もう1本の劇場アニメ『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(監督:菱田正和、以下『キンプリ』)は、タカラトミーアーツとシンソフィアが共同開発したアーケードゲームを原作に、土曜朝に放送されていた、『プリパラ』シリーズ(2014年-、監督:森脇真琴)の前身となる女児向け(および大きなお友だち向け)アニメ『プリティーリズム』シリーズ(2011年-2014年、監督:菱田正和)の第3作『プリティーリズム・レインボーライブ』(2013年-2014年)のスピンオフ作品である。スピンオフというとおり、TVシリーズでメインキャラクターだったヒロインたちを描くのではなく、サブキャラクターであった男性アイドルユニット「Over The Rainbow」を中心とした物語となっている。そんな映画『キンプリ』の最大の特徴が、「応援上映会」と称するリピーター続出な、(上で「マサラ上映」と紹介したような)「コスプレOK!声援OK!アフレコOK!」な参加型(イベント型)上映のカルトな人気である。 2016年1月9日に全14館からスタートした『キンプリ』は、女性ファンを中心とした熱狂的口コミ効果により、劇場は60館以上にまで拡大し、3月9日には興行収入2億5000万円の達成を発表、10年前の細田守監督作『時をかける少女』(2006年)の2億6000万円を超える数字を叩き出すにまで至る(なおこの対比はもとはネットで話題になったものだが、どうでもいい補足をすると、小規模公開だった劇場アニメが口コミにより異例のロングランを記録したという共通項以外に、実際『キンプリ』のなかには「時を超えて」「時空を超えて」といったセリフが印象的に使われてもいた)。
なぜこのような作品が生まれたのか、その文脈も整理しておく。『プリティーリズム』/『プリパラ』シリーズは過去にも2本(応援上映会企画も含む)劇場版が公開されており、その第2作『劇場版プリパラ み~んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』(2015年3月、監督:菱田正和)には、途中から各10分ほどの独自パートを持つ4つのルートに物語が分岐する仕掛けが施されていた。公開形式としては週替りでルート1~3が上映され、しかるのちにルート4だけが特別な日に限定上映されたのだが、作中ですら「(ルート4へつながる瘴気のようなものに漂う扉に対し)あれ、明らかに怪しいね……」と形容されていた「胸キュン!プリズムボーイズツアー」ルートというのが、『キンプリ』で中心となる「Over The Rainbow」を描く(振り返る)物語となっていた。
2016年4月以降にはさらなる新仕様や新作の登場すらありうる、こうしたアニメのアトラクション化の広がりをめぐっては、誰もがすぐに、いくつかの文化的背景を思い浮かべることができるだろう。 断片的に列挙すれば、この数年のアニメ周辺で見ても、キャラクターショーから連なるキッズアニメの参加型上映のほか、『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』(2010年)の絶叫上映や、ニコニコ動画でのアニメ公式配信におけるコメントによる擬似同期コミュニケーションの定着、2・5次元ミュージカルの躍進、声優イベントやアニソンライブの人気に映画館でのライブビューイングの普及と、音楽業界におけるパッケージからライブ・フェスでの物販へというビジネススキームの変動ともパラレルに、「鑑賞から体験へ」という流れは目に見えて力を増している。