そして、ウォシャウスキー姉弟は『マトリックス』の頃より日本のアニメから影響にたびたび言及する。その彼らの新作を日本のトップクリエイターはどう見たのだろうか。『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズ、『東のエデン』など数々のSFアニメで、日本だけでなく世界中にファンを持つ神山健治監督に、映画『ジュピター』とウォシャウスキー姉弟についてアニメ・特撮研究家の氷川竜介氏が訊いた。
[聞き手=氷川竜介、取材・構成=細川洋平]
『ジュピター』
3月28日(土)新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他 全国公開
http://www.jupitermovie.jp
アニメ!アニメ!×ジュピター特集ページ公開中
/http://animeanime.jp/special/388/recent/
■ 現実からつながる『ジュピター』の広大な宇宙
―氷川竜介氏(以下、氷川)
3月28日にウォシャウスキー姉弟の最新SF大作『ジュピター』が公開されますが、神山監督は本作をどうご覧になりましたか。主人公ジュピターを演じたミラ・クニスは『ブラック・スワン』や『テッド』の人気女優ですが、目力が強くていいですね。
―神山健治監督(以下、神山)
ヒロインは唐突に事件に巻き込まれていきますが、行動が一貫してうまく描かれていました。一方で巨大な宇宙の覇権、もう一方で「家族を助けたい」とミニマムな感情を動機として絡めています。ストーリーは王道で、お姫様と騎士の恋といったエピソードをシンプルに入れる。SF映画は設定に目が行きがちなんだけど、ここではキャラクターの感情に焦点が当たり続けていますね。壮大な設定だけど、実はシンプルなストーリーなので身を委ねているだけでわかって来る。
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神山健治監督
―氷川
たしかに不幸な生活を送るヒロインが全宇宙のお姫様という設定は典型的な貴種流離譚で、どこかラノベっぽいですね。私は結婚式のシーンで、宇宙版『カリオストロの城』かと思ってしまいました(笑)。宮崎アニメ的でもありますね。
―神山
確かに彷彿とさせますね(笑)。『(天空の城)ラピュタ』っぽくもあるし、どこか刷り込まれているのかも知れない。『ジュピター』に限らず、最近のハリウッド映画全般にそうした日本のアニメとの共通性は感じます。ティーンエイジャーを映画に呼ぼうとしているのも同じですね。
―氷川
そんな若い世代に『ジュピター』はどう映るのでしょうか。
―神山
ウォシャウスキーは、ストーリーに相当気を遣ったと思うんですよ。例えばクリストファー・ノーランの『インターステラー』はSFマニアがすごくニヤリとする作品でした。一方で『ジュピター』はマニア的なSFの知識を必要としない気がします。むしろ「自分が暮らしている現実の延長線上に、実は私たちが知らない世界が広がっているんだよ」と。そこが入りやすいと思います。
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