
織笠:絵コンテからいきなり作ってもらうのではなく、段階的に一緒に作っていきました。モーションキャプチャーから絵を起こし、絵を減らしてチェック、そして次はタメツメをつけてさらにチェックと、一緒に各工程を積み上げていくイメージです。
――素朴な質問ですが、車などの乗り物とキャラクターを動かすのでは、どのくらい大変さが違いますか。
丸山:人間だと骨格があるし、指もそれぞれ動きますから、それだけ動きをつけるアニメーションキー(画・情報)が多いんです。車などはキーがそれほど多くないですから、ある程度理屈で動かせますけど、人間の場合、骨格を理解していないと芝居を作るのが難しいです。
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オレンジ独自の制作工程管理とは
渡邊:クリエイターの課題の他、弊社の制作管理の課題にも今回挑戦しています。弊社が元請けとして制作管理を始めたのは『宝石の国』からですが、その時和氣が入社して制作管理システムを作りました。
そして後から仲元が入ってきたんですが、CGアニメーションの制作工程も細分化されており、未経験の工程もあるので、今回の短編では、仲元に全ての工程管理をしてもらいました。
和氣:弊社の制作フローの大きな特徴は、コンテ撮の段階でプレスコをして、それを元にアニメーションを作っていく点です。あと劇伴作家さんにムービーを渡すタイミングも大切にしていて、フィルムスコアリングとまではいきませんが、それに近いやり方を目指しています。
なので、プリプロからポスプロまでトータルに見えていないといけないので、これまで作画アニメの制作経験しかなかった仲元に制作進行として全体を見てもらうことにしました。
仲元:私は以前、作画の制作スタジオに勤めていたんですが、CGの工程はまだ理解しきれていない部分がありました。今回一人でモデリングからアニメーション、ポスプロから納品まで担当して、編集や音響、V編など社外の方々とも密にやりとりできたので、これまでできなかった経験ができて理解が進みました。
――コンテ撮でプレスコし、そこからアニメーションを作るフローにすることで、どういう点で質が高まるのでしょうか。
和氣:声優さんが考えた芝居の幅をアニメーターが反映させられることですね。
――実際、表情芝居を作るとき参考になりましたか。
丸山:はい。声の雰囲気でアニメーションの芝居も変わってきます。
織笠:口の動きや大きさも、やはり声優さんの音量やニュアンスで変わってきますので参考になります。
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――オレンジさんは普段の作品もこの制作フローで作られているのですか。
和氣:『宝石の国』以降はこのやり方をベースに、作品ごとに調整しながらやっています。今回の作品では、コンテ撮のあとにカラースクリプトと、表情修正を行っています。
本来のCG制作では表情修正はセカンダリという、もっと後ろの工程で行いますが、今回は前の段階で答えを見つけてコンテを修正したり、カラースクリプトでライティングの雰囲気を最初に掴んでおくということをやっています。
普通の現場だとイメージボードを何枚か描いて済ませるところ、もう少しカット単位でライティングの調整を密にできないかと考えました。
CGならではの演出手法の模索
――今回は、コロナ禍での作業になったと思いますが、育成事業においてリモートワークのメリット・デメリットはありましたか。
仲元:リモートワークにはskypeでグループを作ってやりとりしていましたが、対面でコミュニケーションできないストレスはありました。文章ベースだと言いたいことも言いづらかったり、間違って伝わったりすることもありますし、制作としては大分やりにくかったです。
渡邊:オレンジは、もともとひとつの場所に集まって作るという考えが強いので、今の状況がこれからもずっと続くのであれば、リモートワークについてはさらに適した環境を整える必要があると考えます。
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――今回の事業の経験を、御社の今後の運営や育成にどのように活かしていきたいですか。
和氣:僕が今回一番成長してほしいと思っていたのは、監督の織笠なんです。弊社は、CGアーティストから演出を輩出したいと思っています。それこそ、宮崎駿監督や高畑勲監督、出崎統監督などの諸先輩方は、作画の技術的なことを踏まえた上で演出をされまし、何だったら作り方自体をつくってきた、もしくは変えてきた人たちですよね。
CGアニメーションもCGの技術的なことを踏まえて演出ができるようになるといいと考えていて、その意味で今回の事業は、今後のオレンジを考える上でも大きなヒントになったと思います。
織笠:これまでいろんな作品に関わってきて、CG作成を担当してきましたが、音響や編集、さらに先の段階まで関われることはありませんでした。今回の事業を通して、監督という立場で初めて美術さんや編集さん、音響さんとのやりとりを学ぶことができました。
今まさに、TVシリーズに関わっているのですが、レイアウトやアニメーションの作り方などひとつひとつの考え方に、今回の経験がかなり影響しています。この経験を僕だけではなく、オレンジのみんなと共有していきたいと考えて動いています。
――すでに、普段の仕事で、今回の経験が活きてきているのですね。最後に、「あにめのたね2021」事業報告シンポジウムの無料配信では本作も観られるということで、注目ポイントなどがあればお願いします。
織笠:育成事業ではありますが、ひとつの作品として、きちんとした完成度の作品になったと思いますので、楽しんでいただけたら幸いです。
完成作品も観られる! 「あにめのたね2021」事業報告シンポジウムの無料配信はコチラ(2021年4月12日11時59分まで)