「資金回収するまでが監督の仕事」糸曽賢志が“製作委員会方式”に頼らないアニメづくりを行う理由 | アニメ!アニメ!

「資金回収するまでが監督の仕事」糸曽賢志が“製作委員会方式”に頼らないアニメづくりを行う理由

“宮崎駿監督の弟子”糸曽賢志監督による映画『サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~』『コルボッコロ』。クラウドファンディングを用いるなど、製作委員会方式に頼らない作品づくりで注目を集めてきた糸曽監督にお話をうかがった。

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“宮崎駿監督の弟子”による初の劇場アニメ作品が2019年冬に公開される。
それが、糸曽賢志監督による『サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~』『コルボッコロ』だ。

『サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~』『コルボッコロ』
『サンタ・カンパニー』は、糸曽賢志監督のオリジナル作品。2014年に短編アニメを糸曽監督自らが出資して制作し、当時はまだ珍しかったクラウドファンディングを用いるなど、製作委員会方式に頼らない作品づくりで注目を集めてきた。

だが、監督自らが作品を制作して資金回収まで考える姿勢は、スタジオジブリの宮崎駿監督と鈴木敏夫プロデューサーの役割分担を徹底したやり方とは真逆である。何故、作品づくりに専念せず、資金繰りまで? そこには師匠・宮崎駿監督への糸曽監督ならではのリスペクトがあった――。
[取材・構成=乃木章]

■「資金回収するまでが監督の仕事」


糸曽賢志監督インタビュー
糸曽監督は、1998年にスタジオジブリが公募した「東小金井村塾」に参加。宮崎駿監督の傍でアニメーション演出における教えを受けた後、大林宣彦監督プロデュースにて実写映画『セイキロスさんとわたし』で初監督を務めた。
その後、ハリウッドアニメ『トランスフォーマー』、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』など、アニメ・実写問わず手がけてきた。さらに監督業の傍ら、大阪成蹊大学にて芸術学部長・教授として後任の育成にも力を入れている。

世間一般が抱く監督の仕事は「作品を完成させるまで」だが、糸曽監督は「自分が作りたい作品を納得いく形で視聴者に届け、しっかりと資金を回収するまでが監督の仕事」だと考えている。
その結論に至った裏には、2人のアニメ監督の存在があった。

■新海誠監督に触発され、今敏監督の言葉で迷いが吹っ切れた


その1人が『君の名は。』で知られる新海誠監督だ。新海監督は、2002年公開の『ほしのこえ』で当時の自主制作アニメとは思えないほどのクオリティの高さで話題を集めた。
糸曽監督は「1人でアニメを作ることでこんなに注目を浴びるのか」と触発され、自主制作アニメを作ることを決意したという。

「しかし、オリジナルの企画がなかなか通らない。悔しいから是が非でも通してやろうと思ったら、自分でお金かき集めてやるしかなかった」。

とはいえ、資金回収できないと多額の負債を抱えてしまうリスクがある。それを防ぐ仕組みを考えていたところ、チャレンジを面白いと思ってくれる人や座組に興味を持ってくれた人が「今回は権利とかはいいから、とりあえず応援するよ」と製作費を投資してくれるようになった。監督自ら資金回収することに手応えを感じた瞬間だった。

一方で、周りからは「糸曽さんはプロデューサーっぽいよね」と言われ、監督には向いていないのではないかと悩んだ時期もあったと明かす。
救われたのは、糸曽監督が今敏監督の劇場アニメ作品『夢みる機械』に演出として参加した時に、尊敬する今監督からの「職業・役職は関係ないから、既存の疑念にとらわれず、やりたいようにやれ。」という激励だ。

「僕が職業の枠を超えたやり方を貫き通すことで、クリエイターを目指す人の中に『将来は糸曽監督のようになりたい』という人が出て来ると言われたんです。それがブランドにもなると。『そう言う考えもあるな!』と胸にストンと落ちましたね。今監督にはとても感謝しています。」。

それ以来、監督の仕事はここまでと決めることなく、資金集めも回収も含めて自ら行うようになった。

「そのぶん一作をつくるのにすごく時間がかかってしまう。だいたい4~5年ぐらい。アニメーション制作だけに集中できればと思いますけど、そうでない以上、できることを一生懸命やるしかないですね」。

■「監督もリスクを負うべき」


糸曽監督は海外クラウドファンディングを活用した作品制作にも造詣が深く、累計調達金額は8億円以上でギネス記録にも登録されている。意外なことに「クラウドファンディングはあくまでもプロモーションの一環」だと割り切っている。

理由は2つ。まずは日本より先に浸透した海外でもクラウドファンディングが盛り下がっている背景もあり、お金が集まってもアニメやゲーム制作に必要な金額に1桁足りないのが現状だから。

もう1つは、「そもそもクラウドファンディングで全部解決しようとするのが安直」という糸曽監督の信念に基づいている。人から集めたお金だけで作ろうとするのは、監督自身がリスクを負っていないからだ。

「例えば、1億で映画を作ろうとしたら、まずは自分で5000万円出しましょう、と。そのためなら例えば家を売るぐらいの覚悟を持てというのが僕の意見です。僕は今回のもそうですけど、私財投入してやっています」。

糸曽監督が自らリスクを負う背景には、そこまでしないと投資家が資金提供に乗ってくれなかった経験がある。『サンタ・カンパニー』を初めて自主制作すると決めた時に、自身は1円も出さないまま制作費を募って会社を回ったが全て断られた。

「ある社長に、『監督はファンをどれだけ持っているかが評価されるから、それが見えない状況でお金を出すのは難しい。だから、君がそれで悔しいのなら10年かけて1人で作るか、今すぐ私財売ってでも周りを巻き込むしか無いでしょ』と言われたんですよ」。

その意識を持って取り組んできたからこそ、今回の劇場アニメでもオタク系のコンテンツ業界に特化した仮想通貨「オタクコイン」、クリスマスに子供のためにサンタクロースを派遣する「NPO法人チャリティーサンタ」などとの提携が得られた形だ。

■周りを巻き込み、広がっていく可能性があるクラウドファンディング


ただ、クラウドファンディングは資金調達が成功しても、支援者にリターンを返すやり取りが煩雑だとよく言われる。しかし、糸曽監督はその「大変な部分」を面白いと感じている。

商品が届いていなかったり、スタッフロールに名前を載せ忘れたりといった落ち度も、何度もやり取りをして真摯に対応することで、相手も許してくれる。逆にそのやりとりで信頼してもらえて、「俺、イタリア語できるから字幕無料で作るよ」と言ってくれる人もいたそうだ。

「そういう交流が生まれた時に面白いなと思ったんですよ。だから、そういうのも含めて自分の人生を豊かにしたり、視野を広げたりするきっかけになるんだったら、僕はやり続けたいなと思います」。

■宮崎駿監督の劣化版にならないために


メディアではよく“宮崎駿監督の弟子”と称される糸曽監督。だが、自身では宮崎駿監督の弟子と名乗ったことはないと心中を明かした。

「宣伝の方々が面白いからと言ってくれているんです。まぁ、それで注目されるならいいかと。心の中では、『宮崎さん、ごめんなさい』と思っています(笑)」。

糸曽監督は宮崎駿監督をリスペクトしている。「宮崎駿監督のようになりたい」気持ちが強かった時期があり、絵コンテの描き方だけでなく、考え方や言っていることまで真似したくらいだ。

「でも、そんなことをやっていても宮崎駿監督には絶対なれない。唯一無二のクリエイターですから。『宮崎駿を目指さないことが宮崎さんへの一番のリスペクト』だと思っています」。

宮崎駿監督の軌跡を追いかけ、同じことをしようとしても劣化版にしかならない。教わったアニメづくりの方法論や物事の見方は吸収しつつも、自分らしいやり方で作品を届けていくという姿勢に落ち着いた。

「宮崎監督はすごく尊敬していますが、なるべく後を追わないように意識しています。宮崎さんがこのインタビューをご覧になったら、『それは違うぞ!』と仰るかもしれないですけど(笑)」。

■劇場版アニメ『サンタ・カンパニー』と『コルボッコロ』は繋がった作品


糸曽賢志監督インタビュー
最後に『サンタ・カンパニー』『コルボッコロ』の魅力をうかがった。

『サンタ・カンパニー』(2014年)では、「サンタクロースはどうやって一晩でプレゼントを配り終えるのか」、「クリスマスの1日しか働かないのにどうやって食べていけるのか」、「プレゼントを買うお金はどうしているのか」など、サンタクロースの知られざる実態が糸曽監督ならではの視点で描かれる。
作品の着想は、幼い頃にクリスマスのカラクリやサンタクロースの正体を知ってすごくショックだった気持ちから得たという。

2014年に発表したものでは、自主制作の限界があり、25分という尺では「サンタ・カンパニー」の仕組みを描けず、主人公の女の子の成長にフォーカスするしかなかった。
今回のリメイク版では、「サンタ・カンパニー」の仕事内容やシステム、主人公と仲間たちの友情まで掘り下げたエピソードが追加されており、そこが見どころだという。

糸曽賢志監督インタビュー
一方、『コルボッコロ』(2007年)は当時よく叫ばれていた自然保護をテーマにしつつ、なじみのない人にも関心を持って観てもらえるようにスタジオジブリっぽさを狙って生まれた作品だという。

『サンタ・カンパニー』と『コルボッコロ』は、時系列は違うが、同じ世界で起きた出来事だ。リメイクにあたって、脚本を調整しており、劇場版2作品を観ることで「こことここが繋がるんじゃないか?」と発見できる伏線が張られている。

さらに糸曽監督の頭の中では2作品を繋ぐ1作品がすでにあり、こちらを観ることで全ての謎が明らかになるそう。いつか制作して発表したいと目論んでいる。

■読者に向けてメッセージ


糸曽賢志監督インタビュー
「どちらも普遍的なテーマを扱った作品です。働くことの意味や子供から大人に向けた目線、逆に親の立場からの目線など、それぞれが忘れがちなことをテーマにして友達や家族の絆を描いているので、老若男女問わず幅広い層に観てもらいたいです。あと制作から資金回収までの座組みが製作委員会方式ではないため、1人で物を作りたい人にとっては興味深い作品ではないかと思います。ご興味ある人は応援して頂けますと大変嬉しいです」。

2019年8月以降、Makuake等で『サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~』のリワード付き購入型クラウドファンディングを実施予定
《乃木章》
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