10月26日、TOHOシネマズ 日本橋で、第27回東京国際映画祭の特集企画「庵野秀明の世界」のトークセッション第3回が開催された。5回にわたる連続企画の今回のテーマは、「アニメーター:庵野秀明」である。アニメファンには、待っていましたともいうべき一日だ。トークでは庵野秀明氏とアニメ・特撮研究家の氷川竜介氏がいくつかの作品を挙げながら、庵野氏のアニメーターとしての仕事を掘り下げた。話は1時間にも及び、多くのエピソードが飛び出す充実の内容となった。トークに先立って会場では、数々のアニメのなかから庵野氏が手がけたカットだけを抜き出した贅沢な映像も上映された。その作品は『超時空要塞マクロス』から『王立宇宙軍オネアミスの翼』、『風の谷ナウシカ』、『火垂るの墓』、『ジャイアントロボ THE ANIMATION』など実に多彩だ。作品の数は多いが、共通するのはメカやロボット、そして爆発などのシーンにカットが集中していることだ。ここからは庵野氏がとりわけエフェクトアニメーターとして大きな才能を発揮してきたことが分かる。実際に庵野氏は、宮崎駿監督から人物は下手と言われたことがたびたび話題にあがった。『風の谷のナウシカ』では巨神兵が崩れるシーンの作画で名を馳せた庵野氏は、最初からこのシーンを描くことを期待されて採用されたのではないかと。一方で人物については、宮崎駿監督が全て描き直したという。そして宮崎監督が高畑勲監督に、庵野氏を紹介する際も「人物は描けないけれど、メカは描ける」とも。そんなメカの原点には、メカアクションの名手として知られた板野一郎氏の存在があった。大学時代はプロに通用するとは思っていなかったが、板野氏と出会いその原画を見て「こんな原画があったのか」と衝撃を受け、この人と仕事をしたいと思ったのが仕事のきっかけだった。その後のエピソードもダイナミックだ。アニメスタジオのアートランドに挨拶にいった時に、いきなり板野一郎氏に原画を渡されて、修正するように言われたという。まさかのいきなり作監デビューの伝説は、本当だったようだ。その後も、『マクロス』第25話「愛は流れる」やDAICON4、『王立宇宙軍』などの逸話が次々に飛び出す。その思い入れたっぷりの語り口には、充実したアニメーター生活を過ごしてきたことが感じられた。トークのなかでも印象的に語られた板野氏からは空間の扱い方を学んだという。その原画をこっそりみたり、コピーをしたりした。宮崎駿監督からはレイアウトを学んだと話す。宮崎駿監督はレイアウトを直す際に、わざわざ庵野氏を呼び説明をしたそうだ。そんな庵野氏に氷川氏は、アニメーターを目指す若者について訊ねた。これに対して庵野氏は、アニメーターは映画で言えば、カメラマンと役者と撮影の全てを同時にやるような仕事と答えた。一人で全てやるからこそ、面白いと、アニメーターの醍醐味を強調した。さらにアニメーターに求められるものとして観察力を挙げた。これは手描きアニメーターだけでなく、CGアニメーターも同様である。モノを見て、何を残し、何を捨て、どう再構成するのか、そうした力が求められるという。
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