『アイアンマン』『アベンジャーズ』をはじめマーベル・コミックの映画化が相次ぐ状況にあっても、『アントマン』の映画化は衝撃をもって迎えられた。体が縮む、アリを動かす、スーツを着て能力を得るという異色ヒーローだ。劇場の大スクリーンに向けてどのような映画となるのか?ファンの期待に応えるかのような観る者に共感を呼ぶアクション・エンタテイメントが誕生した。 メガホンを取ったのは『チアーズ!』『イエスマン“YES”は人生のパスワード』などのコメディ作品を手がけたペイトン・リード監督だ。9月19日に日本公開がスタートした『アントマン』について、マーベルの大ファンである監督に話をうかがった。[取材・構成=高橋克則]■ 『アントマン』は大企業の御曹司でも不死の神でもない――まず『アントマン』の魅力がどこにあるのかに教えていただけますか。ペイトン・リード監督『アントマン』の主人公 スコット・ラングは今までになかったタイプのユニークなヒーローです。第一に彼は超人的なパワーや頭脳を持っているわけではありません。アントマンのスーツを手に入れてヒーローになるまでの過程は波瀾万丈ですが、生まれつきヒーローの資質があったわけではない。スコット自身はどこにでもいるごく普通の男なんです。それ以上に重要なのは、一人の父親であるということです。スコットがヒーローになりたい、人生をやり直したい、真っ当に生きたいと願うのは、愛する娘のため良き父親になりたいからです。スコットの背中を押しているのは娘の存在であって、彼女への想いが観客の一番共感できる部分だと考えました。主演のポール・ラッドはそんな彼を親近感の持てる人物として演じてくれましたね。――身長1.5cmになるという特殊能力もユニークです。ヒーローを小さく見せなければならない『アントマン』の画面をどのようにつくっていったのでしょうか?ペイトン・リード普通のヒーローであれば、ローアングルで下から上に向かってアオリ気味で撮れば強そうに見せることができます。しかし『アントマン』ではそういったノウハウは一切通用しません。どのフレームで撮影すればより小さく見えるのか試行錯誤し、クロースアップの後にロングショットで見せるという方法を思いつきました。最初にカメラを寄せてアントマンの戦いぶりを大きく映し出します。周囲を巻き込むほどの壮絶なバトルが繰り広げられていると思わせたところで、カメラを引いて全景を見せる。すると実は寝室の隅っこでコチョコチョと戦っていただけだったと分かって笑いが起きる。アントマンの縮小能力を利用したコミカルなシーンは常に挟もうと意識しました。――予告編には、アントマンが『きかんしゃトーマス』のオモチャに轢かれてしまうシーンが出てきました。ペイトン・リードあれは私が大好きな場面の一つです。あそこで普通の鉄道模型を使っていたら面白くも何ともないですよね。あのトーマスが巨大な目を左右に動かしながらドアップで近付いてくる。それだけでギャグの要素は10倍ぐらいアップしますよ(笑)。■『アントマン』は『ウルトラマン』に似ている!?――特殊な能力のせいで誤解する人もいるかもしれませんが、アントマンは決して弱いヒーローではないですよね。ペイトン・リードもちろん! 『アントマン』では観客の期待をよい意味で裏切りたかったんです。普通なら「アリを動かせる特殊能力だって? そんなの何の役に立つんだ」と考えるでしょう。でも映画を観れば「コイツはすごいぜ、アントマン!」と思ってもらえますよ。――良い意味での裏切りと言えば、キャプテン・アメリカの相棒 ファルコンとのバトルは嬉しいサプライズでした。ペイトン・リード私自身マーベル・コミックのファンで、とくにファルコンは大好きなヒーローです。ぜひとも本編に登場させたいと考えていました。アントマンVSファルコンはヒーロー同士の夢の対決ですが、スコットは自分がヒーローになったという意識がありません。だからファルコンとのバトルは「最初に言っておきますが、あなたのファンなんです」と挨拶するところからスタートしていますし、戦闘中も「すみません、すみません」と謝りながら殴っている。真剣な対決シーンながら、そういったところも楽しんでもらえると思います。――いまマーベルのファンとのお話がありました。日本にもアニメや特撮などのエンタテイメントは多いのですが、監督はこうしたものも観られるますか?ペイトン・リードウルトラシリーズはアメリカでも放送されていて子供の頃から大好きなんです。私はアントマンのスーツを見ているとウルトラマンを思い出すんですよ。少しレトロな感じとか、似ていると思いませんか?――確かに彷彿とさせるところがあります。アントマンとウルトラマンでは大きさは正反対ですが。あとアントマンのスーツは受け継がれたものなので、傷が付いているのも印象的です。ペイトン・リードあのスーツには初代アントマンであるハンク・ピムがヒーローとして辿った百戦錬磨の歴史が刻まれています。二代目のスコットを主人公にすることは脚本の原案から決まっていて私のアイデアではありませんが、結果的には大正解でした。ハンク・ピムはあくまで師であり、スーツは二代目に託されていく。継承というテーマが上手く表現できました。それにスーツを使い込まれたデザインにしたのは、敵となるイエロージャケットとの対比という意味合いもあります。イエロージャケットのスーツは新しく作られたもので、デザインも洗練されていて、オマケに武器まで付いている。私たちはボロボロのアントマンのスーツを“アナログ”、イエロージャケットのスーツを“デジタル”と呼んでいました。――本編でハンク・ピムはアイアンマンよりアントマンのスーツの方が優れていると話されています。ペイトン・リード私はアントマンのスーツが今までのマーベル映画のどのヒーローよりカッコいいコスチュームだと確信していますよ。――最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。ペイトン・リードとにかく最高に楽しめる映画になっていますし、2D版と3D版でそれぞれ異なる魅力があります。アントマンと同じ視点になってミクロの世界を冒険してください!映画『アントマン』9月19日より全国公開中
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