――本作で岡田監督は絵コンテにも挑戦されたんですね。どんなシーンを担当されて、作画にはどのような指示を出されましたか?
岡田
まとまったパートではなく、部分部分で描かせていただきました。たとえばタイトル前のマキアがエリアルを連れていくシーンとか、出産シーンとか。絵コンテ打ち合わせ、作画打ち合わせなどにはすべて立ち会って、自分なりにこの作品でやりたいことを直接話しました。ただ、本当に不慣れですから、話すにしても時間がかかりますし、どこをどれくらい省略していいのかも分からなくて。よく篠原さんに「そこまで細かく説明しても、今は意味がないよ」とか、逆に「それだとちょっと足りない」と言われたりして、どのくらい伝えたらいいのかはすごく難しかったです。
絵コンテを描くにしても、見ると描くとでは全然、勝手が違っていて。絵コンテでレイアウトをしっかり作らないとアニメーターさんに分かってもらえない。私は学生時代は美術部だったんですが、嘘だなって思いましたね……(笑)。
――絵作りの面で岡田監督がこだわったポイントは?
岡田
好きな映画や作品の傾向として、たとえば空の色を感情と重ねたりといった、キャラクターの感情と状況を一致させたいなという考えがありました。あとは劇場作品ということもあって、東地さんに黒を多めにしてもらいました。黒には温かさや重厚感がありますし、またアンダーが低ければその分、落差が快感になるのではないかと思ったんです。でも実際にやってみると、黒が難しい理由がちゃんとあるんだと分かり、素人考えだったと痛感して。それで皆さんにすごく迷惑をかけちゃって、一時は「これは素人考えかもしれないから言わないほうがいいのかな」と黙ってしまうこともあったんですけど、「やっぱりそれではダメだ!」と後から思い直したりして、毎日が反省の繰り返しでした。
でも、スタッフの皆さんがいろいろ質問してくださって。東地さんとかは「とりあえず描いたけど、どうせこれ監督の好みじゃないだろうし後で直します」とまで言ってくれるようになって(笑)。『さよ朝』を作るのに3年かかって、もちろんスタッフ全員が3年かかりっきりではなく、途中での参加や離脱もありましたが、共通の作品を介して月日を共にする密度を感じました。
そして、ラストの追い上げがすごかったです! 「本当に完成するのだろうか……?」と思うこともありましたが、ラスト2ヶ月でビックリするほどすごい映像になりました。2ヶ月前の時点でもすごかったのに、人の力ってすごい。「ゾーンに入った!」と東地さんが言っていたんですが、現場って本当に生き物なんですね。不安だった気持ちが「いけるぞ」になって、「だったらもっと良くできるんじゃないか」と変わっていくのがすごく気持ち良かったです。

――気の早い話ですが、今後も監督にチャレンジされたいというお気持ちはいかがでしょう?
岡田
そうですね……今は正直、考えられません(笑)。制作中、たまに「奇跡が起きた!」「風が吹いた!」とスタッフで言い合っていたんですよ。日々起こる問題に、みんなで悩んで。誰かのひらめきや、新しく入ってくれたスタッフの力によって、状況が日々改善されていく。本当に素晴らしいスタッフに恵まれた作品でしたし、計算してできるものではないバイオリズムというか、このスタッフだからこそ生まれる空気に支えられたなと感じています。
――最後に、岡田監督にとって“母親”とはどんな存在ですか?
岡田
良いにしろ悪いにしろ、自分というものの形成に大きく関わってくる存在だと思います。自分の中に母親が刻まれているからこそ、最後には自分で立たなくちゃいけない。この作品は出会いと別れの話です。物語の中でマキアは壊れない関係を求めましたが、永遠に壊れないものはない。マキアだけでなく、キャラクターひとりひとりがそこに向かいあっていく話を描きたいという思いがありました。
また、美しい伝説の世界で生きてきた人が、いろんな感情を経て汚れることで成長する感じも想定して作りました。綺麗なところから外へ出て汚いものに触れることで、失うものもあれば豊かになるものもある。親子は決して逃れられない関係であり、あたたかく居心地のいいものでもありますが、それでも怖がらずに循環していくってことが大事なんじゃないかなと思っています。
『さよならの朝に約束の花をかざろう』
2018年2月24日(土)ロードショー
配給:ショウゲート
(C)PROJECT MAQUIA