―間もなくBlu-ray Boxがリリースされる『∀ガンダム』と富野監督についても伺わせてください。テレビシリーズでは富野さんのガンダムは15年前のこの作品です。
今回の『G-レコ』は『∀』のアンチテーゼの様にも感じます。例えば『∀』はスロースタートで徐々にエンジンがかかる感じです。これに対して『G-レコ』ではいきなり3話までダッシュで走り続けるような。この15年の変化はどう思われますか?
―氷川
今回『∀』のBlu-rayでひさびさに振りかえってみたときに、「世紀末に作られたガンダム」ということがいちばん大きいと思いました。20世紀末からちょうど100年前、産業革命の影響で、アメリカの大地がどんどん変わっていく時期の雰囲気を重ね、回帰のムードを出していたのもそのためです。ただ、『G-レコ』にはあまり回帰の感じはしませんね。
―藤津
『∀』は文芸志向が強かったと思うんですよ。

藤津亮太氏

氷川竜介氏
―氷川
『ブレン』の経験から、富野監督は「芸能」ということをさかんに前面に出すようになりました。自分自身の経験に照らし合わせても、50歳を過ぎれば個の生命より、もっとロングスパンでつながり、繰りかえしていくことを考えるようになるのではないかと。
―藤津
そもそも「マウンテン・サイクル」という固有名詞が出てきますからね。あるいは、命の循環を表す“蝶”がモチーフだったり。蝶は蛇と共に「再生」のイメージで語られる生き物ですから。
―氷川
生命の根源的なものを見つめなおしていた時期の作品ということでしょうね。当時はオンエアと並行してDVDパッケージ用のブックレットでリアルタイムに論じていたのですが、こないだ読み返してその当時の評価を思い出し、また自分が歳を重ねたなりに感じることが多々ありました。
―藤津
ああ~(笑)。当時、アニメージュで『∀』の記事を担当していましたが、「魅力はあるのに、なかなか広がっていかない」というもどかしさはありましたね。
―氷川
当時のその評価は、あまり世間と共有されなかったと思います。「ヒゲのガンダム」という点でバッシングもあったし、他のガンダムシリーズと違いすぎて決して人気作ではなかった。しかしオンエアから5~6年が経過したら、いつの間にかみんなが好きになっていた。そんな印象もあります。
―藤津
『∀』はテーマ性がすごく強かったと思うんです。氷川さんがおっしゃった“世紀末”だったり、命というものがどういうふうに巡るのか、というのを富野さんは意識して作品に込めていたと思います。
