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前述のとおり、上映前は製作に至った経緯などが中心に語られたが、試写会後は、作品内容や、アニメ表現に踏み込んだ話し合いがなされた。まず、冒頭は小田部羊ー教授が観賞後の感想を述べた。
「漫画映画」と呼ばれる時代から業界に携わってきた小田部氏にとって、作品を見るときに意識するのは、如何にアニメーション表現が、登場人物の情念、情感を表現しているのかという点だと説明しつつ、本作ではアニメーターの立場で「すごいな、なぜこんな動きができるのだろうとか、こんなに線があるのに、なんでこんなに動くのだろう?」と動きに感動する旨を伝えた。
同時に「キャラクターが美しさを保ったまま、破綻がないんですよね。僕らの頃は今見返してみると変な顔をしているとか悔やむことばっかりなのに、それをどうして出来たんだろう」と精緻且つ安定したキャラクター描写に驚きを隠せなかった様子。そして最後は「よく作りましたね。感心しています。」と付け加えた。
これらキャラクターデザインについて、デザイン自体は、鉛筆でおこなっており、その工程は昔の東映や日本アニメの時とほとんど変わらないと、牧原監督。ただ、1割程度は最初からPCで描いている人もおり、牧原監督も絵コンテは全てデジタルでデザインしていると昨今の事情を述べた。
また、絵コンテを示しつつ、それらのシーンが如何に作られていったのかについて、牧原監督が解説。コマごとにラフで絵を描き、それを絵コンテ用紙に貼り付けるということもしたという。
一方、文字はそのままPCで打ち込んいるとのこと。これは、アニメーターや、音響、仕上げ、撮影担当がそれぞれコンテを確認するため、その時にストレスにならないようとの配慮からだと言う。
要な芝居をコンテで描き込んでしまうのも牧原監督の方式だとも。これは、テレビシリーズの様に、美術設定が話数をまたがって使えるのとは違い、『ハル』は、一点モノ多く、設定担当の時間も限られているため、描いてくれる人にも時間に限りがあるので、最初から発注できなかったと言う。絵コンテで設定までつくり、それをそのまま使ってもらうようにしたのだ。
これに対し、複数のシーンで使われている、ヒロインのくるみの家などは、美術設定に発注したとのこと。ただ、台所のシーンは、4、5カットしかないのに設定を細かく作ってもらっているので作品としてかなり労力がかかっていると繊細なシーンづくりについて改めて示した。ただ、設定を緻密にデザインしておくと、レイアウト工程において、そのまま活用することも可能であるという。
一見、豪華に見えるくるみの家は、もともと、くるみのおじいさんとおばあさんとの3人暮らしだったことからと、かなりディテールまでこだわって設定を考案している様子が垣間見れた。なお、『ハル』のクライマックスはかなり盛り上がるが、それについて総作画監督である北田勝彦氏は、「こんな感じにもってくるんだ!」と作りながら驚いたと言う。最初は少女マンガのような映像を作るというイメージだったが、牧原監督と仕事を進めていくうちに「これ少女マンガじゃないぞ!」と実感していったという。
これについては、牧原監督も「『ハル』は、木皿さんが言うようにハルの物語なんですよね。ハルがくるみという女の子を通して世界を知っていく」と、少女マンガのテイストとの違いを示した。ただ、キャラクターデザインが物語に対し、ポジティブに影響を与えるようなところもあったという。くるみのキャラが可愛いく生き生きしているのでそこに引っ張られて話がちょっとずつ変わってくるのを4月初稿から8月の最終稿までに確認出来たという。
なお、60分という長さについては、「観客に気軽に見ていただける時間は」と木皿さんに聞くと「50分」との返答があった」ことから進んだが、結局9分オーバー。なんとか色々調整してそのまま60分に収まったという。
ただ、脚本としては、かなり枚数が多かったと木皿さんが述べており、テレビシリーズはその半分で済む程だったと述べていた事に触れ、に「最終的にかなり削ってしまい、そこはすこし恨まれたとの牧原監督。
しかし、絵にたくさん詰めて省略しているので、色々なところで意味をつけたとシーンごとに込められた内容の濃さについて触れた。
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