富野由悠季総監督インタビュー「ガンダム Gのレコンギスタ」を語る(下) 「Gセルフ発進します」を何度も繰り返すわけにはいかない 2ページ目 | アニメ!アニメ!

富野由悠季総監督インタビュー「ガンダム Gのレコンギスタ」を語る(下) 「Gセルフ発進します」を何度も繰り返すわけにはいかない

11月5日に73歳の誕生日を迎えた富野由悠季総監督に、『ガンダム Gのレコンギスタ』を語っていただいた。インタビュー後編ではキャラクターやドラマについて語っていただいた。

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―富野監督の作品でいろいろな脇役が印象的なのはそういう理由があるんですね。

富野由悠季総監督(以下富野)
それは演出家が、そこにいる人間をその人らしく見せようとするなら、当然のことだとは思います。でもおかげで『G-レコ』はキャラクターが増えすぎて……。
先日アフレコで「なんでこんなに登場人物がいるの?!」って言ったらスタッフから「それはあなたがやったからですよ」って言われました(笑)。

―もともと富野監督作品は登場人物が多いですよね。

富野
今回は今まで以上なの。でも、ロボットものをここまで作ってきて思うのは、メカの描写というのはつくづく“劇”にはなりにくい。演劇的にはならない。

―でも、富野監督は戦闘中に会話の応酬を織り込んだりして、メカシーンを“劇”にしようとしてきたと思いますが。

富野
いや、あれは結局、“劇”っぽいものでしかなったと言えますね。メカシーンでいうならたとえば「G-セルフ発進します」というセリフ、1回は言わせることができます。でも2回、3回と同じことを繰り返すわけにはいかない。
そこで“劇”にするために繰り返さず、どうするかと考えます。いつもシートに座っていていいのか、一人がいうだけでいいのかどうかという状況論もあるし、セリフも変えていく。それが演劇として考えることだし、“劇”として見せていくことにつながるんです。“劇”はまず人が動かなくてはいけないものだから、そういうことを考えて絵コンテの直しをしていたら、今朝提出した絵コンテでは戦闘シーンがなくなってしまいました。

―なくなってしまったんですか。

富野
結局、この話数は人間側の動きだけのほうがおもしろいだろうというふうになってしまったんです。でもこちらでメカシーンはいらなかったと判断して直す以上、責任は大きい。ちゃんとそこをおもしろいシーンにしなくてはならなくてはいけませんから。そうなるとコンテを直しながらいちいち立ち止まることになります。そうして頭を使って、自分の中のなけなしのアイデアをしぼり出しながら“劇”を構成していくコンテ作業をする事になります。

―想定していたストーリーを、そうやってドラマで肉付けしていくんですね。

富野
そうです。メインキャラクターのストーリー作りもまった同じやり方をしています。今回はキャピタル・タワーを設定して、ベルリとアイーダという2人を敵味方に配置した。さらに設定に関わるキャラクターとしてラライアも登場させる。この枠組みを作った後は、何一つこちらの都合で動くわけにはいかなくなってしまったんです。
アイーダがメガファウナへ帰ろうとすると、ベルリまでくっついてきてしまって、しかもノレドまでそこにいる。キャラクターに“劇”をさせていくことでストーリーにしているという点では『G-レコ』はかなり生っぽい肌触りの物語になっていると思います。

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―つまりお話をまとめると「いろいろなキャラクターがいる賑やかさ」というエンターテインメント性と、子供たちの未来に期待する「種」が共存しているのが『G-レコ』なんですね。

富野
そこも決して分離しているわけじゃないんです。その世界の成り立ちと登場人物のメンタリティは密接に結びついているはずなんです。最近読んだ『やまとなでしこの性愛史 古代から近代へ』(ミネルヴァ書房、和田好子)を見るとそういうことがわかります。江戸時代の結婚などにまつわるさまざまな決まり事が、庶民から将軍までの性に関するメンタリティを支配していたことがわかります。
今から見れば奇妙に見える習慣を支えていたのは、制度そのものというより、そこに適応していく方向で形成されたメンタリティなんです。このメンタリティに従うということが即ちリアリズムということです。でも、人間はリアリズムだけでは生きていけない。そこで夢が生まれます。江戸時代であれば歌舞伎であり人形浄瑠璃がそれに当たります。

―人間の中には「リアリズム」と「夢」の二つが入っているのですね。

富野
『G-レコ』の場合は、ファッション論と技術論の部分がリアリズムに則っていて、その上のキャラクターたちのストーリーは「夢」でできています。そして「種」は、その「夢」で描かれたことを、遠い将来にリアリズムに転換できることを願って仕込んだものです。こういうことは『∀ガンダム』ではできませんでした。『G-レコ』だからこそできたことです。
……
少し難しい話になりましたが今は『G-レコ』で面白そうなシーンをいろいろ作れることにワクワクしています。第13話、第14話あたりもまたちょっと面白いと思っているので、放送を追いかけていただければありがたいなと思います。

『ガンダム Gのレコンギスタ』 
http://www.g-reco.net/
『∀ガンダム』
http://www.turn-a-gundam.net/

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《藤津亮太》
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