マンガはなぜ赦されたのか-フランスにおける日本のマンガ-第6回「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon-後編- 2ページ目 | アニメ!アニメ!

マンガはなぜ赦されたのか-フランスにおける日本のマンガ-第6回「郊外」から成功したマンガ出版社:Ki-oon-後編-

短期集中連載(毎日曜・水曜更新)、全9回予定。■豊永真美 [昭和女子大現代ビジネス研究所研究員] [第5章「郊外」で起業するということ-後編―] 新興マンガシ出版社Ki-oonの誕生とビジネスにフォーカス。

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■ Ki-oonと日本の作家・出版社の距離感

Ki-oonは日本で商業出版されていない日本人作家のエージェントとして出発した。このため、日本人の作家からは信頼を勝ち得ているようだ。
特に筒井哲也はKi-oonに信頼を寄せている。筒井自身のホームページでは2006年に初めてKi-oonの招へいにより「Salon de livres(サロン・ド・リーブル 書籍見本市)」でサイン会を開催した模様が書かれている。日本でもあまり知られていない自分がサイン会で多くの読者と触れ合うことにより「もう少しで泣きそう」と書いている(*26)。

また、「乙嫁語り」の森薫もKi-oonに信頼を寄せているようだ。森薫の代表作の「エマ」はフランスでは当初、Kurokawaより出版されたが、大きな成功とは言い難かった。
「乙嫁語り」はKi-oonが出版したが、ち密な絵柄から、フランスのバンド・デシネファンにも対しても作品の良さを働きかけた。毎年アングレームで開催されるバンド・デシネのフェスティバルにも出展し、2012年には「世代を超えた作品賞」を受賞した。これは、特定の年齢に限らず、誰でも楽しめる作品に与えられる賞である。

こうして、日本人との作家と深い関係をもとに、Ki-oonが2014年に新しく取り組んだのが「Tremplin Manga」という新人マンガコンクールだ。フランス人のマンガ作家を発掘するというフランス版「まんがスクール」だが、審査員に、森薫、塩野干支郎次、筒井哲也が名を連ねている。いずれも、Ki-oonで翻訳出版している作家だ。一方、後援には、フランス企業に加え、在仏日本文化会館も入っているが、日本の出版社の名前はない。

さらに興味深いのが、筒井哲也のホームページにある「長崎県有害図書類指定問題について」の英仏語の翻訳だ。筒井哲也は自身の「マンホール」の第1巻が長崎県の有害図書に指定され、それを5年間も知らされていなかったということをきっかけに、長崎県の有害図書の指定方法等に異議を申し立てている。
この過程は自身のホームページに出ているが、その抗議の経緯を英仏2か国語で翻訳したものも自身のホームページにあわせて掲載されている。これを読むと、日本が国レベルでなく都道府県レベルでゾーニングを行っており、かなり恣意的に決めていることが判明する。そして、この有害図書指定の方法は広く英仏語で掲載されているのだ。
このようにKi-oonの活躍は、Ki-oonで作品を発表する日本人の作家にとっては嬉しいことからもしれないが、日本の出版社にとって同じように嬉しいことかは疑問が残る。日本の出版社の多くは、作家のエージェントを兼ねており、翻訳出版についても自らが主導権を取りたいと思っていることが多いからだ。このため、Ki-oonの活躍は日本に伝わりにくい。

[/アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz より転載記事]
《アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.biz》
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