――松本さん自身はサトシを演じるに当たり、こだわっていることはありますか?
松本
私も自分自身に嘘をつかずに、ありのままの自分を出していこうと普段から心がけています。子供たちって嘘を見抜くのが本当に上手で、キャラクターを作っているとすぐにバレるんですよ。なのでキャラを作らず、私の本当の気持ちをサトシとして言わせてもらっています。
――演じる際の意識は、テレビアニメと映画のどちらも変わらないのですか?
松本
同じですね。むしろテレビと映画をつなげて、ひとつの作品として見てもらいたいと思っています。私の中で映画はテレビ番組の合間に入る特別編であって、独立した作品ではないんです。
だから映画のストーリーもテレビアニメを見ていれば分かりやすくなるし、より一層楽しめます。もちろんゲームをプレイすれば、『ポケモン』への愛情が増します。全部がつながる可能性を『ポケモン』は秘めているので、映画だけに特別な意識を持つことはないです。
――19年もサトシを演じ続けてくると、感情移入の仕方にも変化が出てくるのではないでしょうか。
松本
だんだん私自身の感情とサトシのセリフがリンクしてくるようになった様に感じますね。私が近づいたのか、サトシが歩み寄ってくれたのかは分かりませんけど(笑)。最初のオーディションでも「サトシっぽい」という理由で受かったんですが、最近では台本にも自分が普段使っている言葉が並んでいるんです。
私が普段抱いている気持ちをそのまま言葉に出来るので
より一層自然体で、嘘偽りのないセリフを言うことができます。
――テレビアニメを見ていても、サトシの言葉に重みが出てきたというか、成長を感じることが多くなりました。
松本
テレビアニメだと、サトシとゲッコウガがシンクロするじゃないですか。あれでますますサトシの男らしさ度が増したと感じました。というのも、ゲッコウガはいつも落ち着いていて、大人っぽいじゃないですか。そんなポケモンとシンクロすることで、サトシも引っ張られるように成長していますよね。だからひょっとしたら、サトシもメガシンカしているのかもしれませんね(笑)。
でも基本的な性格が変わったわけではないです。今までだって情熱的で男らしい一面もたくさんありましたけど、最近はそれを言葉で伝えるのが上手くなっただけだと思っています。
――そんなゲッコウガも活躍している「XY&Z」シリーズですけど、こちらは振り返ってみての思い出はありますか?
松本
セレナやシトロン、ユリーカは旅に出た仲間であると同時に、弟や妹といった印象で接していました。今までの仲間よりもさらに距離感が近く、身内のような感覚で演じてたのかもしれないです。
ひょっとしたら、シトロンたちのお父さんやセレナのお母さんが所々で出てくるのも大きかったのかもしれませんね。仲間だけでなくその家族もいるから、すごく近しい存在になるんだと思います。
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――「XY&Z」も含めてアニメは19年の月日が経っていますが、感覚としてはあっという間でしたか?
松本
始まったのが昨日のことの様です。 もう…「嘘でしょ!?」っていうくらいあっという間ですね。
収録現場でも新人声優さんから「子供のころから見てました!」と言われる機会が増えて、今ではそれが当たり前になってきましたが、。でも私としては一瞬で過ぎていった時間なので、なんだか不思議な気持ちになるんです。
サトシってアニメの中では歳を取らないじゃないですか。でも私は人間なので確実に歳を取っていて、そのギャップが曖昧になる瞬間があるんです。「あれ、私何歳だっけ…?」みたいな(笑)。
――アニメが始まった当時と現在で、演じるときの感覚に変化はありますか?
松本
スタッフが変わったり、新しい声優さんが入ってきたりで環境が変わることはあっても、演技の仕方が変わることはないですね。私はもちろん、ロケット団もピカチュウもキャストは変わることなく、この辺りが現場を牛耳っているので(笑)。
■時にはこれまでの道のりを振り返ることも忘れずに
――そういえば、先日はポケモン総選挙720の結果が発表され大きな話題になりましたよね。選挙ではゲッコウガが1位でしたが、松本さんはどんな感想を持ちましたか?
松本
テレビアニメでゲッコウガを格好よく描いたスタッフの勝利だなって思いましたね。
アニメをゲッコウガ中心で盛り上げたから、それに子供たちも共感してくれた。
アニメの力をあらためて感じました。個人的にはサトシとリンクする物語の影響も強かったのかなと思います。やっぱり、19年変わらないサトシは偉大なんですよ。なんだか自分を褒めるみたいですけど、これは認めざるをえないです(笑)。
――ちなみに松本さんはカラカラに投票したんですよね。
松本
そうですね。カラカラは初代のポケモンで、今の子供たちには馴染みがないと思うんです。だけど私は昔からあるものをないがしろにするのが嫌いで、もっと知っておいてもらいたかったんです。カラカラは初代の中でも印象が薄いのが正直なところですが、母親の骨を被っていたりとポケモンの生い立ちにもグッときて、投票しました。
――ゲームに続いて、来年にはアニメが20周年を迎えます。松本さん自身が持っている20周年へ向けた目標、意気込みなどがあれば教えてください。
松本
私にとっては、最初にサトシと冒険したタケシやカスミは今でも愛おしい存在です。
キャラクターはもちろん、演じてくれた声優さんのことも自分の宝物だと思っています。アニメ20周年では歴代声優さん達とイベントとかもやってみたいですよね。未来へ向かうのはとても大切ですが、時にはこれまでの道のりを振り返ることも同じくらい重要。20周年という記念の年では、ぜひこの思いを形に出来たら嬉しいです。。
あとはアニメも新たな旅立ちが待っていると思うので、新鮮な気持ちでゼロから頑張っていきたいです!
――ありがとうございました。
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