―本作で気になった点はありますか?
―藤津
第2、3話を見てて、昔のアニメっぽいなって思ったんですよ。70年代いっぱいから80年代初頭の“ブラウン管”のこちら側を飽きさせないよ、というような語り口というか。
―氷川
さらに昔かもしれませんよ。富野さんは100年単位で大昔を引用することもあって、『∀ガンダム』の時は、映画『風と共に去りぬ』。『ブレン』の時はハロルド・ロイド『要人無用』など “時計台から落ちそうになるシーン”。無声映画時代、映像だけでどうお客さんを引きこむかというとき、高所恐怖のギミックが多用されていました。今回もまた“ベッドを使って「落ちる落ちる!」というお約束を見せている。「ここから落ちたらどうなるか」という高低差が招く予感、人間の目が持つ危険予知の特性を刺激しながら、観客を巻きこんでいこうとしているなと。
―藤津
そうですね。『G-レコ』のいろんな「落ちる落ちる」って、説明で画面が止まったり静かになるのを避けるために、100年前にあったアクションなりを持ってきて、動きのあるシチュエーションの中で状況をどんどんわからせていく、みたいなことなんですよね。
―氷川
ええ。富野さんを深く知ろうと思ったら、「画だけで伝える」サイレント映画を研究するといいかもしれませんね。
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■ サステイナブルな社会へ
―今回は物語も最初から全力疾走ですよね。
―藤津
僕はよく朝日カルチャーセンターなどの講座で『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(以下、『逆シャア』)を取り上げて、冒頭の10分の解説をするんです。あれはまさに紛争の途中から物語を始め、展開の中で断片的に状況が見えてくる。
富野さんは「物事は最初から順序よく、みんなに見通せる形で始まるわけじゃない」という感覚の持ち主なんですよね。むしろ見通せないのが自然と考えている。だから、物語は事件の途中からはじまると。今回もそうなってます。
―氷川
この先、いわゆる大ボスも出てくるでしょうね。宇宙エレベーターを落とす、ワイヤーが切れる。カタストロフはそれぐらいしか考えつきませんが、その予想を超える大惨事が起きて、たとえどんなに、ヒドイことが起きても「人は元気に生きていける」的な方向にいくかなと……。
―藤津
そうですね。それは僕もそう思います。そういえば、インタビューで富野監督が「宇宙エレベーターがあるのがすごいおもしろいんだ」と言ってたのは印象的でしたね。つまり、地球を背景にしてクラウンと呼ばれるエレベーターの“籠”が画面手前に来るというこれまでの『ガンダム』にはなかった絵面。それと縦移動ですね。地上だとモノは常に画面を横切っていくものなのに、宇宙エレベイターのクラウンはフレームを縦に移動していく。画面を見てこれは確かにおもしろい、と思いました。演出的にもリズム感を出すために第1話ではよく使ってたなあと。
―氷川
宇宙に向かって立体的な線路が延びていく、みたいなイメージというわけですね。宇宙エレベーターのワイヤーが見えなくなるほど長く伸びたビジュアルは、さすが宇宙マニアの富野さんだけあるなと思いました。実際に真空の宇宙まで出るまではものすごく距離感があるはずなのに、大半のアニメ作品では近く描きすぎていると思っていたので。
―科学技術といえば、『G-レコ』の世界では全ての動力を供給するという、エネルギー源「フォトン・バッテリー」が大きなカギになります。これについてどう思われますか。
―氷川
『キングゲイナー』には「フォトンマット~」という設定がありましたね。
―藤津
『キングゲイナー』の時から少しそうだったんですけど、「未来で人類はサステイナブルな社会を形成している」というのが富野さんの未来像の中にあるんです。だから、たぶん『ガンダム』世界では危険なもの扱いの「核融合」をやめたんです。
モビルスーツは基本的に「宇宙世紀」のものは核融合で動いていますから。『G-レコ』はそうではない、クリーンなエネルギーで持続可能なものを運用していると。それをスコード教が科学技術を一手に押さえてる。
どうしてそんな設定にしたのか、僕は2つ可能性があると思ってて、ひとつは穏やかだけど停滞してる社会というニュアンスを出すため。もうひとつは、富野さんの言葉でいう「悟性」、理性的なもので技術をコントロールしている社会が来たため。どっちなのか、ご本人に聞いたら、どちらかというと後者だと。技術的にはできるけど「やらないこと」を選ぶ社会。それはテーマではないけれど、作品を見た子供がそんな社会の実現や可能性について考えるのためになれば、と。
/後編「いっぱい死んじゃうのかな、と心配するところはあります」に続く
『ガンダム Gのレコンギスタ』
/ http://www.g-reco.net/
『∀ガンダム』
/http://www.turn-a-gundam.net/
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