高瀬司(Merca)のアニメ時評宣言 第10回 新海誠「君の名は。」の句点はモンスターボールである―シン・ゴジラ、Ingress、電脳コイル
高瀬司の月一連載です。様々なアニメを取り上げて、バッサバッサ論評します。今回は新海誠監督の最新作『君の名は。』を、『シン・ゴジラ』や『ポケモンGO』などと関連づけて論じています。
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人が場所に対して想いを寄せること、過去を想起すること。
ARにおけるそうした性質が、最も端的に現れたものとして『Ingress』における「記憶のポータル」を挙げることができる。
これまで、『Ingress』ではたとえば、ユーザー主導でゲーム内では敵対する両陣営のプレイヤーが協力し、広島に原子爆弾が投下された8月6日、平和記念公園に対応する情報空間上に――『シン・ゴジラ』でもキーとなるモチーフである――「折り鶴」のフィールドアートを作成するといったイベントが開催されてきた。「記憶のポータル」はそうしたユーザーの感性とも同期しているだろう公式が主催した、サービス開始以前に起きた「3・11」の津波被害で失われてしまった現実の=思い出の場所を、『Ingress』の情報空間上に登録=再建し、そこを実際に訪れることで特別なアイテムを得られるとする震災復興企画によって生まれたポータルのことである。これがAR技術を用いることで「場所に紐づいた意味/記憶」に想いを馳せる行為であることは明白だろう。
ここには想像力の循環が見て取れる。というのも、ポータルが紐づけられた対象であるところの現実の史跡やモニュメントというのはそもそもにおいて、人々が共有する「記憶のポータル」を物理空間上に設置したものであるからだ。つまりわれわれは、ARツールによって物理空間のうえに情報空間上のポータルを重ね見る以前に、想像力のなかに日々、社会的および個人的なポータルの登録を進めている――そんな当たり前でありながら(『妖怪ウォッチ』における妖怪の効用がそうであったように)一度循環しなければいまでは見えづくなってしまっていた光景へと立ち返らされる。
実際、前述のTVアニメ『電脳コイル』の最終話で、ハラケンはこう語る。「今までのイリーガルは全部、何かの感情だったんじゃないかって……。憧れとか、怖いとか、もう会えなくなってしまった誰かに会いたいとか、そういう気持ちを……誰にも知られずに消えていくはずの気持ちを……あのヌルたちは拾い上げていたとしたら……それがイリーガルなんじゃないかって……」。
ハラケンのこの解釈が正しいものであるかどうかを、作品は明らかにしていない。しかしARツール「電脳メガネ」が見せるセカイというのがそのような人の想いであったのだとすれば、、そこで視覚されるものというのは本来、人々がメガネを介することなく感じているもの、幻視してしまっているものであるはずだろう。『電脳コイル』の最終話ラストシーンは象徴的である。そこでヒロインのヤサコは、電脳メガネを外した状態で、電脳空間上にしかいないはずの(そして消えてしまったはずの)電脳犬・デンスケの姿をとらえる。