『そばへ』は、「雨」をモチーフに3DCGの強みを活かしたオレンジによる美しい映像、読者に解釈の余地を残すストーリー、そして牛尾憲輔作曲の神秘的な楽曲など、短い尺の中に様々な要素が詰まっている作品だ。
今回、本作にて監督デビューを果たした石井俊匡さんと、紗友を演じ、BGMにも声を吹き込んだ福原遥さんにインタビュー。
作品への思いや、制作当時のエピソードをお聞きした。手軽に観られる配信作品ということで、まずは本編を鑑賞していただいてから、本記事を読むことをオススメしたい。
[取材・構成=山田幸彦/撮影=小原聡太]
■何回でも観たくなる、発見のたくさんある映像に
――今回、マスコミ向け試写直後のインタビュー取材となりますが、ご自身でも改めて作品をご覧になられたそうですね。いかがでしたか?
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石井
大きなスクリーン、大きな音、そして自分以外の人がたくさんいる環境で観たのは今日が初めてでした。
制作中のモニターチェックでは、「あそこをこうすればよかったな……」という反省が毎回あったんですが、今回は「完成してよかったなぁ」と、ほっとする気持ちが先に来ました(笑)。
――福原さんはいかがでしたか?
福原
自分の声がこんな素晴らしい作品に入っていて大丈夫かな……って、ドキドキしながら観ていました(笑)。
監督の言う通り、大きなスクリーンで観ることはモニターで観るのとは全然感覚が違って、作品を奥の奥まで感じることができましたね。
これが配信だけでなく、映画館のCMでも流れると思うと嬉しいです。
――ストーリーについて、紗友にプレゼントされた傘が人の手を渡って統のところに戻っていく……という大筋以外は、かなり受け手の想像の余地を残す映像という印象を受けたのですが、福原さんは本作をどう捉えられましたか?
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福原
最初にまだ色がついていない段階の映像をいただいたのですが、1回観たときと何回か観た後の印象が全く違っていましたね。
最初はふたりの関係性や、この傘がふたりにとって大切なものであることが伝わってきたんですけど、何回か観た後は、この傘が妖精さんとしていろいろな人を経て、彼の元に帰り着くまでの旅路が印象に残るようになっていて、本当に奥が深い作品だなって。
何回も観ていくと、「傘にくっついている猫ちゃんは雨が嫌いなんだ!」とわかったり、小さい子どもやおばあちゃんといった周囲の傘を持っている人たちが丁寧に描かれていることもわかる。そういう発見がたくさんあるのも面白いですね。
――観る方に委ねる作りというのは当初から意図されていたのですか?
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石井
結果そうなったという感じですね。
「プレゼントした傘が戻ってきて、その傘を使ってみたら世界が綺麗に見えた……それを限られた尺のなかでどう表現すればいいんだろう?」ということは、自分の中の悩みとしてあったんです。
そこから最終的に、「ポイントとなる部分だけわかりやすくして、あとはカット単位ではひたすら面白いことを描いていけば大丈夫なんじゃないかな?」と思いまして。
例えば、最初のカットの雨の陰鬱な感じとラストカットの綺麗さは、一発で差を感じとれるくらい画の作り方を変えています。
そういった部分をとっかかりに観てもらえるといいなと思います。
福原
本当に何回観ても飽きないんですよね。
石井
そこは、音楽に支えていただいているところもあると思いますね。
――牛尾憲輔さんが今回音楽を担当されていますが、劇中のBGMを初めてお聞きしたときのご印象はいかがでしたか?
石井
最初聞いたときにプレッシャーを感じました。
牛尾さんには絵コンテをベースにしたラフカッティングをお渡しして、それに曲を付けてもらったんですが、上がってきたものを聴いてみたら、映像に合わせた盛り上がりなどもしっかりと作り込まれていたんです。
僕自身、作品の最終的な方向性をそこで掴んだ部分もありました。本当に素晴らしかったです。
――音楽から作品にフィードバックされた部分も多かったのでしょうか?
石井
ラフカッティングに音楽をつけてもらった後に本番のカッティングを行ったので、音楽に合わせて動きやカットのタイミングなどを調整しています。
例えば、本編中盤(※再生時間1:30~)で夜明けのカットがありますが、「曲の転調に合わせてもっと神秘的にしないとダメだ!」と思ったんです。
そこで、撮影さんにもご理解いただき、良い感じの日の出のタイミングにしていただきました。
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――福原さんの声が楽曲に取り入れられているのも特徴ですよね。
福原
いろんな声を何テイクも録ったのですが、実際に聞いてみると「こういう風に使われていたんだ!」などの発見があって、面白かったですね。
とにかく自分の声がこんなに素敵な音楽になったことが本当に嬉しくて、ずっと聞いていました(笑)。
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