「コロナ禍におけるアニメ・マンガイベントの運営」のセッションが行われたのは2月27日の11時30分から13時までの90分間。
登壇者は、コミティア実行委員会代表の中村公彦氏、新千歳空港国際アニメーション映画祭チーフディレクターの小野朋子氏、聖地巡礼プロデューサーの柿崎俊道氏の3名。アニメ評論家の藤津亮太氏がMC兼モデレーターを務め、「コロナ渦に見舞われた2020年のアニメ・マンガイベントがどのように運営されたのか?」をテーマに実績報告とクロストークが繰り広げられた。
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「コミティア」の2020年の取り組み
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コミティアとは1984年より年4回開催されている同人誌即売会のこと。オリジナル作品のみを扱う、いわゆる「オンリーイベント」で、2019年の出展サークルは4000組から5000組、来場者数は2万人から3万人となっている。
2020年に開催したものについては、2月開催が総来場者数3割減、5月開催は緊急事態宣言を受けて中止に。9月開催は人数制限の関係でやはり中止。11月は感染症対策や入場制限を行ったうえで開催したものの、収容人数が制限されていたこともあり出展数は通常の1/3、来場者数も通常の1/2という結果に終わった。
そして翌2021年2月開催予定だったコミティアは、2度目の緊急事態宣言を受けて中止に逆戻りした。
次の開催は6月を予定しているものの、そちらは状況を見て適切に判断するという。
11月に開催した際には、5月と9月の開催を見送っていたことで経営的に行き詰まっており、事前に実施したクラウドファンディングがおもな開催費用となっていた。
目標金額は、現実的なラインを想定した3000万円。募集期間は2020年8月28日から10月23日までの約2ヶ月間だ。
結果として、目標金額は開始8時間で達成。最終的に1万1980人の支援者と1億4791万1500円の支援額が集まった。
コミティア実行委員会代表の中村公彦氏によると、支援が得られた背景にはコミティア36年の歴史があるとのこと。コミティアがある意味「心のふるさと」になっており、現在参加している人はもちろん、かつて参加していた人、各企業も積極的に助けてくれた。
なお11月開催のコミティアでは、開催費だけでなく様々な負担が運営にのしかかったという。
まずはスタッフに課せられたタスクだ。入場制限、ソーシャルディスタンスの確保、参加者の連絡先把握、検温や消毒液の設置など、通常よりも作業量が増加した。
感染症対策にかかる費用も、入場者管理用に別ホールを借りたり、検温を証明するリストバンドを製作したりして200万円以上の追加負担があった。
開催を見送ったイベントについては、代替企画として「エアコミティア」を実施。
これはTwitterのハッシュタグを用いたソーシャルメディア上の交流で、新作・旧作同人誌の発表、ライブドローイングの配信やダウンロード販売への誘導が個人単位ではあるが積極的におこなわれた。
結果、本来は対面で成立しているイベントであるため、オンラインだけでは実収入につながらなかったものの、宣伝効果が高いということで好評を得た。
その結果を受け、中村氏はリアルイベントをベースにしながら、今後も補完するツールとして「エアコミティア」を活用したいと語る。
同人誌即売会の今後については、同人誌印刷会社の存続も大きなポイントとなっている。
これまで同人作家と印刷会社が二人三脚でインフラを発展させてきたが、実本が作られなくなると、ともに育ててきたインフラが廃れる懸念がある。
そのためにもリアル開催にこだわりつつ、ソーシャルメディアやオンラインとの共生でマーケットの拡大やイノベーションを生み出していければと中村氏は結んだ。
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「新千歳空港国際アニメーション映画祭」の2020年の取り組み
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新千歳空港国際アニメーション映画祭は2014年にスタートしたイベントで、空港ビルに常設されている映画館「新千歳空港シアター」をメイン会場にした催しだ。
毎年11月に4日間開催されており、作品上映やゲストを招いたトークショーのほか、空港のパブリックスペースを利用したワークショップや展示なども行われている。
なお2019年の実績は、コンペティション応募作品数2200以上、総来場者数は4万3000人を超えて過去最高の盛り上がりを見せた。
コロナ渦に見舞われた2020年は、中止には至らなかったもののリアルとオンラインにて開催。
リアル会場では作品上映のみを実施してゲストの招待は見送りに。その代わりトークプログラムはすべて事前収録による配信という形で対応した。
また通常は会期中に行われるコンペティションの審査もすべて事前収録にて対応。国内外から集う審査員も国内の審査員に限定し、作品鑑賞、審査会議、受賞作品の発表まですべて収録したうえで11月にオンラインで配信した。
ただしすべてがネガティブだったわけではなく得られたものもあった。
一部ゲストトークの収録や開会式・授賞式の配信は、渋谷のライブストリーミングスタジオ「SUPER DOMMUNE(スーパードミューン)」にておこなわれ、「SUPER DOMMUNE」のファン層に映画祭を知ってもらう良い機会となった。
その点についてチーフディレクターの小野朋子氏は、公式YouTubeチャンネルだけでは得られない新規ファンの開拓にもつながったと語る。
そのほかオンライン会場では、150作品以上の短編・長編アニメーションの有料配信も実施。11日間で10万7000再生数を記録した。
オンライン開催をすることで北海道までの距離が縮まり、結果的に新規のファンに訴求できた2020年開催。
しかしイベントが開催された日程は自粛期間とぶつかったため来場者数が激減。本来、ゲストとして招かれるはずだった海外のアニメーション作家にとってはファンとの交流の場が失われた結果となり、小野氏はアニメーション作家らのモチベーション低下を危惧していた。
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「聖地会議EXPO 2020」の取り組み
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「聖地会議EXPO 2020」とは、聖地巡礼プロデューサーの柿崎俊道氏が2020年12月に開催した個人イベントのこと。「聖地巡礼」をおもなテーマに、柿崎氏のこれまでの取り組みやイベントをワンフロアにギュッと押し込める形で開催した。
イベントの内容は、ご当地コスプレ写真や『輪廻のラグランジェ』のオープニングカットの展示、トークショウ、過去に開催した「カピバラ写真展」の第6弾などバラエティ豊か。
もともとこのイベントは、柿崎氏の聖地にまつわる同人誌のプロモーションとして企画したものだった。
コミティアをはじめ作品を発表する場がなく、それならば個人でその場をつくろうということで実現させたイベントだった。
ただしすべての企画を柿崎氏が制作したのではなく、ライブステージなどは基本的にディレクター制にしたという。柿崎氏はあくまで場を提供したりサポートをしたりする総合プロデューサー。個々の配信はそれぞれの担当者が機材などを負担をした。
そんな「聖地会議EXPO 2020」がコロナ渦のイベントで得たメリットは、すべてのトークイベントをライブ配信したことでアーカイブ化できたことだ。
現在でもイベントの全動画を視聴することができるため、会期が終了しても継続的に取り組みを発信できるという。
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クロストーク「2020年の取り組みを振り返って」
クロストークの最初のテーマは「クラウドファンディングについて」。
コミティアは公的支援など手を尽くした後、最後の手段としてクラウドファンディングを決めた。
そこには会社を畳むかどうかの切羽詰まった経済状況があったという。
新千歳空港国際アニメーション映画祭でもクラウドファンディングの話が出たものの、まだやるべきことは残っているということで本格的な検討には至らなかった。それは公的支援も同様で、スポンサーに支えられている現在はその段階ではないという。
「聖地会議EXPO」は個人開催ならではの身軽さを重視。
個人でやりたいことを100%実現するため、技術系のサポートやゲスト、運営に必要な関係者を除き、必要以上に外部の人間に頼らないことをスタンスとしている。
そのような事情があるため、現状はリターンの労力やお金を集めることの責任をデメリットと捉え、なるべく支援を受けないようにしているという。
リアルイベントのあり方については、やはりコミティアも新千歳空港国際アニメーション映画祭も模索をしている真っ最中だ。
これまでリアル開催が前提で盛り上げてきたイベントは、対面の交流だからこそ、「ここだけの話」として秘話などを聞くことができた。それが結果としてイベントの醍醐味となり、オンラインでは味わえない「楽しさ」となっている。
また収録は編集のコストが別にかかることが足かせとなってしまう。その点はライブ配信をアーカイブとして残すことで回避する方法はあるものの、新千歳空港国際アニメーション映画祭では事前収録を採用していたこともありひとつの懸念として伝えられた。
こうした現状を踏まえ柿崎氏は、イベントをどう存続させるか?という点で苦慮しているコミティアと新千歳空港国際アニメーション映画祭に対し、規模にこだわらなければ場所はいくらでも融通がきくと発言する。
そのほか収益を考えないこともひとつの道だと見解を示した。
クロストークの最後は、「リアルに軸足を置きつつ、いかにイベントを存続させるのか?」で3者の見解が一致。
先の見えない状況の中、今後もイベント運営者の模索の日々が続きそうだ。
[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]