アニメにとって“舞台”とは何か? センター試験「ムーミン問題」から考える | アニメ!アニメ!

アニメにとって“舞台”とは何か? センター試験「ムーミン問題」から考える

2018年の大学入試センター試験「地理B」にて、アニメーション作品の舞台とその土地の言語を問う選択問題があった。答えはそれぞれ『小さなバイキング ビッケ』の舞台がノルウェーでノルウェー語、

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2018年の大学入試センター試験「地理B」にて、アニメーション作品の舞台とその土地の言語を問う選択問題があった。答えはそれぞれ『小さなバイキング ビッケ』の舞台がノルウェーでノルウェー語、『ムーミン』の舞台はフィンランドでフィンランド語ということだが、この問題が議論になっている。
『ムーミン』の原作者であるトーベ・ヤンソンはフィンランド人だが、『ムーミン』の舞台はムーミン谷という架空の土地と設定されており、作品の舞台を現実のフィンランドと回答させるのは間違いではないか? ということである。

また、本件に関して16日、ムーミン公式サイトから公式見解が発表されたが(「ムーミン谷はどこにある? ~センター試験地理Bの出題に寄せて~」http://line.love-moomin.jp/20180116/moomin_official01.html)、そこで指摘されている通り、原作とアニメ版とで設定が違う可能性がある。

試験で問われている1969年と1972年に放送されたアニメ版『ムーミン』(1990年放送開始の『楽しいムーミン一家』ではない方)は権利者の元にも設定資料が残っていない上に、DVDやBlu-rayが発売されておらず現在は国内での再放送もされていないため、舞台設定の確認が難しい状態となっている。

仮にセンター試験出題者の理屈に沿うと、アニメ『それいけ!アンパンマン』の舞台は日本である、という事になるが、これには違和感があるだろう。事実、アンパンマンポータルサイト(http://www.anpanman.jp/index.html)のQ&Aコーナーでは、舞台は「広い広いこの世界のどこかにきっとあるはずです」「地球から、日本から近いのかもしれませんね」としている。

アニメに限らずだが、作品とその中で描かれる現実の土地との間には様々な関係がある。大別すると「作品の舞台=現実の土地」というパターンと「現実の土地が作品舞台のイメージのベースになっている」というパターンである。

アニメでいえば、戦中の広島県呉市が主な舞台である『この世界の片隅に』や、現代の東京の池袋を舞台にした『デュラララ!!』、同じく東京の四ツ谷駅や六本木ヒルズ、岐阜県の飛騨市図書館が舞台として描かれた『君の名は。』などは前者のパターンである。これらの作品の場合、現実の土地や施設が作中でそのまま描かれているため、その場を実際に訪れれば作中とほぼ同じ風景が見られる場合が多い。また、地方自治体とのコラボレーションでイベントなどが催されるケースもあり、ファンの”聖地”として賑わうこともある。

現実の土地が作品舞台のイメージのベースになっている例としては『TIGER & BUNNY』の舞台”シュテルンビルト”などが挙げられる。シュテルンビルトは一見して分かる通りニューヨークのマンハッタン島がモデルとなっており、作中とほぼ同じ建物も実在するが、だからといってシュテルンビルト=マンハッタンというわけではない。ヒーローが日夜活躍する街・シュテルンビルトは架空の街だからこそ『TIGER & BUNNY』の世界を魅力的なものにしているのである。
先述の『君の名は。』のもう一つの舞台である”糸守町”という町も現実には存在しない架空の町であるため、『君の名は。』は前者と後者のハイブリッド型ということができる(飛騨市に糸守町のような地形があるわけでもないため、厳密にはシュテルンビルトの例とも事情は異なる)。

『涼宮ハルヒの憂鬱』の舞台は作中では明言されていないが、原作者・谷川流の故郷である兵庫県西宮市がモデルとなっている。
作中では数分で移動していると思われる距離が実際には数キロ離れていたり、商店や駅名が架空のものになっていたりするなど、厳密には現実の西宮市は『ハルヒ』の舞台ではない。一方、作者が青春時代を過ごし『ハルヒ』を書くベースとなった「経験」は、作品の舞台を通じて色濃く反映されている。
たとえば、主人公たちが通った山の上の高校への通学路は作中同様のルートを実際に辿ることが可能だが、距離が長いうえに勾配がかなりきつく、アニメで描かれている以上にハードな道のりである。実際にこの道を歩き、作者の経験を疑似体験すれば「作者は一体どんな人なんだろう?」「こんな思いで作品を書いていたのではないか?」など、より深く作品を楽しむきっかけを得ることができる。

『涼宮ハルヒの憂鬱』の高校のモデルとなった実在する高校からの風景


このように、作品と現実の土地がイコールでなくても、その場を訪れることで、単に作中と同じ風景を見るよりもよりも大きな価値を得られる場合もある。この延長でいえば、作中には一切描かれていないが、作品や作者と何らかの関係がある土地がアニメの”聖地”になるという場合もあり得るだろう。

話は冒頭に戻るが、センター試験『ムーミン』問題の場合、正確には「作品舞台のイメージのベースになっていると考えられる国を選択肢の中からから選びなさい」などの形で聞くべきところで、単に「舞台」という言葉を使って聞いてしまった点に問題がある。正確さの面で難ありのため、公的な試験問題としてこれはこれで追及されるべきだろう。

だが、アニメの楽しみ方という意味では、『ムーミン』の舞台がフィンランドではなくともその風土や文化などから作者が受けた影響を感じることはできるだろうし、作品を楽しむ上での”聖地”として”巡礼”することで得られるものも多いだろう。


駐日フィンランド大使館公式アカウントによる『ムーミン』問題に関するツイート


以上のように、作品と実在する土地との関係は様々な捉え方が可能である。アニメファンとしては、現実の土地や施設が作品の舞台として公式認定されているか否かだけで十把一絡げに判断するのではなく、それらの関係を作品毎に捉えなおすことで、アニメをより深く楽しみたいものである。
《いしじまえいわ》
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