『ドットハック セカイの向こうに』松山洋監督インタビュー シリーズ10年の集大成としての映画 | アニメ!アニメ!

『ドットハック セカイの向こうに』松山洋監督インタビュー シリーズ10年の集大成としての映画

インタビュー

松山洋監督
  • 松山洋監督
(インタビュー:2012年1月)


フルCGビジュアルで描かれたアニメ映画『ドットハック セカイの向こうに』が全国公開中だ。ゲーム、アニメ、マンガなど様々な展開をする「.hack」シリーズの満を持しての劇場映画である。
映画の見どころの一つは、シリーズのゲーム映像も制作するサイバーコネクトツーがアニメーション制作を手がけたことだ。同社の技術が存分に発揮された作品となっている。
また、福岡県柳川市とオンラインゲーム「THE WORLD(ザ・ワールド)」が合わせて描かれているのも魅力である。
サイバーコネクトツーの社長であり、本作の監督でもある松山洋氏に『ドットハック セカイの向こうに』の制作の裏側と魅力を語っていただいた。

■『ドットハック セカイの向こうに』
http://www.dothack.com/


■ シリーズ10年の集大成としての『ドットハック セカイの向こうに』

アニメ!アニメ!(以下AA)
まず、映画の監督をなぜやられたのか伺っていいですか。会社の経営者、社長である方が監督というと皆さん驚くような気がします。

松山洋監督(以下松山)
ゲーム会社では珍しくないですよ。自分でやりたいことをやり、クリエイティブもやりたい。なので、自分で社長をやってクリエーターもやっています。
自分の会社をつくって自分で物を作るというのは、ゲーム業界は実は珍しくないんです。いわゆる経営者って感じでないですね。

AA
今回は非常に時間がかかったプロジェクトだったという話ですが、企画は何時頃スタートしたのですか。

松山
2008年の1月からです。ちょうど4年です。

AA それはどういうきっかけですか?

松山
弊社はもともとゲーム会社ですけど、2007年に映像チームをつくってCGアニメーションを1本作ったんです。『.hack//G.U.TRILOGY』という93分の作品です。
その時も私が監督させていただいて、当時のBlu-ray Discとしては異例の販売本数だったんです。

AA すごいですね。

松山
ええ。これで一定の評価をいただきました。
翌年の2008年1月に、バンダイナムコゲームスの鵜之澤伸副社長から、次は全国公開の映画をやりたい、そして3Dで立体視をやりたいと依頼されました。
弊社はゲーム会社なので、CGで立体視の研究はやっていたのです。その技術もノウハウも全部使えるという話をしたら、鵜之澤さんが「じゃあ、『.hack』で製作しよう。」と言っていただきました。

これまで10年、『.hack』シリーズが展開されていく中で、ゲーム、アニメ、マンガ、小説、ラジオ等いろいろやってきたけど、あとやってないのは映画ぐらいと冗談で言っていたんです。それを10年の集大成のつもりで『.hack』を映画にしたらどうだと言って貰えました。
そこから結果的に4年はかかりましたが、やることは全部やりましたね。


■ 最新テクノロジーと変わらない町・柳川

AA
脚本を伊藤和典さんが書かれているのですが、それも早い段階からですか?

松山
2008年に鵜之澤さんから、『.hack』の集大成ならば脚本はオリジナルの伊藤さんにお願いしようと提案されました。それで久しぶりに連絡して、「見せたいものがあるから、1回東京に来てください」と話して、パイロット映像と企画書を見ていただいたのが始まりです。

伊藤さんがきっかけで、東京じゃなく福岡を舞台にしようという話になり、じゃあロケハンしようと言う流れで、いろいろ福岡を見て回りました。
その結果どこがよかったという話をした時に、「やっぱり柳川だよね」と柳川に決めたんです。

AA
柳川のどこに惹かれたのですか。

松山
『.hack』シリーズには、いつもテーマがいくつもあります。そのひとつが最新のテクノロジーの移り行きと恩恵です。
例えばみんな意識してないだけで、携帯電話のようにいつの間にかテクノロジーの恩恵を受けているものがあるんです。 その一方で、変わらないもののよさもあると思うんですよ。その変わらないもののよさも同時に表現するのが『ドットハック セカイの向こうに』なんです。
田舎ほどその変わらないもののよさがあると思います。柳川を回ったときに、例えば水路、そして名物のウナギ料理、あと、柳の木。これはたぶん10年たっても20年たってもたぶん変わらないだろうと思いました。 変わらない町で、最新のテクノロジーの携帯や電子黒板などをみんなが自然に使っていて、時代は移りゆくけれども教室の机はパイプのままだったりするんです。
テクノロジーと変わらないものをバランスよく持っていこうと考えた時にちょうどいいなと思ったのが柳川です。


■ ふたつのCG表現の理由とは?

AA
テクノロジーの話が出たのですが、今回の映画はフル3DCGですが、異なる2つのタイプの絵が使われています。これは同じスタジオで作られているんですか。

松山洋監督(以下松山)
別々にしました。当然、監督や演出は弊社でやっています。けれどリアルパートの質感は、東京にあるCG制作会社、株式会社アニマで作っています。『THE WORLD』のパートは弊社制作です。
全体の演出や絵コンテは全部弊社でやって、最終仕上げも全部弊社でやっています。ロケハンはアニマのチームと一緒にやりました。

AA
このリアルパートのところを、得意とされているゲームのムービースタイルでやることも可能だったと思います。なぜあえてセルタッチに持っていったのですか?

松山
順番を言うと、最初に決めたのはゲームパートです。
ゲーム側の表現をこうしたから、じゃあ、リアルパートはこれと似てない表現にする必要があると考えました。『.hack』は、もともとゲームとリアルの二層構造ですが、これを混乱させては映画になりません。差別化をはっきりと図るというわけです。
いろいろ試したんですよ。アニメのようにセルっぽく表現するというのも試しましたが、最終的に淡い感じの水彩イラストタッチであるこの表現手法に落ち着いたんです。

AA
逆に言うと、今までの『.hack』のオリジナルアニメみたいに、本当に2Dスタイルにすることも可能だったと思いますが。

松山
その案もありました。けれど立体視だから2Dでやるとぺらぺらになって、明らかに嘘になります。ですので、今回はどちらもCGはフル3Dで起こしました。

AA ゲームとアニメの違いはどこにあるんですか。

松山
全然違いますよね。特に今回は全国の劇場で公開される映画ということを一番大きく意識しました。ゲームのお客さんとアニメ映画のお客さんって全然違うんです。

AA それは『.hack』でもですか。

松山
いや、もう関係ないですね。今回は全国公開するたくさんの人に観ていただく映画なので作り方を変えなければいけないんです。

ゲームソフトは発売日があって、この発売日と発売の週が一番売れるんです。それはなぜかかというと、多くのお客様はその日にゲームを買うことを決めるんじゃなくて、もう何週間も前から、その作品が発表されて、CMを見て、情報を集めて、そのうえで発売日にお金を持ってゲームソフトを買いに行っているんです。指名買いなんですよね。


けれど映画のお客様は週末に映画を観ることは決めているけど何を観るかは劇場で決める人が多いわけです。何の前準備もなしに観てもらえる工夫を、最初にやるべきだということで今回のスタイルです。


■ 映画づくりのこだわりと設計

AA
物語についても伺わせてください。テーマとして、まず友情があったと思います。それと、たぶん自分発見の話かなとも思いました。

松山
どちらかというと、一番考えたのは境界性の部分ですね。あいまいな部分です。
これは作品テーマのコピーにもなっています。劇中で田中が言う、「僕たちは、思ってる以上につながってるのかもしれない」というセリフが象徴しているんです。

今の中学生にとっては、会っていようがなかろうが友達は友達なんですよね。それがSNS等でも、目に見えないところでつながっている。このあいまいな感じ、それを表現したかったんです。今の時代を生きる中学生にとっては、それも友達なんです。
それを肯定する意味で、彼女らを主人公にして、あいまいな境界性というものを表現したかったんです。

そらちゃんは、この事件をきっかけに、人を好きになることを自覚するとまでも行きませんが、何となくほのかに感じた恋心とで、ちょっとだけ成長できたんじゃないかな。
そして田中と向き合うことによって、ネットワークの中にいるたくさんの人たちとのつながりを感じたと思います。そういう経験を通しての成長物語ですね。過程と、何の経験によって成長したかがすごく大事だと思いますので、そらちゃんの成長はそういった意図を持って描かせていただきました。

AA
映画の中でもっとオンラインゲームは素晴らしいみたいな言い方もできたと思います。そこがわりと客観的に描かれていました。

松山
そこは結構守ったリアリティーの部分です。実は、脚本の段階では、冒頭から日本中で大ブレークしているオンラインゲーム、街中至るところで『THE WORLD』、『THE WORLD』と言っていたんです。けれどもそれは切ったんですよ。

映画は、そらちゃんたちに感情移入をしてもらって見てもらわなきゃいけないのに、いきなり『THE WORLD』の話ばっかりされても、正直『THE WORLD』を知らないし、興味もないし、となります。
『THE WORLD』というネットワークゲームが特徴なんだから、そこはもっと立てなくていいんですかという意見はありました。
だけど、これはスタッフにも言ったのです。ゲーム会社に勤めているからそう思い込んじゃうかもしれないけれども、世の中の大半の人はオンラインゲームに興味がないだろうし、オンラインゲームに夢中で熱狂的に遊んでいるのはほんの一握りの人たちだから、今回オンラインゲーム万歳というような作品には決してしないと。

AA
冒頭はややスローテンポにスタートします。それが途中から次第に加速していく、最後ではらはらどきどきだったんですけど、あれは計算されていたのですか?

松山
意図的です。プロットの段階ではいろいろ案もあって、映画なので、最初に『THE WORLD』から入ろうぜみたいなアイデアもあったんです。けれども、いや、今回はそれではだめだと。
今回は何の前準備もなしに映画館に足を運んだ方も楽しめないといけないから、まずリアルパートだと。

そらちゃんという主人公、およびそれを取り巻く環境に共感してもらって気持ちを入れてもらわないと、そこから先には付き合ってもらえない。『THE WORLD』に入るというところまで気持ちを1つにしてもらわないといけないから、まだ早いと言って結構延ばしたんですよ。

2024年という12年後の未来、その世界で生きる中学生がどういう日常を過ごして、そらちゃんたちが何を考えて、そらちゃんがどうやってゲームで遊ぶきっかけが生まれるのかをちゃんと描かないと、誰も付いてこられなくなります。そこはすごく気を付けましたね。


■ 『.hack』シリーズの細かな仕掛け

AA
もう1つ疑問があったんですけれども、そらちゃんはアバターは自分で選んでないですよね。
ほかの人たちは、リアルの世界とオンラインの世界で対照的だったりと描かれているアバターですけど、なぜそらちゃんは自分で選ばなかったんですか。

松山
選ばなかったんじゃなくて、選べなかったんですよね。だってまことさんがキャラメイクしたでしょう。そこには秘密があるんです。
因果があるんです。結構熱狂的な人はもうみんな見抜いていますね。

AA そうなんですね。全然分からなかったです。

松山
『.hack』シリーズではそうしたしかけが細かく作られてます。これを本当に見抜いていくときりがないですけど、そこも繋がっているという発見は『.hack』シリーズの楽しみ方でもあります。

AA
そうすると映画は先ほども話されているように、一般の人からは入りやすいと同時に、従来のファンから見るとかなり掘りがいがあるわけです。

松山
そういうことです。そしてこの後の事件ともつながっているので、これは押さえておかないといけない事件です。


■ ゲームクリエーターはやりたいことは何だって出来る

AA
サイバーコネクトツーの映像制作専門の部署である、「sai -サイ-」についても伺っていいですか。これはなぜ作られたのですか。


松山
ゲーム会社はいろいろな力を持っていて、やりたいと思ったら何でもできると思っているからです。いま、ゲーム業界は売り上げが伸び悩んでいたり、海外の制作会社に押されたりしています。アニメ業界もそうだと思います。
そんな中で、いろいろな工夫や、こういう作り方をすれば、効率よく作品を生み出す事ができるということや、新しい事にチャレンジする勇気をさまざまなクリエーターに伝えたくて、ゲームクリエーターの可能性を広げる意味でも映像をやっています。
ゲームで培っている技術は、何にでも応用が利きます。だから我々はアニメーションもプロジェクトとしてやりますし、マンガだって作りますし、小説だって作ります。

AA
そうすると頭の中では、ゲーム、マンガ、アニメの区別はあまりないのでしょうか?

松山
してないです。
ゲームは総合芸術ですから、アニメも作れるし、マンガも、小説も、映画だって作れます。ゲームクリエーターはやりたいことは何だってできます。

AA
ゲームとアニメは、本来、技術的には近いはずなのに、ビジネス的にはかなり遠いように映りますが。

松山
そう思っている人が多いのは事実ですね。私はそう思ってないです。むしろくっつけたい、みんな一緒だと思っています。


■ シリーズの今後の展開は?

AA 今後もシリーズはさらに広がって行くのですか?

松山
この劇場映画を出来れば何回か観てもらえると、また気付ける発見があると思います。なぜだろうと考えればたぶん分かるヒントも隠されています。
この後に待っている事件がありますので、その発表を楽しみにしてほしいですね。

そこから先、『.hack』シリーズの今後の展望に関しては、それこそ本当にお客様の応援次第ですね。すべての作品は、お客様があって初めて成立するものです。お客様にとって意味のないもの、作りたいだけで誰も興味を持たないような作品になっていないか、どこにニーズがあるのかは絶対に考えないといけないですよ。
この映画がちゃんとヒットして、そしてこの後のゲーム作品にも期待が高まれば、おのずと作品は成長していくのでぜひ応援してほしいと思います。

AA 分かりました。私も応援します、本日はありがとうございました。

『ドットハック セカイの向こうに』
公式サイト http://www.dothack.com/
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