世の中に、アニメの仕事をしたいと思う若者は多いに違いない。一方で、どうすればアニメの仕事ができるのか?どんな仕事ができるのか?さらに労働環境が厳しいとされるアニメ業界に足を進めるのは正しいのか?と悩んでいる人も多いかもしれない。そんな人に最適な本が、2014年5月に星海新書から発刊された舛本和也氏による『アニメを仕事に!』だ。舛本氏はアニメスタジオの株式会社トリガーの設立メンバーで取締役である。トリガーは新興スタジオながら、2013年秋からスタートしたオリジナルアニメ『キルラキル』の破天荒な映像と演出で大きな注目を集めている。『アニメを仕事に!』は、そんなアニメ業界の最前線からの声だ。とはいっても本書は、華やかな世界を描いているわけでない。むしろ副題に“トリガー流アニメ制作進行読本”とつけられているように、比較的地味な“制作進行”の仕事を中心に語る。制作進行はアニメづくりにおいて重要なポジションであるにもかかわらず、アニメ業界の外ではあまり知られることのない仕事だ。アニメに関する本は多く、アニメの仕事や技能に関する本も少なくないが、これまで制作進行の仕事を中心した本に出会ったことがなかった。制作進行の仕事にスポットをあてる点だけでも『アニメを仕事に!』は貴重な本と言っていいだろう。しかし舛本氏が制作進行をここで取り上げるのは、それだけが理由でない。制作進行はアニメができるまでの全てに関わる仕事だからだ。つまり、制作進行を軸に説明することで、アニメの制作の流れが驚くほどクリアに理解出来る。本書には仕事の流れやノウハウなどのアニメの仕事の様々な知識が散りばめられている。それは、アニメの仕事を目指す人だけでなく、アニメに関心がある全ての人にとって価値があるだろう。さらに本書が何よりも価値があるのは、舛本氏が一貫してアニメを作るのは楽しいというメッセージを送り続けていることだ。近年、アニメ制作現場の環境の厳しさが言及されることが多い。確かにアニメ制作の現場は楽とは言えない。それではなぜアニメを作る人がおり、アニメは作り続けられるのか?この疑問に答える人はあまりいない。しかし、『アニメを仕事に!』のなかに、この答えがある。アニメを作るのは楽しいのだ。アニメづくりにかかわる多くの人が持っているその言葉を、本書はダイレクトに伝える。『アニメを仕事に!』は新書ということもあり、価格は820円(税抜)と手頃だ。内容の豊富さの一方で、文章はとても読みやすい。さらに価格も手頃とあれば、気軽に手を伸ばせる。アニメの仕事としては勿論だが、アニメファンやアニメ以外の仕事の人にも是非、読んで欲しい一冊だ。[数土直志]『アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本』星海社新書著者:舛本和也定価:820円(税別)
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