「百日紅~Miss HOKUSAI~」原 恵一監督インタビュー 前編 杉浦さんがいたら、聞きたいことがたくさんあった | アニメ!アニメ!

「百日紅~Miss HOKUSAI~」原 恵一監督インタビュー 前編 杉浦さんがいたら、聞きたいことがたくさんあった

インタビュー

「百日紅~Miss HOKUSAI~」原 恵一監督インタビュー 前編 杉浦さんがいたら、聞きたいことがたくさんあった
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杉浦日向子原作、原 恵一監督の『百日紅~Miss HOKUSAI~』は第39回アヌシー国際アニメーション映画祭の長編アニメーション部門審査員賞をはじめ、第19回ファンタジア国際映画祭の3冠部門、第48回シッチェス・カタロニア国際映画祭の最優秀アニメーション賞を相次ぎ受賞し、国内外で高い評価を得た2015年を代表する作品だ。
このBlu-ray & DVDが11月26日に発売される。特装限定版の特典DVDには作画や演出風景、原監督の杉浦日向子への想いなど、様々な舞台裏の様子を描いた116分のメイキングも収録され、本編に加えて、広く深く楽しめる内容となっている。 このインタビューでは原監督に、制作を振り返って今だから思うことや、メイキング内のエピソードについて聞いてみた。
[取材・構成:川俣綾加]

『百日紅~Miss HOKUSAI~』
http://sarusuberi-movie.com/index.html

abesan ■ アニメ制作は足し算の作業だけれども、引き算を常に意識

――『百日紅~Miss HOKUSAI~』を観ていてまず思ったのは、画面密度のバランス感が素晴らしいこと。江戸の町並みも色々と描き込まれていて、色彩も美しいです。そのバランスをどう構成していったのかをぜひ知りたいです。

原 恵一監督(以下、原)
アニメ制作は基本的に、足し算の作業だと思うんです。ただ、足し算をしすぎてしまうとどんどんリアル寄りになっていく。同時に、画を作ることだけでどこか満足してしまう。そういう状況になりがちな気がしているんですよね。単純に足していけばいいわけじゃない。

――引き算を念頭に置いて制作することが大切?


そうですね。僕はある時期から引き算をするよう心がけていますが、それをどのようにやるかはすごく難しいことなんですよね。画面作りにおいても、演出においてもそう。演出でも引き算をすることは大切だと思っています。杉浦さんの原作は引き算が非常に巧みなんです。

――確かに、あえて描かない、余白を残すことで想像力を掻き立てるような作家だと思います。


これまでの仕事でも杉浦さんの漫画から影響を受けていると自分で思っていて、すごく尊敬している方でもあります。それを考えると、やっぱり足し算だけじゃダメなんだなぁと。引き算をしてこそよくなるものもある。それは常に考えるようにしています。
アニメーション映画としてはあまり無いかもしれませんが、十数秒止め画で見せるカットもあります。なぜ動かさなかったかというと、動かす必要が無かったから。これはアニメーター出身の監督だったらそうはしなかったんじゃないかと思います。

――引き算を意識されている一方で、原監督が「ここは足し算すべきところだ」と思ったのはどんなシーンでしょうか。


足し算でいったのはお猶の死を悟ったお栄が走っていく背景動画のシーン。今だったら3Dで描くシーンだと思いますが、この30秒以上のシーンをひとりの人間がカメラワークも考えながら背景も手描きで描いて動かすという、現場的にはかなり大変なシーンです(笑)。

――映画館で観ていて、あのシーンに入ってからの感情の高ぶりは凄まじかったです。ひとりの観客としてすごく盛り上がりました。


あのシーンは僕なりの理由があって、これは背景動画にしたほうがお栄の焦燥感など色々な感情が伝わるんじゃないかと思ったんです。ただ背景動画は昔のテクニックなので若いアニメーターだとうまく描けない。このシーンを担当してくれたのは佐藤雅弘君という、『カラフル』で作画監督をやってくれたアニメーターで、セル時代に背景動画の経験をたくさんしている人なので安心してお任せしました。僕の予想以上に見事に描ききってくれましたね。

――作画スタッフの力がとても大きかったんですね。


これまでにも一緒に仕事をした、信頼できるスタッフに参加してもらえたし、初めてお会いする優秀なスタッフにも恵まれたと思います。その中でも井上俊之さんという、素晴らしい方と初めて仕事ができたのは僕にとってとても大きいです。

――原監督から見た井上さんのすごさって、どんなところですか?


何でも描けてしまうんですよ、井上さん。何でも描けるし、それでいて「この作品のこの絵コンテはこういう画を目指しているんだな」っていうのをすごくわかって描いてくれる人だなと思いましたね。


■ 考証家を立てず、手探りで描いていった

――制作していく中で、もしも杉浦さんがご存命だったら聞いてみたかったことはありますか?


たくさんありますよ。着物の柄なんかは、原作を見てまねして描いていますが、一番登場回数の多いお栄の着物が何の柄なのかわからなかったんですよね。すごくもどかしかったです。背景に描いてあるこのお店は何屋さんなのか、とかも。
たぶん杉浦さんの中では全部答えがあるんだと思うんですけど、僕ら制作する側はひたすら想像力を膨らませて作るしかなくて。特に今回は考証家を立てていないので、他の作品を含めて杉浦さんの漫画を教科書であり、答えとして進めました。資料を当たることもありましたが、江戸時代の絵ってリアリズムで描いてあるわけではないので。幕末は写真も残っているので別ですけど(笑)。それをどこまで信じるのかというのもありました。

――メイキングでは着物を着た人を撮影して参考にしていたりしましたね。


ほかにも、時代劇の撮影に使われる日光江戸村のオープンセットをスタッフと一緒に見に行ったり、小道具を取り扱っている会社に足を運んで実際の小道具を見せてもらったりしましたね。アニメーターさんも時代劇のアニメ経験ってあまりないんですよ。着物もこういうポーズをしたらこういうシルエットになるとか、みんな悩んだと思います。そのあたりは、キャラクターデザインも担当してくれた板津(匡覧)君がすごく頑張って描いてくれました。江戸時代の人は歩く時に腕を振らなかったとよく資料に描かれていて、ふたりで「これどうしよう」と話をしたり。

――それはアニメーションにしてしまうと、かなりの違和感がありそうです。


結局は、今の人ほどは腕を振らないけれどなんとなくは振っている、という感じでやろうという話になって。でもこれが時代考証的に正しいかはわかりません。

――お話を伺っていると、誰も正解がわからない中でとても手探りな状態から画面作りをしていったんですね。


そうなんです。だから本当に、杉浦さんがもうご存命でないことが残念で仕方がなかったです。

(後編に続く)



『百日紅~Miss HOKUSAI~』
Blu-ray&DVD 2015年11月26日発売

Blu-ray 特装限定版: 7,800円(税抜) 
Blu-ray: 4,800円(税抜) 
DVD: 3,800円(税抜)
発売・販売元: バンダイビジュアル
※レンタル専用DVD同時リリース

《川俣綾加》
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