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里中満智子氏がゲーム開発者に語った日本のクリエイティブの背景

KANSAI CEDECの基調講演で、大阪芸術大学キャラクター造形学科長もつとめる漫画家の里中満智子氏が登壇し、「キャラクター造形とデジタルエンターテイメントについて」と題して講演しました。

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「漫画界でいえば手塚治虫と、その次の世代についても同じことが言えます」。手塚治虫の最大の功績は、それまで芝居中継のようだった漫画のコマ割りに対して、映画的な構図を持ち込んだ点にあります。「それまでは定点カメラでしたが、手塚治虫は手持ちカメラを多用して、キャラクターに近寄ったり、俯瞰でとらえたり、キャラクターと一緒に舞台の上をかけまわったりしました」

しかし手塚治虫に憧れて漫画家になった次の世代は、それを当たり前のこととして受け止め、そこに自分なりの創意工夫を付加していきます。里中氏が上げたのは『あしたのジョー』などで知られるちばてつや氏で、構図はそこまで派手ではないが、人物造形や人物設定を掘り下げていったのが最大の特徴でした。
当初、少女漫画家としてデビューしたちばてつや氏。幼少期に初期作品群にふれて、里中氏は「ちば氏が女性に違いない」と確信したといいます。ステレオタイプの少女像にあふれていた当時の少女漫画界で、唯一といっていいほど女性の内面や気持ちが真に迫っており、リアルだったというのです。

ドラマ論についても解説がありました。高校生でデビュー後、アイディアを求めて図書館でギリシア戯曲集を手に取ったところ、子どもの頃に読んだジュブナイル版との違いに驚かされたという里中氏。あらすじは同じでも、キャラクターの描き方などで、まったく違う内容のものになっていたのです。同じ頃に見た映画『ウエスト・サイド物語』も同様でした。『ロミオとジュリエット』が下敷きで、あらすじは平板でも、思わず夢中になってしまったとのこと。この二つの経験から、キャラクターの見せ方をはじめとした、演出の重要性について開眼したといいます。

里中氏は漫画を植物にたとえて説明しました。木は重力にさからって上に伸び、枝を広げて葉を茂らせます。漫画でいうならストーリーが幹で、木が高く生長するほど大長編となります。枝が細かいエピソードで、葉の一枚一枚がキャラクター。上空から見ると葉のすべてに日光が当たるように、木は自然と成長していきます。この葉に日光が当たることで、幹は根から水分を吸い上げ、さらに高く成長していけるのです。
漫画も同じように、物語の構成を考えることも重要だが、それ以上に各々のキャラクターの行動原理をきちんと突き詰めて考えることが、ドラマ性を高める上で重要だと指摘しました。

「ドラマの語源は古代ギリシア語で『のっぴきならない事態』のことです。ドラマはあらすじではありません。コトを動かす人(キャラクター)の気持ちがあって、ストーリーがドラマチックになっていきます」

そのうえで漫画とゲームは違うと前置きしつつ、ゲームを遊ぶのは人なので、ゲームのキャラクター造形についても、しっかりとした深みを持たせて欲しいといいます。
「そのキャラクターの背景はどうで、どういう気持ちでここにいて、何のために意地をはって戦おうとするのか、そしてその結果何が起きるのか。そうした、ちゃんとした人生観がないと、ただ戦っても盛り上がらないと思うんです」。その上で漫画やアニメを見て、なぜこのシーンが心を打つのか、なぜこのキャラクターが格好いいと思うのか、分析して役立てて欲しいと呼びかけました。

[/INSIDEより転載記事]
《Article written by 小野憲史@INSIDE/www.inside-games.jp》
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