SVODから見るアニメの未来 藤津亮太のアニメの門V 第13回 | アニメ!アニメ!

SVODから見るアニメの未来 藤津亮太のアニメの門V 第13回

アニメ評論家・藤津亮の連載「アニメの門V」。第13回目はSVODから見るアニメの未来について。毎月第1金曜日に更新中。

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もうそろそろ入らなくては思い、Netflix、Huluに加入した。併せて、以前から入っていたamazonプライム・ビデオもTVモニターで見られるようにして、3つのサービスを使い比べて見た。それぞれに使い勝手の違いや作品ラインナップの特徴などがあるが、今回は、SVOD(サブスクリプション・ビデオ・オンデマンド/動画の定額見放題サービス)から見るアニメの未来を想像してみたい。

これは境真良氏の『テレビ進化論』やアニメ!アニメ!の元編集長である数土直志氏から教示いただいたことなどを踏まえつつ、自分なりに考察したものだ。
3つのサービスを使ってみて改めて感じたことがある。それはSVODの最終的な目的地は、「視聴者が見たい番組をチョイスする(検索)」と「システムが作品をセレクトする(レコメンド)」が組み合わさった「自分だけの番組表の自動編集」にこそある、ということだ。「番組表の自動編集」の精度が高くなった時、SVODはアニメにとって非常に重要な媒体になるのではないか。

地上波TVは、短時間で大勢の人に作品を届ける力はピカイチだ。そこに関しては国内最強のメディアであることは間違いない。さらに無料で見られるメディアだから、視聴者にとってのハードルは低い。
ただし、ビジネス面では、放送するためには電波料といわれる費用が(制作費とは別に)必要になる。

TVアニメ・ビジネスの歴史は、少し大げさにいうと、コストパフォーマンスのよい放送枠を探す歴史といってもいい。その結果、発見されたのが「深夜枠」で、今や深夜アニメは全TVアニメ放送時間の半分弱を占めるに至っている。この「コストパフォーマンスのよい方向」に向かっていくというアニメの習性から考えると、電波料がいらず、むしろ番組販売による利益が得られる配信は、非常に魅力的な媒体といえる。
だが、配信はまだ「短時間で大勢の人に作品を届ける力」に弱い。なぜなら配信されている作品に到達するには、ユーザーがまずその作品の存在を知っていて、検索しなくてはならないからだ。配信では未知の作品と偶然で合うのはハードルが高い。
逆にいうと配信の「短時間で大勢の人に作品を届ける力」が大幅に伸びれば、アニメのファーストウインドウとして配信が選ばれる可能性は非常に高まる。

その可能性のカギが「番組表の自動編集」にある。
TVの弱点の一つに、TV単体ではタイムシフト視聴ができないということがある。ネットの動画で「いつ見ても最初から見られること」に慣れた世代にとっては、放送時間に自分を合わせることそのものがストレスにもなるだろう。
録画機を使ったタイムシフト視聴とは、実は原始的な意味での「番組表の編集」なのである。TV局が編成したタイムライン(番組表)の中から自分好みの作品をセレクトし並べる。もっとも録画機の場合は、ファーストウインドウであるTVで放送された後にしか編集できない。

SVODは基本的に「流しっぱなし」で見られるように設計されている。ここが従来の配信と異なる。SVODは視聴者の「選ぶ手間」を省こうとしているのだ。「選ぶ手間」を省きながら「自分が好きそうな番組ばかり流れてくる」状況をいかに作り出すかが、各サービスの腕の見せどころといえる。中でもNetflixはそのレコメンドのプログラムの精度の高さで注目を集めているという。このレコメンド機能の最終目的地が「自動編集で出来上がる番組表」ということになる。
番組表がユーザーの趣味に合わせて自動的に編集されるようになれば、ユーザーが「流しっぱなし」にしているタイムラインの中に、自動で「自分の興味ありそうなアニメ」が入ってくることがより自然に起こるようになる。そうすると、ユーザーと作品が偶然出会う可能性が高まる。配信の弱点だった「短時間で大勢の人に作品を届ける力」が大幅に改善されることになる。こうなれば配信もアニメのファーストウインドウとして十分機能するはずだ。
もしそうなると無料のTV放送は、二番目以降のウインドウに位置づけられることになる。それは1963年から始まったTVアニメの歴史が大きな転換点となるはずだ。

今、Netflixやamazonプライムがアニメに関して話題になっているポイントは2つある、一つは、両者が製作にコミットして作品のラインナップを拡充していること。もう一つは、SVODが世界で見てもらうための一番手近なプラットフォームであること。
この二つもアニメビジネスにとっては非常に重要なポイントではある。実は、この2つもまた「番組表の自動編成」と同様に「アニメとTVの距離が変化する」という大きなアングルの中に収まる要素でもあるのだ。

果たしてこれからの10年、メディアの興亡の中で、アニメはどのように見られるようになっていくのだろうか。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。
《藤津亮太》
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