SF大作「ジュピター」の見どころは? 沼倉有人(CGWORLD)×数土直志(アニメ!アニメ!) 編集長対談で迫る! 2ページ目 | アニメ!アニメ!

SF大作「ジュピター」の見どころは? 沼倉有人(CGWORLD)×数土直志(アニメ!アニメ!) 編集長対談で迫る!

SFアクション映画『ジュピター』の劇場公開を控え、デジタル系エンターテインメント映像誌「CGWORLD」編集長の沼倉有人氏と、アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」編集長の数土直志氏の対談を行った。

ニュース
注目記事
■ リアルで緻密な映像表現は、何度でも観たくなる。

数土
純粋にエンターテインメント作品として楽しめますが、一方“SF映画”的にも見どころ満載ですよね。

沼倉
そうですね。映像的なつくりこみが凄まじくて何回でも観たくなるシーンがたくさんある。ある宇宙船を描いたショットのレンダリングは、仮に24コアのPCで描画した場合、1フレーム20時間も要するという凄まじいつくりこみをしているそうです。なので「SF世界観をしっかり観たい」という人にもオススメできます。
あと面白かったのは、ジェット噴射を利用した反重力ブーツの描写ですね。『ドラゴンボール』的なスマートな飛び方ではなく、スケートのようなフィジカルな描写になっていて、現在のVFX表現としては珍しいと思いました。

数土
CGの使い方は、全体に実体感を感じさせます。

沼倉
反重力ブーツを使ってのアクション・シーンはシカゴの街で撮影されていますが、RED Eclipseという4Kカメラ6台を組み合わせた特機を用いたヘリ空撮による実写素材を元に合成するという実写ベースのVFXは、近年のハリウッド大作のなかではむしろ珍しいものです。『アバター』(09)以降の大作映画では、3D環境をつくってデジタル・ダブル(CGで作成された人物に演技をさせる手法)技術を使うことが多く、逆に実写を取り入れるとなると表現としてチープになってしまう危険性があるんです。そうした難題にあえて挑戦しているところは、さすがウォシャウスキー姉弟だなあと。

数土
ちょっと懐かしい感じもしましたよね。

沼倉
ええ。一方で、宇宙空間に艦船がひしめく描写などでは、モダンで最先端なVFX技術を駆使して描いている。あと恐竜型の宇宙人が登場しますが、フレームストアというクリーチャーや動物表現の実績があるスタジオが担当しています。こういったところは正当なつくりこみなんですよ。独自な映像表現がありつつも、モダンな映像表現もクライマックスに用意されている。そういう意味で、SFファンやプロの制作者には自信を持ってオススメしますね。

/

■ ブロックバスター時代の「SF映画」の到達点

――近年の大作映画は「シリーズもの」や「原作もの」が大半を占めているなかで、完全オリジナルSF作品である『ジュピター』は独特な位置にあると思います。

沼倉
現在「SF」が不利になっているのはたしかですよね。日本のアニメで「日常系」がヒットしているのを見てもそう思いますし、映画だと『トランスフォーマー』のような突出した作品だけが大ヒットするという状況です。

数土
日本のアニメでは「SF」だけとなると難しいジャンルです。現在の日本のアニメビジネスは、映像単体ではなく、音楽展開、キャラクターグッズ、イベント開催とさまざまな楽しみ方を用意した総合エンタテイメントになっています。
そのとき「日常系」や「学園もの」と比べて「SF」は日常と接点を持ちにくくなりがちで、そこをどう日常とつなげるかが作品の見せどころになっています。
一方、ハリウッドのSF映画は突出した大きな作品、ブロックバスターが人気となる時代です。『ジュピター』はブロックバスターでありながら、日常とも接点を持たせることで成功しています。日本のアニメファンにも受け入れやすいと思います。

沼倉
現在大作映画で主流の「3Dベースで世界観つくりこむ」というやり方は、『アバター』(09)がきっかけなんです。そうすると、大手スタジオが自前のレンダラーで千人単位の人海戦術的につくるといったように膨大な制作費がかかるわけです。
でも『ジュピター』を観て思ったんですけど、本作のように実写も上手く取りいれつつというオーソドックスなアプローチは、実はまだ開拓の余地があるんです。SFおよびファンタジー作品は、決して大きいスタジオだけのものではないと。

数土
そうですね。アニメでいうと、荒牧伸志監督の『アップルシード アルファ』はフル3DCG作品でありながら、キャラクターに関しては人間の演技を、モーションキャプチャーを取り入れつつやっているので。

沼倉
CG制作は今でも高嶺の花と思われがちですが、“Blender”というオープンソースの3DCGソフトで商業制作をしているクリエイターがいたり、一箇所のスタジオで集まってつくるという正統なつくり方に対して、アメーバ的につくるというIT的な発想も生まれつつあります。そういった意味で今後変化があるかもしれません。

/


《沖本茂義》

編集部おすすめの記事

特集