■幅広い層のキャラクターが登場する意義
――声に関する部分では、どういったところが聴きどころでしょう?
安本:ミランダおばさんを演じていただいた谷育子さんの演技には特に圧倒されました。
寺本:ミランダおばさんは原作では厚みのある人物なのですが、今回は20分だけしか描けないため、ともするとただガミガミ言ってくるだけのおばさんに見えてしまう難しいキャラクターなんです。
なので声に品があって人柄を感じさせる演技ができる谷さんにオファーをしました。
80代の方ということで失礼ながら心配していたところもあったのですが、もう本当にお元気で、演技も大変素晴らしかったです。
安本:鳥肌ものでした。
寺本:「ザ・ミランダだ!」ってみんな言ってました(笑)。演じていただけて本当によかったです。
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安本:島田敏さんや天野由梨さんも、代表が『私のあしながおじさん』という作品でお世話になった縁でご参加いただきました。
「いつかまた世界名作劇場のような作品を作ることがあったら一緒にやろう」と約束をしていたそうです。
寺本:主役の和多田美咲さんはテープオーディションで選ばせていただいたのですが、非常に子供らしい演技をしてくださってレベッカのイメージ通りでした。
――収録は全員で一度に行ったのですか?
寺本:はい。みなさんがスケジュールを合わせてくださって、一度に収録することができました。昔に比べて最近のアニメでは、新人とベテランが一同に会する現場が少なくなって来ているそうです。
――確かに、若者キャラクターが中心の作品だと必然的にキャストの年齢や実績も似たものになりますね。
寺本:以前私が監督した『怪盗ジョーカー』という作品で「ベテランの方と一緒に収録できて、その演技を見られるのはとても勉強になることなので幅広い年代のキャラクターが登場する作品は大変ありがたい」と言っていただいたことがあります。
本作も、若いキャストの方にとって学びのある作品になったのではと思います。
■動画協会による特別カリキュラムの意義
――続いて、新人教育の観点からお話を伺いたいと思います。本プロジェクトには日本動画協会による講習がありますが、監督やプロデューサーも参加されましたか?
安本:はい。実務をしているなか、アニメに関する専門的な講習をみんなで受けに行くことはほぼ不可能ですので、このプロジェクトで高名なクリエイターの方々による講義や実習を受けられたのは非常にありがたかったです。
――具体的にはどんな講義があったんでしょうか?
安本:神志那弘志さん(こうじな・ひろし、スタジオライブ代表)による作画の実習やニコンさんのカメラを用いた撮影実習などが印象的でした。
フリーランスが多いアニメーターのための、税金に関する講座もありました。
寺本:このプロジェクトには指導される若手アニメーターだけでなく、一緒に制作を手伝う中堅アニメーターも参加しているのですが、彼らの参加理由の一つが、プロジェクトに参加すればこのあにめたまごの講習を受けられるから、というものでした。
仲間内の他のアニメーターから「あの講習はよかったよ」と伝え聞いていたようです。
――この育成事業も今年で10年目ですので、そういった評価もアニメーター界隈で認知が広がっているのですね。
安本:基本的なことを非常に丁寧に、論理的に教えて下さるカリキュラムだったという印象です。
また、他のスタジオさんと合同で受講し、制作経過の中間発表も行うので、コミュニケーションを深めながら相互に刺激を与えられたことも良かったと思います。
特に3Dのスタジオさんの作品にはこちらが精通していない分圧倒されましたね。
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