「この世界の片隅に」片渕須直監督インタビュー この世界にすずさんの実在感を求めて | アニメ!アニメ!

「この世界の片隅に」片渕須直監督インタビュー この世界にすずさんの実在感を求めて

インタビュー

「この世界の片隅に」片渕須直監督インタビュー この世界にすずさんの実在感を求めて
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  • (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
映画『この世界の片隅に』が現在劇場上映中だ。『マイマイ新子の千年の魔法』(2009年)などで知られる片渕須直監督の7年ぶりとなるこの新作は、こうの史代の同名マンガを原作に、第二次世界大戦中の広島は軍港の街・呉市を舞台で生きる主人公すずたちの日常を、徹底した時代考証・資料調査をもとに描き出す。2015年に行われたクラウドファンディングでは、目標額2000万円を開始からわずか8日で達成、最終的に3374人の支援者から過去最高金額となる39,121,920円もの期待を集めたファン待望の一作だ。主演には『あまちゃん』ののん(本名:能年玲奈)を迎えたことでも話題を呼んだ本作の経緯からコンセプト、その表現まで、監督の片渕から話を訊いた。
[取材・構成:高瀬司]

『この世界の片隅に』
11月12日(土) テアトル新宿、ユーロスペース他で全国ロードショー
http://konosekai.jp

■現在と地つづきな時代として戦時中を描く

――まずはじめに、片渕監督がこうの史代さんの原作を最初に読まれたときの感想からうかがえるでしょうか。『この世界の片隅に』はこうのさんの作品であるにもかかわらず、『名犬ラッシー』『アリーテ姫』『BLACK LAGOON』、そして『マイマイ新子と千年の魔法』と、奇しくもこれまでの片渕監督の歩みのすべてが詰めこまれているかのように感じたのですが。

片渕須直(以下、片渕)
そうなんです。はじめて読んだのは前作の『マイマイ新子』のあとだったんですが、不遜な言い方にはなりますけど、自分とすごく似ているというか、自分が存在を知らなかった親戚に、ある日突然出くわしてしまったような感じがして(笑)。歴史的な背景を徹底的に調べたり、日常生活の機微にこだわったり、それをいろんな技法で表現したり。自分がこれまでやってきたこととか、やりたいと思っていたことを先回りしてやられていた印象を受けて驚きましたね。

――いまいくつか作品のポイントがあがりましたが、実際、本作はさまざまなレイヤーによって構成されていると思います。シリアスな戦争ものでもあり、主人公となる北條すず(浦野すず)たちの日常ものでもあり、また当時の文化風俗のドキュメントという側面もある。片渕監督の意識としては、まずどこに注目されたのでしょうか。

片渕
僕にとっては、まずすずさんと、彼女を取り巻く日常生活というのが先にあって、その背景として戦争があるという順番ですね。もともと僕は、人々の生活をアニメーションで描くことがすごくおもしろいことだと思っていたんですよ。しかし一方で、それだけでは退屈だと思われてしまうこともある。ただそういう人にとっても、うしろに戦争っていう負の光源があったら、そことの対比で、何気ない日常も魅力的に輝くんじゃないかと思ったんですね。とはいえはじめは、戦争を、今日描くことの意味が明確でなかった。
制作がはじまってしばらくしたら、東日本大震災が起こったんですよ。プロデューサーの丸山正雄さんも宮城の出身で自分の家のお墓が流されてしまったり、ほかに知り合いでも大変な目にあった人がいたりして。そう考えると、戦争に直接加担していない一般市民の目から見たら空襲、つまり戦災というのは、どうしようもなく強大な力によって日常が理不尽に蹂躙されていくという点で、自然災害と同じようなものだったんじゃないかと思ったんです。2011年の震災も1945年の戦災も、罹災する人の側から見たら一緒だという感じがしたんですよ。だからあの戦争中の日常が、ぜんぜんはるか昔の出来事という感じがしなくなってきて。


――ということは制作されているときには、ポスト3・11という意識があったということでしょうか?

片渕
だんだんと共通するように感じられたということですね。はじめは、昭和20年の世界って、自分たちの想像がおよばない世界だと思ってました。自分たちに想像できる時代の限界は『マイマイ新子』で描いた昭和30年ころまでで、そこからもう10年遡って戦争を挟んだら、全然違う世界なんだという気がしてたんです。なんだけれども、『この世界の片隅に』の準備でいろいろと調べていくうちに、あるとき、当時ひどい空襲を受けた地域には近隣から救援で、食料とか布団とかオムツとかが運びこまれてたって話に出会って。つまり2011年3月に僕らがやっていたのと同じことを、70年前も同じようにやってたんですね。むしろ当時のほうが、救援を送る側のほうも、ものがぜんぜんなかったような状況だったにもかかわらずです。それを知って、昭和20年は決して遠い世界の話ではなくて、人の気持ちはいまと変わらないんだなってことをすごく強く実感させられたんですよ。それで原作には描かれてないものでも、映画には実際にそのころ呉や広島であったことを少し余計につけ足すようにしました。

――追加した具体例をうかがえるでしょうか?

片渕
たくさんあるのですが、たとえば戦争も後半の時期になると、陸軍が、ラジオの放送で「大本営発表!」って叫ぶのをやめましょうって言い出すんですよ。負け戦でみんな苦しんでるのに、そこまで一般市民を鼓舞してどうすんだって。とにかく雄叫び調の放送はやめましょう、代わりに笑える演芸番組を増やしましょうって、陸軍のほうから放送協会(NHK)に言ってるんです。さらにそのあと一般聴取者からも、「何時何分にB-29が何機」みたいな防空情報を、男性アナウンサーの声でやるのをやめてほしいっていう要望が入る。男性の声では 怖いから、女性のアナウンサーに代えてほしいって。それでNHK広島放送局は、昭和20年の8月1日からアナウンサーが女性に代わるんです。だから映画でも、その日のエピソードからはラジオの声を、文化放送の八木菜緒アナウンサーにやってもらってて。でもそれは1日から6日までだけなんですね。原爆で放送局自体がダメになるから。


――調査の緻密さも驚きですが、それによって戦時下の日本について抱かれがちな紋切り型のイメージが覆されるところがありますね。

片渕
戦争中ってみんな高圧的な感じでしゃべったり、何かを鼓舞するようなことばかりだったりというような先入観がありますよね。でも実際はぜんぜん違ってて、軍部にすらある意味常識的ともとれるそんな部分があったんだなっていう。そういうことを知るだけで、ずいぶん遠い気がしていた戦争中の世界が、自分たちのほうに引き寄せられる気がしませんか。
配給の統計資料を見ても、ものがない時代のはずなのに、呉市での昭和19年12月の量がすごく多くて。公的機関がみんながお正月を新しい服で迎えられるようにって、新しい足袋とか新しい反物とかを用意しようとしてたんですよ。絶対量は少しでしなかくても、ちゃんと市民のことを気遣ってたわけです。そういう、いまのわれわれと同じ感情が当時あるにはあった、って思えるのはすごく大事なことだなという感じがしますね。当時という時代とつきあうには。

――断絶しているのではなく、現在と地つづきな世界であると。

片渕
そういうことです。それでそのことを体現してくれている、いまの時代とつないでくれているのがすずさんという人なんです。すずさんはあの時代の何を見ても、普通のことだと思って生活を営んでる、日常の機微の体現者のような存在なんですね。

――他方でそうしたすずの魅力は、のんさんの演技によって強く押しされていたと思います。これ以上ないキャスティングだったと思いますが、そもそも、片渕監督がはじめてのんさんをご覧になったのはいつになるのでしょうか。

片渕
『鍵のかかった部屋』(2012年)というTVドラマが最初だったと思います。その後『あまちゃん』(2013年)の第1話で主人公の天野アキちゃんを演じてるのを観たとき「あー、あの人か」ってびっくりしたんです。主人公なのにほとんどしゃべらないし、すごく猫背で、高校生という設定なのに中学生にしか見えないし、でも役者さんの歳は19歳だっていう。『鍵のかかった部屋』では、本人が18歳なのに大卒の弁護士事務所の秘書の役だったのに。
だからアキちゃんはすごく合ってる役だなと思う反面、少し不思議な感じがしてたんですが、あるときのんちゃんが「天野アキちゃんは変な子です」って発言をしてるのを見て分かったような気がしたんですよ。単にハマり役だっただけでなく、のんちゃんという子は、確固とした彼女自身があったうえで、役作りとして実年齢より上の秘書や下の高校生を作りあげてるんだなと。
『この世界の片隅に』のすずさんも、ある部分では「あー、これすずさんだ」って思わせてくれる人であると同時に、別のどこかでは、いつもニコニコしてて人を笑わせてくれるコメディエンヌとしてのすずさんを演じてくれる人がいいと思ってたんですね。そう考えると、のんちゃんがまさにそういう人だなと。ときどき本人がしゃべってるんじゃなくて、すずさん自身がしゃべってるんじゃないかと、わからなくなる瞬間があって(笑)。でもちゃんと芝居でそれを実現してるんです。それでいてのんちゃん自身の個性にもすずさんに近いところが確かにあった。
そういうのんちゃんのお陰で、半分はすずさんのドキュメンタリーのようでもあり、半分はきちんと作りこまれた演技でもあるみたいな状況が実現できたんじゃないかなと思います。


《高瀬司》
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