日本のマンガ、アメリカンコミックス、ヨーロッパのバンド・デシネ(BD)と世界には様々なマンガ表現があるが、その源流は一体どこにあるのだろうか。そんな疑問に対する答えが、フランスのアーティストから与えられた。11月17日、東京・目白の学習院大学で開催されたブノワ・ペータース氏の講演「バンド・デシネの発明家にして理論家 テプフェール ―顔と線」がそれである。このなかでペータース氏は、19世紀初頭に活躍したスイスのロドルフ・テプフェールにその源流を求めた。ブノワ・ペータース氏は、作画のフランソワ・スクイテン氏と伴に共著する『闇の国々』シリーズで世界的に知られた作家である。このほど来日し、この日はスクイテン氏、そして日本のマンガ家・映画監督として知られる大友克洋氏によるシンポシウム「BDにおける身体」に参加するのに先立って講演を行った。作家、脚本家として知られるペータース氏だが、今回は研究家、理論家としての側面にスポットを当てたものだ。さらにペータース氏がマンガの源流として、日本ではまだあまり知られていないロドルフ・テプフェールにスポットを当て、その業績を紹介するかたちだ。絵物語は、世界各地で古くからあり、そうしたものとマンガを厳密に分けるのは難しい。しかし、ペータース氏があえてここでテプフェールをその源流とするにはいくつか理由がある。ペータース氏は、まず、それまでの絵物語と異なる要素として、テプフェールはひとつページにコマが展開するのを発明した人物だと指摘する。正直、それを断言することには、やや異論も感じられた。しかし、もうひとつの理由として挙げられたテプフェールが、自身のやりかたが新しい表現であると自覚を持っていたとの話はかなり納得がいった。つまり、テプフェールは文章と絵のつながりが、これまでにない表現だと考え、さらにそれを理論的に説明している。その表現は偶然でなく、意図されているという。文化のジャンルは、それが自ら意識された時に生まれるとすれば、そこにマンガの源流があるとの主張は十分に理解出来る。さらにペータース氏は講演のなかで、そうしたテプフェールの特徴や当時の評価、その理論を次々に紹介していく。目の動きに合わせた絵の配置がすでに導入されているなど、驚かされることも多く、新鮮かつ有意義な内容だった。また、作品の特徴として、ユーモア作品は時として時代遅れになりがちだが、テプフェールはそれが色褪せることがないとの話は特に印象的だった。さらにペータース氏の「BDは映画の真似と言われることが多いが、映画の発明よりかなり前にすでに同じ表現がマンガとして存在した」との指摘は、BDに携わるものとしてのプライドも感じさせた。第2部のシンポシウムでは、ペータース氏、スクイテン氏、大友克洋氏が、この講演を踏まえて、さらにペータース氏、スクイテン氏の仕事の様子をビデオ紹介し、日本のマンガ、フランスのBDの表現の仕方についてトークをした。さらに11月18日に、東京ビッグサイト・コミティア102会場内で開催される海外マンガフェスタでは、スクイテン氏とペータース氏がマンガ家・浦沢直樹氏とトークをする。また、大友克洋氏は、BD作家のエマニュエル・ルバージュ氏、バスティアン・ヴィヴェス氏と意見を交換する予定だ。[数土直志]
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