アニメーターの鬼門“日常芝居”、とくに難しい描写は? 「みちるレスキュー!」にみる若手育成法【あにめたまご2020 インタビュー】 3ページ目 | アニメ!アニメ!

アニメーターの鬼門“日常芝居”、とくに難しい描写は? 「みちるレスキュー!」にみる若手育成法【あにめたまご2020 インタビュー】

若手アニメーター等人材育成事業「あにめたまご2020」より、『みちるレスキュー!』を手掛けたゆめ太カンパニーの於地紘仁監督と天野幸大プロデューサーにインタビュー。本プロジェクトで得られた知見についてお話をうかがった。

インタビュー
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『みちるレスキュー』(C)於地紘仁・ゆめ太カンパニー/文化庁 あにめたまご2020
  • 『みちるレスキュー』(C)於地紘仁・ゆめ太カンパニー/文化庁 あにめたまご2020
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  • 於地紘仁監督・天野幸大プロデューサー
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■変わりつつある商業アニメ制作環境


――日常芝居の他に、若手アニメーター育成において注力した点はありますか?

於地:概して言うと「自分で考えて描く」ということでしょうか。
たとえばレイアウトを描く際、望遠なのか、広角なのか、横位置なのかなど、どういう意図でそのパース(遠近法)を選択したのかということを考えてもらうようにしていました。

差し戻しする際も「このレイアウトだとこういう表現がしづらくなるよ」だとか「このカットの演出意図と合っていないよ」など、きちんと理由を添えるようにしました。
通常の業務であれば「これ直してね」というだけなのですが、それでは育成になりませんからね。

――確かに、それはかなり頭を使う作業になりそうです。

於地:普段なら「こういう感じじゃないんだよね」という感覚的な部分があって、大抵そういうものは自分で直してしまったり作監に直してもらったりで済ませてしまうことが多いのですが、今回はなぜその感じじゃないのか、その「感じ」とは一体何なのかを自分自身も考え直し、演出意図というレベルで説明を付けてリテークとして返さなければなりません。

こちらにとっても大変でしたし、改めて勉強になりました。

――単にデッサンの正しさや動きの自然さだけでなく、シーンの演出意図を理解することもトレーニングしていたのですね。

天野:現在の商業アニメの制作状況ですと、コンテの絵面だけをなぞってレイアウトを取ってしまうことも多いんです。
今回のプロジェクトにおける弊社のコンセプトとして、コンテから監督の望む芝居を読み取って演技を考えるということを身に付けてもらいたいということがありましたので、監督や指導スタッフにはその点に特に注力していただきました。

『みちるレスキュー』(C)於地紘仁・ゆめ太カンパニー/文化庁 あにめたまご2020
――レイアウトをめぐる制作環境やアニメーターの意識について、以前と今とで違いはあるのでしょうか?

於地:制作にかけられる時間が少ないので、最近はレイアウトにラフ原画を付けてしまって一緒に出すパターンが多いです。その場合、レイアウトに合わせて原画を描くのではなく、原画に合わせてレイアウトを描くという意識の逆転が往々にして起きているように思います。動きを優先したためにレイアウトが演出意図からずれてしまうことが多くなっているのではないでしょうか。

ただ、今回のようにラフ原画なしのレイアウトの場合、芝居を考慮せずに背景を描くと実際に動かしたときにキャラクターに合わなかったりキャラクターが画面に収まらなかったりということが起きやすくなります。若手の原画マンには却って難しい作業方法だったかもしれません。

――他にも制作環境の今昔で変わったと実感されているところはありますか?

於地:以前と比べるとコミュニケーションを取りながらものづくりをするのが難しい環境になっていますね。
昔は演出家やキャラクターデザイナー、作画監督など中核となるスタッフが、制作会社など1つの場所に集まっていることが多く、コミュニケーションを取りながら作ることができていました。

一方現在は、原画マンは自宅に、動画マンは別の会社に、演出家も1話1話別の会社の人ということもよくあります。
これだとちょっとした演出意図の確認などはできなくなってしまいます。

今回のプロジェクトでは1つの作品に1つの場所で取り組むというレギュレーションが設定されていたため、若手アニメーターのみなさんには、顔を突き合わせながらものづくりすることの価値を実感してもらえたんじゃないかと思います。

於地紘仁監督・天野幸大プロデューサー
――あにめたまご特有のレギュレーションは他にもあったんでしょうか?

於地:先述のレイアウトを先に完成させる件もそうですし、カット毎の枚数に関する規定や海外に下請け発注してはいけないことなど、多数ありました。
ですがそれらは全て本来のあるべき姿に立ち戻りましょう、という意図から来ています。

今の商業アニメは様々な工程やあるべきコミュニケーションをかなり端折っていて、歪んだ形になっているんだなあと、プロジェクトを通じて改めて実感しました。

――教える側にとっても学びの多いプロジェクトだったのですね。

■「自分で考える」ことと業界の課題


――それでは最後に、本プロジェクトを通じて手応えを感じたところを教えて下さい。

天野:今回の参加メンバーはキャリアや実力にバラつきがあったのですが、総じて成長が見られたと様々な方に仰っていただけました。
それが本プロジェクトに参加してよかったなと思えるところですね。

於地:今回若手アニメーターには前半後半2パートに分けて作業してもらったのですが、前半パートに比べて後半パートは自分で考えて描く意識を持って「ここはこういう動きになると思うんですけど」や「こうしたいんです」と言ってくる人が増えたように思います。
そこは自分としても1つ達成できたところといっていいんじゃないかなと思います。

一方で、今回は各人30カット程度やっていただきましたが、この量で教えてあげられることは非常に限られています。
今回のプロジェクトが終わった後も継続的にトレーニングをすることが大事ですので、そういった場や機会を増やしていくことが業界全体に求められるのではないかと思いました。

於地紘仁監督・天野幸大プロデューサー
《いしじまえいわ》
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