7月20日に全国公開となる宮崎駿監督5年ぶりの劇場アニメ『風立ちぬ』が完成した。ゼロ戦の設計者である堀越二郎の半生を追った作品だ。6月24日、その完成報告会見が、東京・小金井のスタジオジブリにて開催された。完成報告に姿を見せたのは、宮崎駿監督、主人公・二郎の声を演じた映画監督の庵野秀明さん、そして主題歌「ひこうき雲」を提供した松任谷由実さんである。スタジオジブリ映画ならでは、大物揃いの会見となった。トークは宮崎監督が、自身の映画を観て初めて泣いたとの驚きのエピソードからスタートした。監督は「こういうことはやってはいけない。みっともない」と話すものの、本作がそれだけ思い入れの深かった作品であったことを示したかたちだ。これに対して長年、アニメ制作などで付き合いのある庵野秀明さんは、「宮さん(宮崎監督)も、人前で泣くんだと」と驚いた様子である。庵野さんは「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズなどの監督でよく知られた存在だ。その監督のまさかの主演声優起用は多くの人を驚かせた。宮崎監督の評によれば“現代で一番傷つきながら生きている”、そうした声を持っていることが起用の理由だ。庵野さんは、「マイクの前に立つ人の気持ちが分かった」とこれまでにない体験に様々な驚きがあった様子である。アフレコに際しては、キャラクターを作らずそのまま演じた。宮崎監督も「演じたのでなくそのもの」と太鼓判を押す。一方、アフレコにおいては、宮崎監督にアドバイスをすることもあったという。「お節介とアドバイスをいろいろいただきました」と宮崎監督は明かす。「ひこうき雲」の主題歌も、サプライズなきっかけで決まったものである。昨年12月に、公開トークの本番で鈴木プロデューサーが直接、松任谷由実さんにオファーした。松任谷さんはこの曲をまだ高校生の頃、荒井由実の時代に創りだした。当然、当時はそんなことは思いもつかない。「出来ることなら高校生の頃の自分に教えてあげたい」と話す。『風立ちぬ』については、「一見は大人向けに見えるけれども、中学生、高校生にすごく響くのでは」との印象だ。「日本人、ひとり残らず観て欲しい」と絶賛する。宮崎監督は、「5年ぶりではなく5年間かかった」と作品を説明する。実際に作品が誕生するまでは楽ではなかった。「モデルグラフィックス」誌に自身が連載するマンガの映画化を提案された時は、“アニメーションは子どものもの”と考える宮崎監督はかなり迷ったようだ。しかも、本作を描く際には実際に起こった戦争を描く可能性もあった。その後、絵コンテを描くなかで、東日本大震災が起こるなど、このまま進めていいかとも迷った。「どうなるか見当がなかった」と話すほど、障害を乗り越えてきた。その結果生まれた『風立ちぬ』は、現実の人物をモデルにしたこれまでない宮崎駿作品に仕上がった。映画を創るうえで堀越二郎をほとんど調べなかったという宮崎監督は、「本当の堀越二郎とは違う。けれども精神において堀越二郎である」と自信を見せる。これまでの宮崎アニメとは全く異なる作品でありながら、誰もの心を打つ。いつもながらの宮崎監督の演出が冴える。監督だけでなく、観た人は思わず涙を流さずにいられない。『風立ちぬ』が、この夏に大きな話題になることは間違いなさそうだ。『風立ちぬ』 7月20日(土)全国ロードショー 公式サイト /http://kazetachinu.jp/ 原作・脚本・監督: 宮崎 駿(「月刊モデルグラフィックス」連載)音楽: 久石 譲(サントラ/徳間ジャパンコミュニケーションズ)主題歌: 「ひこうき雲」荒井由実(EMI Records Japan)
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