『凪のあすから』レビュー 「物語と映像のまんなかに」 | アニメ!アニメ!

『凪のあすから』レビュー 「物語と映像のまんなかに」

10月のテレビアニメ新シリーズのなかでも話題が多い『凪のあすから』。アニメ評論で活躍する高瀬司さんが、そのオープニング:第1話について語ります。

レビュー アニメ
文: 高瀬司

海中で散乱する光のきらめきとビビットに彩られた魚の群れ。
階段上に立ち並ぶギリシア風の異国情緒溢れる街並み。
頭上で静かに揺れる水面のそのまた上に広がる、カモメが羽ばたき厚い雲が漂う、二重化された真っ青な空。
10月より開始されたオリジナルTVアニメ『凪のあすから』の第1話は、まずその圧倒的な密度感をもって描かれる美麗な映像で観る者を酔わせてくれる。

本作を支えるのは前クール『有頂天家族』でも新奇で魅惑的な世界観を見せてくれた制作スタジオ・P.A.WORK。監督には『RDG レッドデータガール』で歴史を貫くファンタジーを描き切った篠原俊哉、シリーズ構成には『true tears』で少年少女の感情の機微をすくい取った岡田麿里、人気イラストレーター・ブリキの原案に対するキャラクターデザインには『Another』の石井百合子と、これまでのP.A.WORKS作品における一つの集大成的なスタッフワークで固められている。
海と陸、二つに分かたれた世界を舞台に、異なる世界で育った少年少女たちが出会い心を交していく恋愛物語――容易にはイメージ化しにくいファンタジックな設定を、豊かに肉付けし、美しく彩り続けてくれるだろうと確信するに十分な布陣と言える。

とはいえもちろん、『凪のあすから』は単にそうしたユートピア的な光景を描くだけの作品ではない。海で育った先島光(CV:花江夏樹)、向井戸まなか(CV:花澤香菜)、比良平ちさき(CV:茅野愛衣)、伊佐木要(CV:逢坂良太)の幼なじみ四人が陸の中学へ転入し生活していく中で、海中との対比として、強調されることはなくとも確実にそこにあるものとして目に付くのは、海辺の街特有の、絶えず吹き付ける潮風によって腐食し赤錆がちらつく街並みのささやかな荒廃ぶりである。
コミカルな会話劇(「発情期じゃ」/「うろこ様いちおう神様だし」/「育てないで!」等々)の合間に差し挟まれるこのさり気ない描写の中に、すでに物語における不穏さの影が漂っている。

例えば第1話の時点でも明確なものとして、クラスメイトであり漁を手伝う陸の少年・木原紡(CV:石川界人)とまなかとの関係と、それに嫉妬する光の葛藤があるだろう。そこにちさきや要も加えれば、少女マンガ的とも昼ドラ的とも言える、より交錯した「めんどうな」一方通行の連鎖が浮かび上がる。
むろん不穏さの影はこれだけではない。教室では陸の側からの差別が、「おふねひき」の廃止をめぐる海の寄り合いからは伝統的風習をめぐる陸との対立が見て取れるし、塩害のニュースや不気味に映しだされた魚の死体からは海の世界の環境汚染が、光の姉でありスーパーで働くあかり(CV:名塚佳織)と二人組の小学生・潮留美海(CV:小松未可子)と久沼さゆ(CV:石原夏織)との間にはこじれた関係が匂わされている。つまり圧倒的な情報密度をもった映像と並走して、『凪のあすから』の第1話には、重厚なドラマの萌芽が幾重にも織り込まれているのだ。

『凪のあすから』はファンタジー世界を舞台とした恋愛ドラマである。思春期を迎えつつある中学生の少年少女たちの、繊細で不器用でしかし大人びてもいる危うい心の揺らぎは、観る者の心をも揺さぶってゆく。
しかし本作の魅力はそれだけには留まらない。陸と海との対立や禁忌、海の世界での環境汚染、伝説と世界の秘密――。物語の導入として、散りばめられたピースの数々を、映像レベルにおける説得力と共に、鮮やかに提示するその手さばき。ここで眺望された漣同士の干渉が、ここから一つの像を結びはじめる。

『凪のあすから』
/http://nagiasu.jp

[高瀬司]
アニメ批評ZINE『アニメルカ』編集長。最新刊は、マンガにおける「現代のニューウェーブ」を特集した特別号『マンガルカ vol.2』。他、商業ライターとしては『ユリイカ』(青土社)『オトナアニメ』(洋泉社)等に寄稿、WebメディアではAniFav(星海社)bonet(梵天)の編集を務める。
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